
「子供の教育にどれくらいのお金を使えば、東大に合格できるのか?」多くの受験生を持つ親が気になるこの問いを、東大生100人への独自アンケートをもとに、東大ライターが徹底的に考えた『東大合格はいくらで買えるか?』(星海社新書)より一部抜粋、再構成してお届けする。
高校生の2人に1人以上が塾通い
高校時代に塾に通っている人の割合は65%でした。中学校よりも塾通いの比率は増えており、やはり高校からの大学受験に向けて準備をする家庭が多いのでしょう。
河合塾や、駿台予備校、東進衛星予備校など有名どころの名前が多くあがっていました。また、東大医学部専門対策塾として名高い「鉄緑会」も中学校から変わらず通っている人がいるようです。
鉄緑会は、東大や医学部などに入学することを目的として勉強する学生が集まる塾です。その特徴は、異常なまでの授業スピードと課題量にあります。中学1年で中学全範囲の学習を終わらせ、中学3年までに高校全範囲を修了します。
聞いた話になるのですが、鉄緑会に通っている人たちは、学校の授業中にも先生の話を聞かずに塾から出た課題を解いているのだそうです。それは、授業中にも集中してやりこまないと終わらない量の課題が出ているからです。東大合格率50%を誇る代わりに、普通の受験生の2倍以上の演習を積ませて徹底的にしごきあげるスパルタ方式の塾です。
一方で、去る者は追わず的な姿勢をとっているのも確か。課題量で生徒を窒息させる授業スタイルや、時に厳しすぎるような指導には否定的な声も多くあるのも事実です。
また、鉄緑会には入ろうと思って入れるものではなく、やはり難しい入塾テストを突破しなくてはいけません。開成中学などの一部超進学校に入学できれば、中1の春のみ鉄緑会の入塾テストが免除されるのですが、そこまで頭のよい人が果たして鉄緑会に通う意味があるのかは、はなはだ疑問に思うところです。
私の個人的な所感ですが、鉄緑会はもともと頭のいい人たちを徹底的に鍛え上げて東大を目指させる場所なので、「今は力不足だけど、頑張って努力して東大にチャレンジしたい」と考える人の通う場所ではありません。
例として、河合塾の高校コースの料金を見てみましょう。高校コースは中学コースと異なり、学年や受講目的、授業時間などによって細かく区分されています。
高校1年生が対面式授業で、150分の授業を受けた場合を想定してみましょう。この時、1講座当たりの授業料は6450円となり、4月から12月までの26回の講義で、合計167700円となります。これはあくまで1つの講座を通年で受けた時のものなので、実際は167700円×(受けるコマ数)となります。仮に国語・数学・英語・社会・理科の5科目で受講した場合には、167700×5=838500円がかかります。
さらに、これに加えて夏期・冬期の特別講習費用がかかります。これは河合塾生の場合、1コマ当たり18700円(2023年執筆時点)ですので、これも5教科分をとった場合には、18700×5=93500円がかかります。これが夏期と冬期で1回ずつかかるので、合計額は187000円です。通常授業の料金と合わせて、ちょうど100万円を超えてくる計算になります。
本格的に受験勉強を始める高2の予備校費は?
