
コメの価格急騰が止まらない。農林水産省は2月18日、2月上旬にスーパーで販売されたコメ5kgあたりの平均価格が前年同期と比べて1811円高い3829円になり、9割近く値段が上昇していると発表した。
メルカリでもコメの転売(?)が横行
昨年から続くコメ不足とそれに伴う価格の急騰。“令和の米騒動”とも呼ばれるこの現象は半年以上も続いており、いまだに解決の兆しが見えない。
2月14日には政府が備蓄米を放出すると発表したが、果たして効果はあるのかどうか。農林水産省は今回のコメ不足の理由のひとつに、生産はされているが市場に出てきていない“消えたコメ”があることを指摘し、どこで滞っているかを調査しているという。
実際、都内で米を専門に扱っている米穀店の店主に話を聞いたところ、「仲介業者や大手の加工品業者、商社とかが抱え込んでいる可能性があると思います」と話していた。
また最近では、転売目的の個人がコメを買い占めしている様子もネット上にいくつか投稿されている。市場のコメの価格に影響を与えるほどとはとても思えないが、フリーマーケットアプリ「メルカリ」など転売サイトでもコメの出品が相次いでおり、コロナ禍でのマスク不足のような状況に陥っている。
こうした状況にSNS上ではすぐにでもコメの転売を規制するべきだとの声が相次いでいる。
〈米の転売はメルカリでも政府でもマジで考えて欲しいね主食なんだし〉
〈コロナの時と同じで流石に米はヤフオクやメルカリ系統は転売禁止にしてええと思うけど〉
〈メルカリで大量に米が売られてる件、昔のアベノマスクにそっくりだな。当時も政府がマスク配布した結果、市場にマスクが流通した〉
〈米の高騰、買い占め、転売疑惑で騒がれてるけど、 メルカリは生産者証明書とかで転売を抑止すれば良いんじゃないか?〉
ただ、こうしたサイトでも転売だけとは限らず、実際に農家が販売しているケースもあるので、転売かどうかを見分けるシステムを作ってほしいとの声もある。
コメ不足は農水省の大失態なのか
その一方で、今回のコメ不足は、買い占めが原因ではなく、根本的にそもそも生産量が足りていないとの指摘もある。『農協の闇』や『対馬の海に沈む』の著者で農業ジャーナリストの窪田新之助氏に話を聞いた。
「今回のコメ不足の最大の原因は、長年にわたる減反(政府によるコメの生産量を調整する制度)と、それに対する産地の隷属体質です。そもそも農水省は、需需要給も流通の実態も把握できていません。
コメが不足しているなら、市場に反映され、機敏な農家や産地は増産します。しかし、実質的にコメには市場が存在しません。現物市場や先物市場が創設されるたびに、農協がつぶしてきたからです」(窪田新之助氏、以下同)
昨年夏のコメ不足のとき、農水省は10月から新米が市場に供給されるので、それで解決されると主張してきた。しかし結果は、解決されないどころか、より状況はひどくなった。
前出の米穀店の店主は、今はコメ不足によって新米を“先食い”して消費している状態であるため、コメ不足の状態は変わらず、値段も下がることはないと話していた。備蓄米の放出のタイミング、新米による市場変化の予測など、なにからなにまで、農水省の行動は失敗だという。
「結局、市場がない中で、産地は農水省の『コメはある』という主張を信じ、再び減反していきました。だからコメ騒動は1年で終わらず、2年も続いてしまったのです。先ほど述べた『需給も流通の実態も把握できていない』について付け加えると、農水省の作況調査は実態を把握できていないと思われます。
というのも、農水省は2024年産を“平年作”と発表していましたが、関東の農家から出来秋になって、『まったく取れていない』『今年は昨年よりもヤバいことになる』という声が私のもとにいくつか届いていたのです」
コメ不足を解消するための最善の手
つまり、今回のコメ不足は、農水省がコメが不足しているという認識を持っていなかったことが大きく影響しており、備蓄米放出という世論が巻き起こっても、民間備蓄が十分という認識を変えることなく、昨年10月の食糧部会で「新米が出回ればコメ不足は解消される」と言い切っていたことが原因になっているということだ。
さらに、これまでの著書でJA(農業協同組合)の裏側を書いてきた窪田氏は、今回の一連のコメ不足にはJAにも責任があると指摘する。
「JAの責任は、高米価を維持するために減反を支持・推進したことと、市場をつぶしてきたことです。要は需要に応じて生産するということをないがしろにしてきたことが問題であり、そこに大きな責任があるでしょう。昨年夏から今も続くコメ不足を解消するには、減反の廃止と市場の創設が最善だと考えます」
ダイレクトに家計に直撃するコメの高騰。一刻も早く“米騒動”が沈静されてほしい。
取材・文/集英社オンライン編集部
窪田新之助●1978年福岡県生まれ。明治大学文学部卒業。日本農業新聞で国内外の農政や農業生産の現場を取材し、2012年よりフリーに。著書に『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』『データ農業が日本を救う』『農協の闇(くらやみ)』『誰が農業を殺すのか』(共著)など。