
女子卓球の日本代表エースとして、パリ五輪で活躍をみせている早田ひな。前回の東京五輪ではリザーブに回っていたものの、この4年間で急成長を遂げ、一気に不動のエースとなった。
4年で日本のエースに成長した早田ひな
2000年7月7日生まれの早田は現在24歳。一般的に20代前半から半ばほどがキャリアのピークといわれている卓球選手にとっては、最高のタイミングで大会を迎えることになった。
パリ五輪の日本代表を決める選考ポイントレースでは、2位の平野美宇を大きく突き放してぶっちぎりの1位。今年1月に行われた、卓球の全日本選手権では、成長著しい期待の新星・張本美和をゲームカウント4対0のストレートで下し、2大会連続3回目の優勝を果たしている。
もはや国内では敵なし状態で挑むパリ五輪。目指すべき金メダルに向けて立ちはだかるのは、高い高い中国の壁だ。
それにしても、早田はなぜここまで強いのだろうか。
彼女の強みについて、東京大学卓球部OBで、24時間営業の次世代卓球場『スマート卓球ジム』代表の大丸宙也さん(@daimaru_hiroya)と、チャンネル登録者数179万人のYouTubeチャンネル「卓キチちゃんねる」を運営する、国内最高クラスの卓球インフルエンサー・中西淳さん(@nknsj)にそれぞれ話を聞いた。
まず中西さんは、4年前の悔しい経験が、早田を今のレベルにまで押し上げているのではないかと話す。
「早田選手の同い年には、伊藤美誠選手と平野美宇選手がいて、彼女たちは10代半ばの頃から目立った活躍をして、前回の東京五輪でも早田選手がリザーブに回る中で、2人は結果を残していました。そういった悔しい思いをし続けていたからこそ、早田選手は誰よりも頑張れたのではないかと思いますね」(中西さん)
早田の強みの一つには、技の豊富さがある。
また、身長167cmの長身から繰り出されるこれらの多彩な技は、盤面のあらゆる場面、そしてどんな相手にも対応できる可能性を秘めている。
「身長の高さもリーチが長くなるという意味では大きなアドバンテージですが、卓球に関しては身長が高ければいいというわけではなく、リーチが長い分、体の正面付近のコースへの対応が難しくなるという面もあります。
しかし、早田選手は非常に体が柔らかいため、そこへの対処が上手く、長身の不利な部分を解消しています」(中西さん)
これまでの日本選手とは違う強み
一方で大丸さんは、早田の強さには、「強烈なフォアハンド」「ブロック」「笑顔」の3つの理由があると分析する。
「早田選手の特徴は、長身と長いリーチを生かした左腕からの強烈なフォアハンドドライブです。この1点に関しては、中国選手含め世界一の強打を繰り出せます。このフォアハンドを活かすための、サーブ・レーシブ・バックハンドなどの周辺技術もここ数年で飛躍的に向上しています。
また、ブロックからの展開で点が取れるのも、彼女ならではの強みです。卓球は守りより攻めの方が有利なスポーツなので、トッププロの世界でブロックという技術はそこまで多く使われません。ところが早田選手は、このブロックを戦術の1つとして中国選手から得点できるのです」(大丸さん)
通常のブロックは、卓球台からできるだけ離れないことが鉄則。離れすぎると、大きく左右に揺さぶられたときに対処できないからだ。
しかし、早田は長身で手足が長いため、ほかの選手より1歩後ろに下がった位置からでも、広角に打ち分けられたボールに届くことが可能。
「そして彼女は何より、試合を心から楽しんでいるのが印象的。ここ数年の早田は、試合中に笑うことが非常に多いです。特に競った試合こそよく笑います。ムリに笑って緊張をほぐそうとしているわけではなく、1球の駆け引きを本当に心から楽しんでいる、といった表情です。
試合後のインタビューを聞いても、試合が本当に楽しくて仕方がないのだと思います。中国選手が、王者として絶対に負けられないプレッシャーがかかる中で、早田選手のマインドは精神的に優位に立っていると感じます」
恵まれた体格に甘えることなく、悔しい経験をバネにして心身ともに日本のエースへと成長した早田。今では“歴代最強の日本女子卓球選手”と言っても過言ではなさそうだが、この点に関してはインタビューに答えた2人ともに、「それは今大会の結果次第」と口をそろえる。
「2018~2020年頃の伊藤選手が本当に強かった」
中西さんは、「もちろん今は早田選手が一番強い」と前置きしたうえで、対中国の成績や大会での実績を考慮すると、まだ歴代最強とは言い切れず、同世代の伊藤や平野とそれほどの差はないと指摘する。
また、大丸さんも「史上最強選手の筆頭候補では間違いなくありますが……」としたうえで、伊藤の名前をあげた。
「やはり、2018~2020年頃の伊藤選手が本当に強かったですからね。2018年の世界選手権団体戦決勝で、対日本選手37連勝中だった中国の劉詩雯に勝利したのを皮切りに、数年間で中国選手にシングルスだけで10勝以上上げ、実力は中国選手とほぼ同等、どちらが勝つか本当にわからないというレベルにありました。
いまの早田選手には、そんな当時の伊藤選手に近い雰囲気を感じます。今年の世界選手権団体戦決勝で、東京五輪金メダリストの陳夢に勝利したのも同じですし、この1~2年の国内選考会や国際大会での成績は、安定感でいうと当時の伊藤選手以上だと思います。
しかし、中国選手からのシングルスでの勝利数はまだ伊藤選手ほどではないですし、当時の伊藤選手を差し置いて“史上最強選手”というには、パリ五輪の結果を踏まえないとフェアじゃないな、というのが個人的な意見です」(大丸さん)
伊藤は前回大会で、日本女子選手としては、はじめてのシングルスでのメダル、銅メダルを獲得し、混合ダブルスでは頂点に輝いた。早田は残念ながら今回、混合ダブルスは敗退してしまったが、まだシングルスと団体戦を残している。
ここで結果を残し、名実ともに日本女子の史上最強選手になれるのか。これからの戦いに注目だ。
取材・文/集英社オンライン編集部