格安スーパー「オーケーストア」が銀座進出、違和感ありありの謎。銀座が“高級ショッピング街”として衰退したわけではないWIN-WINな事情とは

2023年10月17日、格安スーパー「オーケー」がフラッグシップショップとして銀座店をオープン。高級店が立ち並ぶイメージの強い銀座だが、近年ユニクロダイソーといった大衆店の進出が相次いでいる。

今、銀座の街に何が起きているのかを消費経済ジャーナリストの松崎のり子氏に聞いた。

安さを売りにする格安スーパーがなぜ高級街・銀座に?

日本を代表する繁華街にして高級ショッピング街、銀座。そんな超一等地に、格安を強みに首都圏を中心に展開しているスーパーマーケット・オーケーストアが、「マロニエゲート銀座2」のB1F・B2Fに出店。

百貨店や高級ブランドの路面店、オフィスビルが立ち並ぶ銀座という土地柄を考えると、購入した生鮮食品をスーパーのビニール袋に入れ、電車に乗って帰宅するという“絵”はいささか違和感があるが、オーケーの銀座進出にはどんな狙いがあるのだろうか。

「今回、オーケーが銀座に出店したのは、話題性の獲得と知名度のアップという狙いがあったと推察できます。銀座は東京を代表するショッピング街ですので、買い物客、通勤客、観光客など、さまざまな客層にアピールできるということもあり宣伝効果が大きいのです。

格安スーパー「オーケーストア」が銀座進出、違和感ありありの謎。銀座が“高級ショッピング街”として衰退したわけではないWIN-WINな事情とは

オーケーは2024年11月に東大阪市にも大規模店をオープンすることを公表しており、関西圏への本格進出も目指しているようですが、今回の銀座進出で今後の全国展開を見越しての弾みをつけようとしているのではないでしょうか。



ちなみに、私は実際に何度かオーケー銀座店を利用したことがあります。オープンしたばかりなので、まだ店づくりは試行錯誤の段階なのかもしれませんが、訪日観光客を意識したお菓子コーナーが目立ってきました。

銀座はオフィス街でもあるので、お昼のお弁当を買ったり、仕事帰りに夕食の惣菜を買ったりする通勤客の需要が増加すれば、それに応じた売場づくりをしていくということも考えられます」(松崎氏、以下同)

大衆店がこぞって進出、その背景にはコロナ禍の影響

2022年はダイソーや3coins、ワークマンなど格安店の銀座進出が目立った。いずれも今回のオーケーのように知名度・話題性の獲得を狙ったチェーン店としてのブランド力の強化が考えられるが、大衆店の銀座進出の背景にはコロナ禍の影響が大きいのだと松崎氏は言う。

「2022年というと新型コロナウイルスがまだ流行している時期でしたので、客足が遠のいて売り上げが落ち、銀座価格の高額なテナント料を払えずに店を畳んで出ていく企業が多かった印象がありました。

そして、テナントの入れ替え時期も重なり、撤退した企業の跡地に勢いのある企業が出店していったという流れがあったのです。ご時世柄、勢いがあったのがリーズナブルな価格帯のチェーン店だったということでしょう」

格安スーパー「オーケーストア」が銀座進出、違和感ありありの謎。銀座が“高級ショッピング街”として衰退したわけではないWIN-WINな事情とは

現在、コロナはほぼ収束したものの、不景気のうえに物価高と日本を取り巻く社会状況は厳しく、消費者の“買い物離れ”が進んでいると言われているが、こういった社会的背景も大衆店の銀座進出に影響があるのかもしれない。



「現在の日本経済の状況が手頃な価格の企業が銀座に進出している要因だと結びつけるのは、早計に感じますので、結論づけられるのはもう少し後になるでしょう。ですが、いろいろな物が値上げされていたり、消費者の財布事情が厳しい状況だったりすると、安い物に人が集まるのは明白です。

おそらく現在の銀座には、ローコストの業態の企業が密集するエリアをつくるという動きがあるのでしょう。ユニクロや無印良品などの集客力があるブランドは、テナント側から「うちのビルに入ってください」と声がかかることもあるそうなので、20代、30代の若い世代も呼び込むため、今後も銀座に大衆的な店が増えていく可能性は高いと考えられます」

若返りを目指す銀座、さらなる複合的な顔を持つ街へ

銀座といえば、どうしても“経済的に裕福な年代高めの人々の街”というイメージを抱きがちだが、それは街の一面にすぎない。

「今回、オーケーが出店した場所は有楽町駅に近く、銀座ではもともと若いビジネスパーソン向けの店があるエリアでもあります。つまり銀座は昔から、高級ショッピングだけでなく、リーズナブルな買い物もできる一面もあり、複合的な街だったのです。



そして、そこに手頃な価格帯で集客力を持つ企業がさらに入ってくれば、若者層を呼び込みイメージを一新できると考えているのではないでしょうか。つまり、街の若返りを目指したい銀座にとっても、旗艦店としてアピールしたいオーケーのような企業側にとっても、WIN-WINな進出なのだと思います。

格安スーパー「オーケーストア」が銀座進出、違和感ありありの謎。銀座が“高級ショッピング街”として衰退したわけではないWIN-WINな事情とは

銀座は築地や日本橋、浅草など江戸情緒を感じる街が隣接しており、他の高級エリアと比べても独特な街です。そのためインバウンド消費のボリュームが大きく、日本人が買い物する街というだけでなく、訪日観光客向けの街にもなりつつあります。

コロナ禍での制限がまだあった昨年の段階で、ダイソー、3coins、ワークマンなどを出店させたのは、旅行で訪れた外国人客が戻ってきた際に、リーズナブルな価格帯でお手頃なお店が密集している街としてアピールできると考えた、先行投資的な意味もあったのかもしれません。

高級な街というイメージが急激に変化するわけではありませんが、ブランド品だけではない“お得な街”というイメージを抱くようになるかもしれません」

オーケーのような格安チェーン店の銀座進出は一見すると違和感があったし、うがった見方をすると銀座の持つ高級なイメージやブランド力が衰退しているのではないかとも思えた。



しかし、必ずしもそうではなく、ショッピング街として新たな魅力を発信して街全体を若返らせていくために、手頃な価格のブランドを銀座に呼び込んで、若年層やインバウンド客などを取り込む戦略に舵を切っているということだ。

取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio) 写真/shutterstock