日本の寝たきり老人数、推定300万人以上は世界断トツ1位! 精神科ベッド数も全病床の21%で世界一…日本医療制度の欠陥と利権のせめぎ合い

病院の数も、ベッドの数も人口比にすれば世界でいちばん多いと言われる日本だが、その医療体制には大きな欠陥が潜んでいる。いったいなにが問題なのか…『世界で第何位?-日本の絶望 ランキング集』 (中公新書ラクレ)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

寝たきり老人の数世界1位

日本の寝たきり老人の数は、推定ではあるが世界ワースト1位である。また高齢者における寝たきり割合もおそらく世界ワースト1位である。

なぜ推定かというと、寝たきり老人の数を世界的に調査した近年のデータがないからである。

1989年の報告では日本の老人の寝たきり率は、施設入所者でアメリカの約5倍、在宅居住者でイギリスの約3倍、デンマークの約6倍で断トツの世界一だった(厚生科学研究特別研究事業「寝たきり老人の現状分析並びに諸外国との比較に関する研究」データより)。

近年はこの手の調査がないが、日本の寝たきり老人の数はあまり減っていないので、いまでも日本は断トツの世界一だと推定されるのだ。

日本では寝たきり老人が、300万人以上いると推計される。

2020年の介護保険事業状況報告(厚生労働省)では、施設に入所している寝たきり老人だけで、300万人以上おり、自宅等で寝たきりになっている人を含めればさらにその数は増える。



これほど寝たきり老人のいる国は、世界中どこにもない。

というより、日本以外の国では、医療機関などには「寝たきり老人」はほとんどいないとされている。日本以外の国は、自力で生活できなくなった人に過度な延命治療はしないので医療機関に寝たきりで何年も生きているというような人はほとんどいないのだ。

日本が高齢者大国だということを考慮しても、この数値は異常値と言えるだろう。

日本の寝たきり老人数、推定300万人以上は世界断トツ1位! 精神科ベッド数も全病床の21%で世界一…日本医療制度の欠陥と利権のせめぎ合い

この寝たきり老人が多いことの原因こそが、日本医療制度の欠陥の原因

この寝たきり老人が多いことの原因こそが、日本医療制度の欠陥の原因とも言えるのだ。

なぜ、日本にこれほど寝たきり老人がいるのかというと、医療現場では、「とにかく生存させておくこと」が善とされ、点滴、胃ろうなどの延命治療が、スタンダードで行われているからだ。

自力で食べることができずに、胃に直接、栄養分を流し込む「胃ろう」を受けている人は、現在25万人いると推計されている。



これらの延命治療は、実は誰も幸福にしていないケースが多々ある。寝たきりで話すこともできず、意識もなく、ただ生存しているだけ、という患者も多々いるからだ。

日本の場合、親族などが望んでいなくても、一旦、延命治療を開始すると、それを止めることが法律上なかなか難しいのだ。

「自力で生きることができなくなったら、無理な延命治療はしない」ということは先進国ではスタンダードとなっている。日本がこの世界標準の方針を採り入れるだけで、医療費は大幅に削減できるはずだ。

なぜ日本がそれをしないかという一因は、この延命治療で儲かっている民間病院が多々あることだ。
そういう民間病院が圧力をかけ、現状の終末医療をなかなか変更させないのだ。

「もう死ぬということがわかっているときには、安らかに死にたい」と多くの人が思っているはずだ。しかし、現在の日本の医療システムはそれを許さない。脳波があり、心臓が動いている限りは、あらゆる装置を使って一日でも長く生きさせようとするのだ。

それは、本人のためでも家族のためでもない。ただただ開業医の利益のためとさえ言ってよいと著者は思う。
ここでも「開業医の横暴」が、日本の医療を歪めているのだ。

精神科ベッド数が断トツの世界一

日本の医療において、「開業医が多いこと」と並んでもう一つ非常にいびつな構造がある。それは「精神科病院が多いこと」である。

あまり知られていないが、日本は世界の中で精神科病院がきわめて多い国なのである。しかも「入院型」の病院が多いのだ。

日本に精神疾患患者がそれだけ多いというわけではない。世界全体が精神疾患の治療を「入院型」から、「通院型」へ切り替えているのに、日本だけが「入院型」の治療を続けているからである。



日本の精神科の病床は32万3500床にのぼり、全病床のうち、21.6%は精神科なのである(2021年10月時点)。

これは世界的に見て異常な多さなのだ。
OECD加盟国の中で、人口1000人あたりの精神科ベッド数は、日本が2.6床で断トツの1位。2位のベルギーは1.4床なので、ダブルスコアに近い差がある(表17)。

そしてOECDの平均は、0.7床しかない。つまり、日本はOECD諸国の平均よりも、約3.5倍の精神科病床を抱えているのである。


そして、日本の精神科病床にはもう一つ大きな特徴がある。
それは民間の病院が非常に多いということである。精神科病床のうち、9割が民間のものなのである。OECD諸国の精神科病床のほとんどは公的病院なので、日本のそれは明らかに突出しているのだ。ここにも「開業医の利権」が大きく絡んでいるのだ。

日本の寝たきり老人数、推定300万人以上は世界断トツ1位! 精神科ベッド数も全病床の21%で世界一…日本医療制度の欠陥と利権のせめぎ合い

表17 精神科ベッド数(人口1000人あたり、OECD36ヵ国)。『世界で第何位?-日本の絶望ランキング集』より

日本では「精神科の病床が儲かる」

「民間の精神科病床が多い」ということは、日本では「精神科の病床が儲かる」と見ていい。

もし、儲からないのであれば、民間の精神科の病床がこれほど多くなるはずがない。

精神科の病床というのは、世界的に見ると1960年代から急激に減少し始めた。薬物治療の発達などで、これまで主流だった入院隔離から、通院治療、社会復帰を促す方向に舵を切ったからだ。

しかし、日本では逆に1960年代以降、精神科の病床が増えている。
なぜだろうか?