高校2年生になると、さらに料金は変わります。高校2年生の講義は、高校1年生の1月から始まります。
高校2年生からは多くの学校で文理選択が分かれますが、東京大学を受験する場合には、文系理系かかわらず、国語、英語、数学、社会、理科の5科目が必要になります。それぞれ1コマずつとったとすれば、225750×5=1128750円かかります。これに夏期と冬期の特別講習が入るので、高2の合計額は130万円ほどになるでしょう。
高校3年生になると、なぜか同じ授業分数でも1講あたりの授業料が上がります。さらに、授業分数も180分授業が受講できるようになり、受験戦争が白熱してきたことを知らせてくれます。仮に対面型の180分授業を通年でとったとすると、1講あたり7950円が、スタート学期の1月から12月までの35講分で278250円となります。やはりこれも1コマ当たりの料金なので、実際はコマ数×278250円となります。
東京大学を文系で受験するのであれば、国語、英語、数学に加えて、社会科2科目(世界史、日本史、地理から2科目選択)と、理科基礎2科目(物理基礎、化学基礎、生物基礎、地学基礎から2科目選択)が必要になります。それぞれの科目について1コマずつとるなら、278250円×7科目で1947750円がかかります。
実際は、理科基礎など自習で済む科目は自習で済ませることも多いですが、国語、英語、数学、社会2科目くらいは多くの学生が受講しているでしょうから、高3の塾代は140万程度の出費を覚悟した方がいいでしょう。
ちなみに、150分授業や180分授業をやりすぎだと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ここには「東大文類数学」や「東大英語」「京大国語」などが含まれています。東大京大レベルの学校を目指す学生であれば、これらの授業から逃れられないと考えた方がいいでしょう。
もちろん授業分数が短くなれば、それだけ講座の値段は安くなります。あまり良い選択肢とは言えませんが、財布と相談して授業のレベルを一段下げることが視野に入る家庭もあるかもしれません。
高校3年生の段階だけで200万がかかるシミュレートも可能であることに驚いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。我々の想定している「塾代は年額100万円」が、実際のところは、むしろ安く見積もっていることにご納得いただけるでしょう。3年間通うと、学費とは別に200万~400万円がかかってしまう大学受験。
仮に私立高校に通いながら、河合塾や駿台予備校に3年間通うのであれば、高校の学費300万+塾代200万~400万と、最大700万円近くもかかってしまうことになります。
賢い方は気付かれているかもしれませんが、大学受験戦争において、資金的にネックとなるのは高校在学時の学費です。基本的にどの予備校や塾に通っても、大学受験コースになると値段が一気に跳ね上がります。そのため、仮に塾に通うとした場合、高校3年間の学費は中学3年間のそれを大きく上回る結果になります。
もっと無駄だったと語る教育投資はまさかの…
高校時代の無駄だった教育投資も聞いてみました。多くの人は「なかった」と答えているこの質問ですが、その中で「無駄だった」という声があるものには共通点がありました。
それは、オンデマンド式の映像授業。それぞれが挙げる塾名は違いますが、多くの回答者が「映像授業は結局受けなかった」「モチベーションが上がらずやる気にならなかった」「自習室目当てに加入したが、結局まったく使わなかった」としているのです。
確かに、オンデマンド式の映像授業は、扱い方が難しい側面があります。オンデマンドであれば、いつでも受けられるのだからお得に感じるかもしれません。ですが、「いつでも受けられる」ことは「いつか受けなくてはいけない」わけではありません。
たしかにお金を払っている親からすれば、「いつかは受けてほしい」と思うかもしれませんが、強制力のないオンデマンド式の授業はモチベーションがわかず、結局受けないで終わってしまう人も多いのです。
また、これは映像授業を受けたことのある私の個人的な感想ですが、映像授業になると、対面型のライブ授業よりも理解力が落ちるような気がしています。目の前に先生がいないので、極端な話をすれば、寝てもサボっても怒られないわけです。授業内の程よい緊張感が存在せず、自分でこの授業を受けようとする意思がなければ、結局時間を無駄にしてしまいます。聞こうとも思っていない話なんて、当然理解できるはずもありません。
さらに言えば、仮に真面目に聞いて、わからない部分を質問しようと思っても、目の前に先生がいないのですから、質問のしようもありません。
「いつでも受けられる」からこそ、「いつでもできるなら、後でいいや」と後回しにされてしまう。よっぽど自己管理がうまい人でないと、映像授業型の塾を活用するのは難しいかもしれません。
文/布施川天馬
東大合格はいくらで買えるか?
布施川 天馬