居酒屋店主が客の腹に包丁を刺し、意識不明の重体に――。昨年12月の忘年会シーズンに世間を騒がせたのは、東京都大田区の居酒屋「せきどん」の店主、関川崇志(51)さん。
酒癖が悪かった被害者男性
「あれはわざと刺してやろうと思っていたわけじゃなくて、酔っぱらったAさん(被害者の男性)をなだめようとしたら、たまたまナイフが刺さってしまったんだ。それなのに、まるで僕がヤカラみたいに書かれているから本当に迷惑してるんですよ」
そう語るのは、京急本線雑色駅のすぐそばに店を構える居酒屋「せきどん」の店主、関川崇志さんだ。関川さんは昨年12月7日の午前4時50分ごろ、店内にて常連客のAさんの腹を刺すなどして大ケガを負わせた。
直後に関川さん本人から110番通報があり、警視庁蒲田署員が駆けつけたところ、Aさんが右脇腹から大量出血しており、店内にいた関川さんが「口論になり刺した」と認めたため、現行犯逮捕した。
事件の報道があった12月7日にはネットでも大きな話題となり、Xユーザーからは「包丁で客を刺すとか治安悪すぎ」「その店主カタギじゃないだろ」といったコメントが多数ポストされた。
しかし、事件当日の状況について関川さんはこう説明する。
「その日は夜8時ごろから、Aさんを含めた3人の常連客が『せきどん』で飲んでいました。閉店後、彼らは近くのスナックで飲むというので僕も合流したんですが、深夜3時にそちらも閉店になってしまって。
始発まではまだ時間があり、その3人が『寒いからせきどんで待たせてくれ』と言うので、うちで飲み直していたんです。2軒もハシゴしてるのでAさんはそのときすでに相当酔っぱらってましたね……」
関川さんはAさんとは仲がいいが、その酒癖の悪さには悩まされていた。
「Aさんは酔っぱらうと『なんだこの野郎、かかってこい!』と絡むような人で、それが原因で出禁になった居酒屋やスナックもあった。
うち(せきどん)でも『声がデカいから静かにしろ』と注意したら、『俺は格闘技をやってるからケンカには負けねえんだ!』とすごんできたことがあって、僕はたまたまとんかつを切るために研いでいた牛刀を、カウンター越しに見せて『どんなに強くても刺されたら終わりだよ』と言って、おとなしくさせようとしたことはある。
もちろんそれを含めて、包丁で誰かを傷つけようとしたことなんて一度もありませんが」
気がついたらイスの下に血だまりが…
事件の間接的なきっかけとなったのは、この1ヶ月ほど前、Aさんが出禁になった居酒屋に関川さんとふたりで訪れたときのことだった。
「僕が仲裁しようと思ってたんです。でも席についてお酒を注文したところで居酒屋のオーナーがAさんの存在に気づいて追い出されてしまったんです。
しかたなくうちに戻ってきたんですが、そのお店で会計をするのを忘れてたんで、Aさんに私の財布を渡してその居酒屋に支払いに行ってもらったんです」
すると難癖をつけに来たと勘違いしたオーナーが警察に通報。
「Aさんは『財布なんて預かってねえよ』と言うんです。そして、『かかってこい』と激高して、カウンターをバンと叩いて立ち上がったんです。
僕はまた『いくら強くても刺されたら終わりだぞ』と言ってなんとかなだめようとしたんですが、『俺はキックボクシングもムエタイもやってるからどんなことにも反応できるんだ!』と聞かなくて……」
同じく酔っぱらっていた関川さんはAさんの頭を引っぱたこうとキッチンからフロアに出ようとした。そこで目に入ったのが、事件の凶器となったペティナイフだった。
「しまい忘れた包丁をつい手に取ってしまって……。ただAさんを傷つけようとなんて一切してません。その場をしずめるためにAさんが着ていたフリースを引っ張って、体との隙間に刺したんです。『ほら、反応できなかっただろ』と言っておでこをペシッと叩いて、キッチンに戻りました。
しかし、4、5分後、Aさんが『痛いかも……』というので見てみると、Aさんが座っていたイスに50センチくらいの血だまりができていて。
Aさんは恰幅がいいし、当日は濃い茶色だか紫のフリースを着ていたので、刺したことにも血が出ていたことにも全然気づきませんでした……」
被害者男性から釈放祝いのプレゼント
さらに気が動転した関川さんは救急車と間違えて警察に連絡をしてしまい、事件となってしまったというわけだ。
全治3ヶ月の重症で現在も通院中の身。しかし、「訴えようとか被害届を出そうとか思ったことはない」とAさんは関川さんを咎めることはしない。
「あれはただの口論の延長で、ナイフもたまたま当たっただけ。包丁を持ち出すこと自体、一般の人には理解されないと思うけど、俺と関川はそういう関係なんだよ。
刺された瞬間? 痛いというより熱い感じだったな。
こうして12月21日付けで不起訴処分となり、翌日に釈放された関川さんは、3週間後に「せきどん」を再開。退院したAさんと久しぶりに再会したときは、「おわー、大丈夫だったか?」とお互いの肩を叩き合い、「釈放祝い」としてタバコを1箱プレゼントされたという。
警察に処分されたペティナイフの代わりに新調した包丁は、しまい忘れないよう細心の注意を払っている。
なんとなく美談におさまったような形だが、しかし、世間はそうは見てくれない。
「売上は4分の1になりましたし、ここがオープンしてからずっと来てくれてた常連さんも来なくなりました。おまけに事件直後は、通行人がうちの看板をバシャバシャと写真を撮ったり、酔っぱらった若者が『ここだよ、ここ!』と入ってきて、『牛刀出せよ!』とからかわれたりと散々な目に遭いました」
それでも関川さんは「もし店をやめたら、罪を認めたみたいになるから絶対にやめない」と前を向く。
「この記事で『せきどん』を知った人はぜひ一度、食べにきてほしい。うちは国産豚にこだわったトンカツやポークソテーが売りですよ!」
今度はその料理の腕前で、世間から注目を集めてほしい。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班