
M-1王者、R-1王者の二冠に輝き、テレビに劇場に引っ張りだこのマヂカルラブリー・野田クリスタルさん。最近ではゲーム開発やパーソナルトレーニングジムの運営にも携わっており、その多才さはとどまるところを知らない。
プログラミングは独学。「ggrks(ググレカス)」とネットで叩かれながら学んだ
物心ついたときからポケモンやたまごっち、ヨーヨーなど“流行りモノ”が好きだったという野田さん。テレビゲームにも熱中し、小学5年生頃から「ゲームを作ってみたい」と思うようになった。
「ストリートファイターやバイオハザードが好きで、こういった格闘ゲームやゾンビゲームを自作できたらいいなと思ったんです。それで、オリジナルのRPGを作れるスーパーファミコンのソフトを使い、何時間もかけて、なんとか遊べるゲームのようなものを完成させました」(野田クリスタル、以下同)
本格的にパソコンを使ったゲーム制作に取りかかったのは25歳のときだった。お笑いライブの企画で、ネタ以外のコンテンツを披露することになり、「自作ゲームを舞台で披露してプレイする」というアイデアを思いついた。
「まずはプログラミングを勉強しようと思いましたが、実は教材はほとんど読まず、インターネットを先生にして学びました。僕の場合、人から一方的に教わると、そのことを楽しむ気持ちがなくなり、すぐに興味が薄れてしまうんです。だから、完全に独学で学びました。
ただ、この方法には限界があって、ネットの情報だけでは理解できない部分もありました。
自作したゲームを「野田ゲー」と名付け、ピン芸として披露していた2020年、ある転機が訪れる。
ゲームが上手くない僕にしかできない仕事がある
吉本興業を介し、ヒットゲーム『ことばのパズル もじぴったん』の生みの親で、面白法人カヤック所属のゲームクリエイター・後藤裕之さんとつながったのだ。後藤さんを「(ゲームの)変態」と称するほど尊敬している野田さんは、彼と会うとすぐに意気投合し、ゲームソフトの開発に乗り出すこととなった。
そして2021年、面白法人カヤックが開発、野田さんが総監督を務めたNintendo Switch用ソフト『野田ゲーPARTY』を発売。販売本数10万本を突破するヒットとなった。
野田さんはその後、東京ゲームショウにブースを出展したり、アーケードゲームをプロデュースしたりと、ゲームクリエイターとしての仕事も増えていったが、意外にも、「ゲームは好きなことの延長だから、この道を極めて儲けたいわけではない」と語る。
「僕、そんなにゲームが上手くないんですよ(笑)。もちろん真剣にやってるつもりなんですが、eスポーツ選手のプレイを見ると、自分の実力不足を痛感します。でも、“ゲーム好きだけど下手な僕”だからこそできる仕事もあるんです。
たとえば、僕はよくストリートファイターの配信番組や企画に呼んでもらいますが、そこでは、プロレベルのスゴ技を求められているわけではありません。ゲームの解説はできるけれどプレイは上手くないので、ゲームに詳しくない人に親近感を持って楽しんで見てもらえているようです。
もし僕が上手すぎると、みんながついてこれなくなってしまうので、僕はちょうどいいバランスなんだと思います。開発するゲームも複雑な内容にしたくないし、プログラミングも勉強しすぎたくない。好きなゲームをほどよく楽しみ、そんな自分でもできる仕事をやっていきたいんです」
努力が評価されにくい芸人は、すぐに結果が出る筋トレにハマる
野田さんの才能はゲームだけに止まらない。2021年にオープンしたパーソナルトレーニングジム「クリスタルジム」も、あくまで自分の“好き”の延長上で「金儲けしたいという思いは全くない」と断言する。
「筋トレはプログラミングと同じで、コツコツ続ければ、できなかったことができるようになるのが楽しいですね。ムキムキの筋肉芸人が増えているのも、似たような理由だと思います。芸人は努力が評価されるわけではないので、努力したぶんだけハッキリ結果が出る筋トレがおもしろいんです。
そこで、『筋肉芸人がインストラクターを務めるパーソナルトレーニングジムを作ったら面白いんじゃないか』と、吉本の社長に直談判してみたんです。すると、ノリノリでOKをもらい、吉本が全面協力のもと、本当にジムをオープンすることができました。当時、僕は忙しくて鍛える時間がなかったので、仕事を口実に鍛えたいという思いもありました」
現在、クリスタルジムには25人以上のトレーナーが所属。その一人である青木マッチョさんは次世代のマッチョとして注目され、テレビ露出が急増している。さらに、ジムに通っていたメイプル超合金の安藤なつさんが約20キロの減量に成功すると、クリスタルジムはますます注目を集めた。
クリスタルジムの人気を受け、野田さんは劇場出演や番組収録の合間に、2号店のオープンに向けた物件選びや内覧を自ら行うなど、芸人らしからぬスケジュールをこなしている。
だがゲームクリエイターとしても、ジムオーナーとしても大切にしているのは、 “芸人”という軸からはブレないことだという。
「僕はあくまで芸人なので、若手起業家のようにはなりたくないんです。もしそっち(ビジネス)に全振りしたら、プロの経営者に勝てませんし、僕の強みが一切なくなりますから。芸人という主軸があるから、ゲームにバグがあっても笑いのネタにできるし、筋肉芸人が集まるジムのオーナーができています。どちらも、芸人だからこそ光る仕事なんです」
将来の夢は隠居。「1日28時間ゲームして週7で筋トレしたい」
現在37歳。まだまだやりたいことは尽きないと思うが、今後どのような未来を描いているのだろうか。
「相方の村上と僕は、『将来、のんびり隠居する』という考えで一致しています。ただ、隠居の概念はちょっと違っていて。僕の場合、隠居したら、ゲームを毎日28時間くらい、筋トレを週7くらいやりたいんです。そして、ついでにその様子をYouTubeで撮ったり、テレビで使われたりするのもいいなと思っています。
こういう生き方を僕は『隠居する』と考えていますが、人によっては“めちゃくちゃ仕事してるじゃん”って思うかもしれません(笑)。
取材・文/橋本 岬 撮影/竹川尚志