
日本維新の会の政調会長を務め、2024年衆院選に出馬するも落選した音喜多駿・前参院議員(41)。落選とともに党を除籍となり、現在は無所属の政治家として活動する中、2024年末に新しい政治団体を発足。
なぜか社会保険料はあっさり増やされていく
2024年12月23日、音喜多駿氏が政治団体・国民運動体「社会保険料引き下げを実現する会」を立ち上げた。
そもそも、これは一体どのような団体なのだろうか。
音喜多(以下同)「名前の通り、健康保険や年金などの社会保険料を引き下げることを目的とする政治団体です。そのワンイシューで活動し、その他の目的はなしです。あっ、すぐ勘違いされますが、『おときた新党』とか、そういうわけではありません(笑)。
自分が10月まで政調会長をやっていた日本維新の会を含め、社会保険料の引き下げで協力できそうな組織・個人と連携し、社会保障制度改革の機運を高めていきたいと考えています」
団体の立ち上げをXで発信すると、すぐに多くの反響があったという。
「思っていた以上に反響をいただけたというのが正直なところです。運営メンバー・ボランティアへの応募はもう200人を超えました。元官僚、医師、経営者といった第一線で活躍している方、子どもたちの未来を憂う専業主婦の方、若い労働世代の方とさまざまです。
皆さん共通しているのは『社会保険料が高すぎる』『持続可能ではない』ということに危機感を持っていることですね。また参加者の3割程度が女性で、通常の政治団体に比べて女性比率が高いのも特徴だと思います」
1月11日に開催された初のミニ集会にはオンラインを含めて100名以上が参加。
熱の高さに驚くが、確かに社会保障制度や社会保険料に対する不満の声は、2024年あたりからSNSで急増したように感じる。
「そうですね。最近だと『子ども・子育て支援金』が話題になりました。子どもや子育てを支援するという名目で、足りない予算の一部を健康保険料に上乗せするという話です。増税については国会でしっかり議論して決めていくのに、社会保険料はあっさりと増やされる。この辺りが可視化されたことで、皆さんが年々おかしいなと思っていた怒りのようなものが限界値を超えたのかもしれません」
音喜多氏は2024年の衆院選に出馬した際にも社会保障制度の改革について訴えていたが……。
「どう考えても現役世代の負担が重すぎますから。ただ、私が『社会保障制度を見直すべきだ!』と声を上げたところ、『高齢者の切り捨てだ』『弱者に厳しい』『ほかにも税金の無駄遣いはあるだろう』『万博をやめろ』といった意見をたくさんいただきました。ここに切り込んでいくのは選挙的には本当に厳しいですね。実際、衆院選で落選しましたし……。
ただ、社会保障制度で動いているお金はレベルが違うんですよ。
落選してもそのまま終わらない、情熱のようなものを感じるが、団体発足に至った経緯は?
「去年の10月末に落選して、維新の政調会長の職も辞し、一般党員ですらなくなってしまいました。これまでは選挙で落選したら『残念でしたね』と終わってしまうところですが、いまはSNSや動画などで発信を続けられることが大きいですよね。そんな中で12月の国会の流れを見ていて、社会保障制度に関する議論が盛り上がっていないことに危機感を覚えました。
2月の衆議院の本予算の審議で検討するべきところですが、残念ながら社会保障制度改革に意欲を見せている野党であっても、国民民主党は“103万の壁の引き上げ”、日本維新の会は“教育無償化”と、それぞれメインとする公約にリソースを取られ、そこだけで交渉が終わってしまう可能性がありそうだなと感じました。ここは僕がなんとかしないといけないなと思って、団体設立を決意しました」
音喜多氏が所属していた日本維新の会は、社会保障制度についても提言があったと思うが……。
「政策にはもちろん入っていますし、吉村洋文代表を中心に情報発信も増えてきましたが、まだそこまで大きなムーブメントを作り出せていないのではないかと思いました。外部からサポートするにしても一石を投じる何かが必要だなと、政治関係の方にはあまり声をかけず独自の動きで立ち上げました。」
やはり、政調会長を務めていた維新をサポートしたいという思いが強いのだろうか?
