
盛岡少年刑務所に勤務している刑務官が、2人の受刑者に便宜を図る見返りに現金を受け取ったとされる。収賄などの罪に問われた刑務官、坂本孝誠被告(27)の初公判が1月末に盛岡地裁(中島真一郎裁判長)で開かれた。
受刑者らは「お菓子が食べたい」と発言
法廷の奥のドアから職員に連れられ入廷してきた紺色ジャージ姿の被告。
細身で不安そうなその表情は、刑務官だったとは想像もつかない印象を受ける。そして、両手には黒色の手錠がかけられていた。
起訴状によると、被告は、受刑者A(贈賄罪で起訴・25歳)に対して、刑務所内での所持・使用が禁止された物品を渡す見返りに、2回に分けて、Aは第三者を経由して計18万5000円を被告名義の口座に現金を入金させた。
さらに、受刑者B(贈賄罪で起訴・31歳)に対しても同様に便宜を図る見返りに、2回に分けて、第三者を経由し計15万円を被告人名義の口座に入金させたとされている。
検察官の冒頭陳述によると、事件の詳細はこうだ。
被告は、専門学校を卒業した後、盛岡少年刑務所で刑務官として勤務。2022年4月、刑務所内で受刑者の監視や作業工場での指導・監督などを行う「処遇部門」に配属されていた。
同年8月、Aは被告が担当している工場の「衛生係」になった。その後、被告は、Aと趣味が同じことなどから、よく話をする仲になる。
その会話のなかで、Aは「お菓子が食べたい」と発言。そして2023年8月ころ、被告はAにお菓子を渡すようになった。
Aからは謝礼として、2023年11月と2024年1月の2回に分けて、同房の人物を経由し、被告の指定した住所に現金を送付させ、第三者を経由して被告の口座に計18万5000円を入金させた。
一方で、Bは被告が監視を担当していた工場の工場長を務めていた。2023年9月下旬、Bは被告と会話するようになる。
そんななか、Bも被告との会話で「甘いものが食べたい」と発言。被告は、過去にBが仕事上のミスをフォローしてくれた恩があることなどから、お菓子などをあげるようになる。
その後、Bから「お礼をしたい」と言われ、被告は刑務所内で所持・使用が禁止されている物品を渡す見返りに現金を受け取るようになったという。
Bは実母などの第三者に対して、被告の口座に入金するように依頼する旨の手紙を送り、2回に分けて計15万円を入金させた。
検察官が提出した証拠によると、被告はAに対して、チーズ蒸しパンやカルピス、タバコ、ライターなどの禁止物品を。Bに対しては、粉末コーヒーや唐辛子、石鹸、無修正のアダルト写真などの便宜を図ったという。
軽い気持ちがエスカレートしてしまった
刑務官から一変、囚われの身となった被告。初公判で行なわれた被告人質問では、どことなく不安そうな声で質問に答えていた。
弁護人「まず、Aとはどんな話で盛り上がったのか」
被告「車好きという趣味が一緒で、車の話をして盛り上がりました」
Aからお菓子を求められた際のやり取りについて、被告は次のように詳述した。
「令和5(2003)年の8月から9月くらいだと思います。
受刑者にとって、「甘いもの」はとても貴重だという。
刑務所では、原則的に給食されたもの以外は口にすることができない。ただし、受刑者の日常の態度などの評価によっては優遇措置として、月に1~2回だけ限られた金額の中で「甘いもの」を購入して食べることができる。
また、Bについて被告は「Bは平成31(2019)年に刑務所に入所して、(被告が担当していた)工場に入ってきて、結構話すようになりました。雑談しているときに、『甘いものが食べたいんですよね』と言ってたので、渡してしまいました」と供述している。
続けて、被告はBに恩があるとも語った。
「Bは、工場ではリーダー的な存在で、(被告が)号令を忘れたときがあって、そのときにBが号令を教えてくれて、それが(上司に)バレてなくて、お菓子くらいならいいかなと思いました」
被告はBから金銭を得た経緯について、Bからも「『お金あげますよ』と言われて、『わかった。ありがとう』と了承してしまいました」と話す。結局、被告がAとBから得た金銭は、生活費や彼女との交際費に使っていたという。
弁護人から「今回の事件の原因はどこにあったか」と問われると、被告は「工場だったり、居室だったりで話しているうちに、友達のような関係になってしまったことが原因だと思います。軽い気持ちでお菓子をあげたことが、そこからエスカレートしてしまいました」と答えた。
Bの件が発覚しても被告は犯行を続けた
公判では被告人質問が佳境に入るにつれて、被告の罪の意識のなさが露呈する場面もあった。
2024年4月、Bから金銭を得ていた件が刑務所内で発覚してしまった。
「Bの件が発覚してから、やめないとなと思ったのですが、Aの件がバレていないんだなと思い、Aからも『お金あげますんで』と言われていたので、お金が欲しくて(Aには引き続き)やってしまいました」
さらに、被告はお菓子だけしか求めなかったBに対して、「菓子だけだと割に合わないよなと思い、『欲しいものあったら言ってくれ。やれることやるよ』」と自ら発言していたというのだ。
弁護人、検察官からの被告人質問が終わり、裁判長が「刑務官になった志望動機は?」と聞くと、被告はこう答えた。
被告「元々、小さいころから、家族には『公務員になれ』と言われていて、公安職になりたいと思っていました。刑務官に合格したので、刑務官になりました」
さらに、裁判長があきれ顔で「刑務所内では、年に1回、こういうことはしてはいけないよ、という講習会があるよね。日常的にも、受刑者に対してしてはいけないことについて指導があるよね。そういうのに、あまり関心がなかったのか」と質問すると、被告は今にも消え失せそうな声で「そうですね」と答えた。
検察官は懲役1年6か月などを求刑
公判では検察官は、「刑務官の職務の信頼性を著しく傷つけ、社会に衝撃を与えた」と強調。また、「受刑者にさらなる犯罪を起こさせ、許されざる行為と言わなければならず、まさしく利欲的な犯行で酌量の余地はない」と断じ、懲役1年6か月、罰金50万円、追徴金33万5000円を求刑した。
今年6月からは、刑法の改正により「懲役刑」と「禁錮刑」を一本化し、受刑者の個々に応じて必要な作業や指導を行うことで、更生や社会復帰に重点を置いた、「拘禁刑」という新しい刑罰が施行される。
そんなタイミングでの今回の事件に、更生保護の支援をしている関係者からは、憤りの声があがっている。
判決は、3月17日に予定されている。
取材・文/学生傍聴人