東京・上野で焼肉店など飲食店を多店舗展開していた宝島龍太郎さん(55)と幸子さん(56)夫妻が殺され、栃木県内で火をつけられて遺棄されていた事件はゴールデンウィーク最終日の深夜、急展開を見せた。指示役や仲介役、実行犯など4人の「黒幕」として逮捕されたのは、夫妻が最も信頼していたはずの「身内」である長女の内縁の夫、関根誠端容疑者(32)=東京都世田谷区=だった。
「正直、敵は多かったと思います」
長女は事件発生当初の集英社オンラインの取材で、両親についてこう語っていた。
「敵は多かったと思いますよ、実際。同業者に狙われてたのかなとも思います。店舗数も多いのと、ましてやあの町ですし。目をつけられたこともありますし、私も帰り道は気をつけてるって話はずっとしてたんですけど、特定の誰かというよりかは、ライバルが多すぎてわからないです。
1つの場所、台東区の上野周辺であれだけ店舗を構えてれば狙われますよね。派手だったと思いますし、あの町から出たことがないので有名だったと思いますよ。
しかし、大型連休に突入し、仲介役に続いて実行犯、指示役らが両親の死体損壊容疑で次々に逮捕されると、取材班の記者に対し、長女はこんな問いかけをするようになっていた。
「(犯人に対して)何か情報あります? 逆に知りたいんですけど。
「主犯格は何が狙いなのかかわからない」
長女は被害者家族だが、捜査本部からは接触がなく、事件の情報に飢えていると自ら打ち明けていた。同居している内縁の夫と一緒に、両親の亡骸がある栃木に一緒に行かないのか尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「警察からいつ連絡来るかわからないですから。(那須へは)一回も行ってないです。
宝島さん夫妻は事件前日の夜、上野から第三者の車に乗って品川区に移動し、新規店舗用の物件探しに出かけたことが判明しており、その話題になると、長女はこういぶかしんでいた。
「上野から乗っているんですね。(じゃあ同乗したのは)上野の関係者ですよね、絶対に。『黒幕Xの正体』みたいな記事を読んだんですけど、警察の言う、Xが誰なのかとか、事件自体、ちょっと映画っぽいじゃないですか。実際にこんなことってあるの?って。
長女もそのXが自分の最も身近にいるとは思いもよらなかったに違いない。しかし、捜査本部の包囲網が狭まるのと呼応するように、客引きに絡んでライバル店と揉める“尖兵”的役割の関根容疑者と、「指示役」として逮捕された“キャッチ”の佐々木光容疑者(28)がガールズバーなどで交遊していたことなどが取材でも浮き彫りになり、関根容疑者が「X」としてマークされていたことも事実だ。
長女とその後、数回連絡をとると、思いあたる節もあったのか「関根が疑われているのでしょうか?」と不安気な様子をみせていた。
誰よりも顔を隠していた関根容疑者
事件の逮捕者らとの接点など数々浮かんだ疑問点を事実確認しようと、取材班は5月1日、関根容疑者を直撃している。
同日午後0時45分頃、関根容疑者は世田谷区の自宅駐車場から白いヘルメットをかぶってアメリカンタイプのオートバイにまたがり、くわえタバコで走り出した。記者は急いで走って追いかけ、信号待ちしているところに声をかけた。
——突然申し訳ないです。関根さんですよね?
「……」
——集英社オンラインの記者です。少しお話できませんか?
「……」
サングラスをかけた関根容疑者は、タバコをくゆらせながら無言で記者のほうを見据え続けた。サングラスの奥の視線は判然としないが、睨みつけるような殺気を放っていた。
——今お話するのがお辛いようでしたらまた出直します。
「……」
——またあらためますね。
「(左手を添えて咥えていたタバコを右手に持ち変えて)もうあらためないで」
そう一言だけ放ち、関根容疑者はバイクで走り去ったが、その後、記者があらためて直撃する機会は訪れなかった。
5月6日に逮捕された関根容疑者は、大崎署からの移送のため翌7日に報道陣の前に姿を現した。実行犯たちから恐れられた男はジャンバーをかぶって顔を覆い、前かがみに歩いていた。これから捜査本部の厳しい取り調べが待っている。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班