「現状、社会保障制度について維新がいちばん熱心なことは間違いないですし、恩返ししたい気持ちは強くあります。まあ、維新がどう思っているかはわかりませんが(笑)。僕はいま、一般党員でもなく、ただの“維新に詳しい一般人”の立場ですので」
社会保険料を次の選挙の争点に
高すぎる社会保険料は、次の参院選での争点になる可能性もあるのだろうか。
「争点にすることがひとつの課題でもあります。そもそも『社会保険料引き下げを実現する会』は、独自法案を出す、政党になるといったことではなく、社会保険料の引き下げに共感する候補者や、政策を実現しようとする政党の応援をするための団体です。
そのため、まずは提言を各政党に持参する、支援する候補者をみつけるといった活動が必要だと感じています。
社会保険料の負担感は年々増しているが、音喜多氏が考える問題点はどこにあるのだろう。
「まず、昭和の時代につくられた古い仕組みをそのまま使い続けているということが最大の問題です。例えば年金制度は、賦課方式といって、現役世代から年金世代へいわゆる“仕送り”をする形式ですよね。
制度がつくられた当時は、子どもや若者が多く高齢者が少ない、かつ平均寿命が60代という時代でうまく回っていたんです。それが現在では少子高齢化が進み高齢化率は30%になる勢いで、しかもこれがさらに加速していきます。そして平均寿命は80歳を超えています。
どう考えても現役世代が支え続ける仕組みは持続可能ではありません。現在の高齢者と比較して、現役世代は年金受給額の面で数千万円の損失を被るという試算もあります」
年金制度についてはたびたび議論になっているが、一向に変わる気配がないのは「根本からの見直しが必要なため、着手が難しい」からだという。
では社会保険料の中でも比重の大きい健康保険の方はどうだろうか。
「こちらの方がまだ改革を進めやすいかもしれませんね。歴史を振り返ってみると、高度経済成長期の1970年代、自民党が福祉の一環として、高齢者医療を無料にするというバラマキを行なってしまいました。
そのうち、5割は税金で負担し、4割は現役世代が納めた保険料から流用しているんです。高齢者本人はたった1割しか負担していません。これはどう考えてもおかしいですよね」
たしかに、現役世代は3割負担である。より多くの医療費を使う高齢者が1割で済むというのは保険の仕組みとしてもいびつに感じる。その上、現役世代は高齢者に“仕送り”までしていたというわけだ。
「さらに、医療費をたくさん支払ったときに適用される高額療養費制度というものがあります。どんなに医療費を支払っても(所得に応じて)定額の自己負担で済むというシステムなのですが、これも高齢者の方が優遇されています。現役に比べて少ない額で済むのです。
なのに、今度また働く現役世代を狙い撃ちして負担の上限を引き上げることが決定し、人によっては月約44万円払うことになりました。厳しすぎです。
未来を見据えた、社会全体のための政策を
社会保障制度の問題点が見えてきたところで、具体的な政策提言はあるのだろうか。
「例えば健康保険でしたら、高齢者の医療費負担の割合の変更、高額療養費制度を見直しで1兆円減。そのぶん社会保険料の引き下げが可能です。
先ほどお話しした『子ども・子育て支援金』についても、1兆円の不足予算分を一人あたり500円ほどの社会保険料への上乗せで賄おうとしているのですが、ほかの財源や行政改革による歳費削減などで捻出することで回避できます。こちらは、2026年から行われる負担増・上乗せを事前に法改正で廃案にできる機会がまだあるので、各野党に取り組んでいただけるよう働きかけたいですね」
社会保険料は、実は企業と個人の折半で支払われている。それについても提言したいことがあるという。
「会社員の給与明細に社会保険料の企業負担分も明示することを義務化したいです。企業が肩代わりしている社会保険料は、人件費なわけですよね。本来、労働者がもらえるはずのお金なんです。
その金額を明示することで、国が本当はいくら社会保険料を取っているのか可視化されます。きっと、『えっ、こんなに?』と驚くと思いますよ。
社会保障制度の改革はいわゆる現役世代向けの政策であり、反発する高齢者が多いのも事実だ。高齢者の投票率が高い限り、しっかり納得してもらえる政策でないと進展しないという現状がある。この辺りをどう考えているのだろうか。
「すべての高齢者の方に納得してもらうのは難しいと思っています。ただ、社会保険料を支払い、社会を担っている現役世代がつぶれてしまったら、高齢者を含むすべての国民が困ることになりますよね。年金については『どうせもらえないから』と、納付しない人もいます。そういう人が増えて年金制度が破綻したら、高齢者も困ってしまうと思います。
それにお子さん、お孫さんが過大な社会保険料に苦しんでいる実態を知ったら、なんとかしたいと思われる高齢者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。きちんと話せばわかっていただけると思っています。
私たちの活動は、けして現役世代のためだけではなく、高齢者を含み、未来を見据えた社会全体のための政策提言だということを伝えていきたいです。高齢者の方にも『社会保険料引き下げを実現する会』の中心メンバーになっていただけたら、より深みのある提言ができるとも思っています」
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 金子弥生
撮影/村上庄吾