
2024年度(1月~12月)に反響の大きかった衝撃写真記事ベスト5をお届けする。第3位は、1000年以上の歴史があるとされる「黒石寺蘇民祭」の最後の様子をレポートした記事だった(初公開日:2024年2月18日)。
裸の男たちの最後の勇姿
1000年以上の歴史があるとされる「黒石寺蘇民祭」は全国から毎年約3000人近くも訪れる由緒ある祭りだ。
2021年からはコロナ禍で開催を中止しており、去年3年ぶりに復活したが、祭りの目玉となる「蘇民袋争奪戦」は自粛されていた。今年は、その争奪戦も実施されての完全復活となる年だったが、準備を担う檀家(だんか)の高齢化と将来の担い手不足を理由に今回が最後の開催となった。
祭り開催前には、同祭保存協力会青年部の菊池敏明部長(49歳)は「最後になったことは非常に残念だが、記憶に残る蘇民祭にしたい」と話していた。
午後6時からの開催だったが、最後の祭りを体験しようと午後3時前後からたくさんの人が訪れていた。
日が暮れ始めた午後5時30分頃、ふんどし姿に着替えた男たちがお寺の本堂前に集まりはじめ、「五穀豊穣」や「蘇民将来」などと書かれた灯籠に火をつけ始める。
そして、午後6時に邪気を正すという意味の「ジャッソウ、ジョヤサ」の掛け声とともに境内を流れる瑠璃壺川(山内川)に本堂から向かい、川の水でカラダを清める。その後、薬師堂、妙味堂を巡り、また川へ。「夏参り」または「祈願祭」と呼ばれるお参りを3度繰り返す。
ふんどし1丁に足元は足袋のみ、あるいは足袋とわらじのみ。
今年で参加4回目だという男性は、「今年は参加者が多く、境内を巡る列が長く止まる時間があり、いつも以上に寒さが身に染みます…」と身を震わせながら話してくれた。
3度目を巡り終わると、時間は午後7時30分すぎ。開始から水を浴び、歩き続けた参加者たちは世話人の案内で藁で作られた待機部屋の中へ。炭火で暖をとったり、温かい飲み物で体力を回復させ、次の行事に備える。
裸の男たちが次なる行事に向けて英気を養っている間には、「別当登」(べっとうのぼり)と呼ばれる、別当(住職)ならびに蘇民袋を捧げもった総代が檀家などに守られ、ホラ貝、太鼓などを従えて薬師堂にのぼり、護摩をたいて厄払いと五穀豊穣を祈祷する、信仰としての大事な儀式を行った。
祭りのクライマックスに向けて、裸の男たちのボルテージも頂点へ
午後8時30分頃になると、再びふんどし一丁の男たちが本堂に集まり、薬師堂の格子戸に登り、「ジャッソウ、ジョヤサ」の掛け声が境内に響き渡る。
いよいよ「蘇民袋争奪戦」が始まるのだ。
開始直前には「鬼子登」(おにごのぼり)と呼ばれる、数え年で7歳の男児が麻衣をつけ、鬼面を逆さに背負い、大人に背負われて本堂に登る。そして住職が曼荼羅米をまき、護摩台に燃え盛る松明が置かれる。
その最後に「蘇民袋」が会場に持ち込まれると、争奪戦が始まる。
「蘇民袋」には将軍木(かつのき)で作った小間木(こまき)といわれる「蘇民将来護符」がぎっしり詰まっており、男たちはそれを奪い合う。小間木や麻袋の切り裂かれたものを持っている者は、災厄を免れるといわれており、最後に袋の締め口の下にあたる「首」の部分を握っている人が「取主」と呼ばれる栄誉と賞品を得られるのだ。
ふんどし男たちのほとばしる湯気が立ち上る
ふんどしも外した男性が格子戸から群衆の中に飛び込むと「蘇民袋争奪戦」が開始された。
争奪戦が開始されるやいなや、袋をめがけて一斉に手を伸ばす男たちによる壮絶な「押しくらまんじゅう」状態に。最後の蘇民祭を見にきた見物人、報道のカメラなども巻き込んで押し合いへし合い。
「オリャー」
「ジャッソウ」
「ジョヤサ」
押し合いの中で気合の入った声が飛びかい、男たちの体からは沸騰したお湯のような湯気が立ち上る。押し合いの中、ふんどしが外れて完全な裸になる参加者もチラホラ。
40分ほど本堂の中で揉み合いが続いた後は、境内の外に出て争奪戦を継続。
開始から1時間後の午後11時過ぎ、最後は「親方」や祭りの世話人たちが介入して、勝者である「取主」の判定を行ない、ついに決着がつく。決着と同時に、争奪戦に参加したふんどし男たちや見物人から拍手がまきおこった。
今年の「取主」は同祭保存協力会青年部の菊池敏明部長だった。
争奪戦後に行われた「取主」に選ばれた菊池さんの囲み取材では「『準取主』にはたくさんなったことがあるが、28回くらい参加して最後にしてやっと取れた。気持ちとしてはふだん通りに祭りが安全にできればいいなと思っていたが、今回は人の多さに闘志が湧きました」と感想を語った。
そして、蘇民祭の魅力や最後のことを尋ねられると「蘇民祭は参加した人にしかわからない魅力がある。
――今回で最後となった蘇民祭だが、見物にきていた人からも「来年以降も本当は見たい」などの存続を望む声が多くあがった。担い手の高齢化に伴い、祭りの形としては今年で一度幕を閉じるが、いつかまたふんどし姿の男たちの勇姿に出会いたい。
取材・文/集英社オンライン編集部 撮影/村上庄吾