日本は戦前から1950年代まで結核大国であり、民間の結核療養所が多々あった。結核は感染症であり、戦前は不治の病とされ、発病してから死ぬまでの間に、隔離療養する施設が必要だったのだ。が、戦後は抗生物質による治療法が普及し、ほとんどの人が完治するようになった。そのため、療養施設の必要性がなくなった。

その大量の療養施設が、精神科に衣替えした経緯がある。

そして、その大量の日本の精神科病院は、世界の国々が通院治療に切り替えてからも、たくさんの病床を抱え入院治療を継続し続けてきた。

それは、民間の精神科病院の既得権益を守るためであると言っていい。
「国民の健康よりも、民間病院の権益を優先する」

それが、日本の医療の根本姿勢なのである。

「精神科病院が儲かる」システム

日本の精神科病院がきわめて多いのは、儲かるからである。

まず精神疾患の患者からは、確実に治療費が取れる。

生活保護受給者から治療費の取りっぱぐれがない、ということを前述したが、精神疾患患者にも同様のことが言えるのだ。

精神疾患の治療も社会保険が適用されるので、患者の自己負担は3割である。が、精神疾患の場合、自治体が患者の自己負担分を補助しているケースが多いので、患者の負担はゼロになっていることが多いのだ。

また精神疾患で入院するような患者の場合、精神障害者として認定されることも多く、障害年金を受け取ることもできる。すると、障害年金から治療費が支払われることになる。実際、障害年金の受給者の約6割は、精神障害・知的障害の患者なのである。

また精神医療というもの自体、儲けやすい仕組みになっている。

精神科の入院点数は、一般科の入院点数より少ない。だから、一人一人の入院患者から得る収入は、一般の病院よりも少ない。

しかし、精神科病院の入院患者は、あまり手がかからない。普通に生活できる人がほとんどなので、医師や看護士の数は少なくても大丈夫なのである。

日本の寝たきり老人数、推定300万人以上は世界断トツ1位! 精神科ベッド数も全病床の21%で世界一…日本医療制度の欠陥と利権のせめぎ合い

ほかの病気のように、検査や治療のための設備もほとんど必要ない

しかも、ほかの病気のように、検査や治療のための設備もほとんど必要ない。

つまりストレートに言えば、「元手がかからない」のである。建物さえつくっておけば、後はお金が入ってくるだけである。

しかも、精神科病院は、さらに危ないビジネススキームを持っている。

「一人の患者を長く入院させることで治療費を稼ぐ」
という方法だ。

精神科の平均入院日数は275.1日である。

一般病床の平均入院日数が16.1日なので、その差は歴然である。日本の精神科治療が、明らかに「長期入院」を主軸にしていることがわかる。

精神科にはうつ病などでちょっと短期間入院するという人も多く、そういう人たちは1ヵ月程度で退院することになる。

なのに、なぜ精神科の平均入院日数が275.1日にも及んでいるのかというと、何年にもわたって精神科に長期隔離入院させられている患者が多いからである。先進国で、このような長期入院を主体とした治療を行っているところは他にない。日本は完全に世界から遅れているのである。

このようにして、精神科病院は儲かっているのだ。

が、われわれが見過ごしてはならないのは、精神科病院の儲けというのは、われわれの払った税金や社会保険料で賄われているということである。

国の歳出のうち最も大きいのが医療費であることは前述したが、その大きな部分を精神科病院が分捕っていると言っても過言ではないだろう。

日本に集中治療室が少ないのも、PCR検査体制が途上国よりも遅れていたのも、この精神科病院の巨大な利権が影響している―そう著者は考えている。

文/大村大次郎

『世界で第何位?-日本の絶望 ランキング集』 (中公新書ラクレ)

大村 大次郎

日本の寝たきり老人数、推定300万人以上は世界断トツ1位! 精神科ベッド数も全病床の21%で世界一…日本医療制度の欠陥と利権のせめぎ合い

2023/8/9

¥946

224ページ

ISBN:

978-4121508003

情報調査のプロ・元国税調査官が分析! 日本のヤバイ真実

実は途上国並みの水洗トイレ、電柱事情。
医師の人数や集中治療室は少ないのに、精神科ベッド数は断トツ世界一。
韓国よりも安い賃金、低い製造業の労働生産性、低い大学進学率。
子供、若者の自殺大国。外国旅行は「高い買い物」になった日本人……


等々、50を超える国際データを比較検証。少子高齢化が進み、格差が広がる日本の衰退は防げないのか? 実質的に世界一の資産大国・債権国でもあることなど、希望の芽をどのように花開かせればいいのか? データ分析のプロ・元国税調査官が読み解く。

■本書の目次(一部抜粋)■

1章 社会インフラは途上国並み
2章 病院は多すぎ医者は少なすぎ…いびつな医療界
3章 なぜ日本経済は中国に喰われたのか?
4章 先進国で最悪の貧富の格差
5章 世界最大の債権国
6章 少子化問題は起こるべくして起こった