
10月9日に衆議院が解散され、総選挙に臨んでいく石破茂首相。しかし、裏金議員の一部を非公認にしたことによって党内には亀裂が走り、挙党態勢とは言いがたい状況だ。
「何度も似たミスが生じるのはあまりに不自然」
石破首相は9日、国会で開かれた党首討論で立憲民主党の野田佳彦代表が追及した旧石破派の裏金疑惑についてこう反論した。
「構造的に不正がなされたとかそういうものではない」
「裏金化をして誰かが利益を得たということは一切ない」
旧石破派を巡っては、日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」が10月6日の日曜版で、2021年までの6年間にわたる計140万円分の政治資金パーティー収入が不記載になっていたとスクープ。
自民党を揺るがした裏金問題の端緒となる刑事告発をした神戸学院大の上脇博之教授は、この報道に基づいて石破首相などに対する告発状を東京地検に提出。テレビ・新聞などのメディアも、それを追いかける形で裏金疑惑を報じた。
疑惑に対して、石破首相は「パーティー券を(ある政治団体に)複数議員から購入いただき、支払額の合計が20万円を超えていたが、事務局側での確認漏れがあり記載に誤りが生じた」「誤りがあったのは内訳の金額で、収入総額の誤りはない」という説明を繰り返している。
現行の政治資金規正法では20万円を超えてパーティー券が購入された場合、その購入者を収支報告書に記載しなければならないことになっている。
しかし、旧石破派の収支報告書には、ある政治団体が実際に購入したパーティー券の金額よりも少なく収入が記載されており、その差額が不記載となっていた。
不記載となったお金はどこへ行ったか、何に使われたか分からない「裏金」になっているのではないか、というのが今回の疑惑の内容だ。
それに対する石破首相の説明はこうだ。
旧石破派が開いたひとつのパーティにおいて、ある政治団体が複数の議員を通してパーティー券を購入した。購入金額の総額では20万円を超えていたものの、個別に見ると20万円以下だったため、収支報告書に購入者を記載しなくて良いものとみなされてしまい、一部に合算漏れが生じて不記載になっていたということだ。
それが6年間にわたって繰り返されて、不記載額は140万円まで積みあがったという。
ただ、この説明では納得しがたいと永田町関係者は語る。
「複数年度にまたがって、同じ政治団体に購入されたパーティー券収入に限って、似たような事務的ミスが生じるのはあまりにも不自然だ。パーティー券購入をお願いした議員の誰かが中抜きして裏金化していたという疑惑は拭えない」
疑惑の人物として名前が出回っているのは…
また、石破首相が政治資金パーティーの収入総額に誤りがないとしていることについても、
「購入者の記載がされていないパーティー券収入が多くあるため、総額はいくらでも誤魔化すことができる。実際にこれまでの自民党裏金問題でも、当初は『総額に誤りはない』としていたが、実際には裏金化していて収支報告書にまったく計上されていないことが発覚した。旧石破派でも同じことが起きている可能性がある」(前同)という。
そのため、党首討論でも野田氏は、収入が一部不記載となった政治団体からパーティー券を購入してもらった複数の議員の名を明らかにするよう要求。
しかし、石破首相は「ことの本質に関わるものではない」として個人名は明らかにせず、「Aという議員、Bという議員」と名前を伏せて説明するような一幕もあった。
この裏金疑惑に関わっている議員について、永田町では実名が出回っている。
「田村憲久元厚労大臣と鴨下一郎元環境大臣です。2人とも旧石破派が派閥として活動していた時期には中心人物となっていて、事務総長も務めていた。
この2人が、収入の一部が不記載になっていた政治団体にパーティー券購入をお願いしており、どちらかが中抜きした疑いが持たれている。鴨下氏はすでに政界を引退しているが、田村氏は次期衆院選に出馬する予定だ。
この個人名については「しんぶん赤旗」が10月11日に続報を出した。解散総選挙を控える石破政権にとってさらなるダメージとなる。
複数年にまたがって同じ政治団体に購入してもらったパーティー券について不記載が相次いだのは、ただの偶然の一致なのか、それとも裏事情があるのか、きちんと明らかにする必要があるだろう。
非公認議員の選定基準は「選挙に勝てるか」
こうした疑惑を抱えている石破首相であるが、自民党総裁としては、これまで発覚した裏金問題に対して厳しい対応を取るとして、収支報告書に不記載のあった裏金議員12人を非公認にすることや、裏金議員全員に比例代表への重複立候補を認めないことを決定した。
石破首相は、党員資格停止や党の役職停止1年間という重い処分を受けた議員のほか、説明責任を果たしているか、地元の理解が得られているかという基準によって非公認となる議員を選んだとしている。
しかし、「その内実は大きく異なる」と自民党関係者は語る。
「実際に非公認議員が選定される中で重視されたのは選挙で勝てるか否かだ。特に、『地元の理解』などという曖昧な基準で9日に追加の非公認が決まった議員6人は、いずれも選挙区での当選が厳しいとみられている。公認候補者の落選を抑えて党の体裁を整えるために裏金問題が利用されたようなものだ」
このような決定に対しては、裏金問題の大きな舞台となった旧安倍派の保守系議員から反発が相次いでいる。その中には、石破首相の顔がデカデカと掲げられた新しいポスターについて「こんなものは貼らない」と吐き捨てるように話す議員も出ている。
衆院選は目と鼻の先に迫っているが、自民党内の分断はますます加速し、党を挙げて選挙に臨んでいく状況からは程遠いと言えるだろう。
自身の元側近たちの裏金疑惑が広がりを見せる一方で、これまでの裏金問題に対しては非公認や比例重複禁止とすることで国民からの理解を得ようとしている石破首相。
しかし、その結果、石破首相が支持を集めてきた中間層から見放され、自民党が岩盤としてきた保守層からの離反も相次いでいる。
幅広く支持を集めるどころか、首相になってからの失望感がますます大きくなる中で迎える解散総選挙は、いったいどのような結果になってしまうのか。自民党に対してかつてないほどの逆風が吹く中、国民の審判は刻一刻と迫っている。
取材・文/宮原健太
集英社オンライン編集部ニュース班