
複雑で急速に変化する今の時代に欠かせないのは、リーダーの勇敢なリーダーシップ。そしてその勇気を手にいれるには、「ヴァルネラビリティ」(傷つきやすさ、脆さ、脆弱性、不安な気持ちなど)と向き合う必要がある――。
本書より一部抜粋、再構成してお届けする。
勇敢なリーダーシップの核となるもの
<1.ヴァルネラビリティと向きあうことなく勇気を手に入れることはできない。最低を受け入れよう>
勇敢なリーダーシップの核となるのは、とくに職場ではほとんど認識されない、「人間の奥底にある感情」だ。勇気と恐れは矛盾しない。大半の人たちは、勇敢さと恐怖をほぼ同時に感じている。
私たちは自分の「脆さ」を感じている。ときには1日中ずっと。そしてルーズベルトの言う「競技場に立つ」瞬間、恐怖と勇気に両側から引っぱられる場面で私たちに必要なのは、共通の言語、スキル、ツール、毎日の訓練であり、それは「ランブル」を通じて培われる。
「ランブル」とは、傷つくことを認め、好奇心と寛大さを保ち、厄介な問題の特定や解決に尽力し、必要なら休憩を取り、みずからの役目を大胆不敵に引き受けながらおこなう議論、対話、会合のことである。
また、心理学者のハリエット・レーナーが言うように、「自分が話すときにそう望むように真摯に耳を傾けること」である。
だれかが「ランブル(対話)しましょう」と言ったら、ただちに自分のエゴを捨て、おたがいのために尽くせるよう、心を開く合図である。
勇気は生まれ持った特性ではない
私たちの研究は、極めて明確で希望に満ちた発見につながった。「勇気」とは、教育し、観察し、測定することが可能な「4つのスキル」で成立していることがわかったのだ。
以下が4つのスキルである。
スキル1:ヴァルネラビリティと向きあう
スキル2:自分の価値観で生きる
スキル3:果敢に信頼する
スキル4:立ちあがることを学ぶ
「勇気」を養うための基本的なスキルは、「ヴァルネラビリティ」と向きあう意欲と能力である。これがなければ、ほかの3つのスキルを実践するのは不可能だ。つまり、勇敢なリーダーになるためには、ヴァルネラビリティを受け入れることが必須なのだ。
まずは「傷つきやすさ」に関するスキルを身につけ、そのあとでほかのスキルの向上に取り組んでいくといいだろう。
<2.自己認識と自己愛の問題。自分が何者であるかは人をどう導くかで決まる>
「勇気」は、生まれもった特性だと思われがちだが、それは人の特性というより、困難な状況でどう表れるかというたぐいのものである。
「恐怖」は、問題行動や文化的問題のリストの中心にある感情だが、それはまさに勇気を阻む根本的な障壁とみなされている。ところが話を聞いた勇敢なリーダーたちは、さまざまな恐怖を日常的に経験しているという。つまり、恐怖は障壁ではないということだ。
勇敢なリーダーシップの本当の障害は、私たちの「恐怖への対応の仕方」にある。
勇気あるリーダーは相手を気遣い、「つながり」をもつ
<3.勇気は伝染する。勇敢なリーダーシップを発揮し、チームや組織の勇気を養うには、思いきった仕事、タフな会話、誠実さを前提とし、鎧は必要でも有用でもない、という文化を育む必要がある>
人びとが鎧を脱ぎ、ありのままの姿となって、革新や問題解決に取り組み、人のために尽くせるようにするには、だれもが「安全」と「配慮」と「敬意」を感じられる文化を慎重に育んでいかなければならない。
勇気あるリーダーは、自分が導く相手を気遣い、彼らと「つながり」をもつことが求められる。
データからも、リーダーとチームメンバーの間にある「思いやり」や「つながり」は、誠実で生産的な関係を構築するための不可欠な要素であることがわかっている。
したがって導く相手に対する思いやりが欠けていたり、つながりを育めていなかったりする場合、いずれかを選択することになる。思いやりやつながりを育むか、自分よりもふさわしいリーダーを見つけるか。
これは恥ずかしいことでもなんでもない。どれほど努力してもうまくいかない経験はだれにだってある。まずは「思いやり」や「つながり」をもつことの重要性を理解し、相手を少しでもないがしろにしていたなら、勇気をもってそれを認めることだ。
私たちが暮らす世界の現実を思えば、リーダーたちは(あなたも、私も)、ニュースや街角で目にするものより高い行動基準をもつ空間を生みだし、保持する必要がある。多くの場合、職場でのそうした文化は、家庭のそれよりさらにすぐれたものであるべきだろう。
また、リーダーシップを身につける過程で、いいパートナーや親になることもある。
鎧をまとっていては成長も貢献もありえない
極めて重要なリーダーのひとりである「教師」たちに、よく言うことがある。それは、心身ともに自分を守らなければならない可能性のある学生に、「家や登下校中に鎧を脱ぐよう指導してはいけない」ということだ。
教師たちにできること、道徳的にやるべきことは、学生がその日1日、あるいは1時間でもいいから、鎧という重圧を脱ぎ捨ててロッカーにしまい、本当の自分を見せられる空間を校内や教室に設けることだ。
学生たちが呼吸をし、好奇心を携えて世界を探検し、息苦しさを感じることなくありのままの自分でいられる空間を、私たちは守らなくてはならない。傷つきやすさと向きあい、心情を吐露できる場所を彼らのためにぜひ確保してほしい。
この研究でわかったのは、たとえひとつでも子どもたちが「鎧を脱げる場所」をもっているなら、その意義を過小評価してはいけないということだ。それはしばしば、彼らの行く末を変えることがある。
人種、階級、性別による差別、あるいは恐怖政治などによって学校、組織、信仰の場、家庭内でさえ鎧が必要なら、そこに誠意ある関係は期待できない。同様に、所属する組織が、非難、恥、皮肉、完璧主義、感情の抑制といった鎧をまとう行動をよしとするなら、革新的な仕事はできないだろう。
鎧をまとっていては、満足な成長も貢献もあり得ない。鎧をもち歩くには大量のエネルギーが必要だし、ときにはそれだけでエネルギーを使い果たしてしまう。
このプロセスをひもとくカギは、「遺伝子に組み込まれていない」行動のリストにある。
先述した3点は、14歳であっても40歳であっても、教えたり、観察したり、計測したりすることが可能である。
まずは「鎧を外せる場所」を見つけよう
あるリーダーは私にこう言った。
「私はいま50代ですが、今日までこうしたふるまいのひとつひとつを両親やコーチから教えられて育ったことに気づいていませんでした。しかしこうして改めて核心に触れてみると、過去に教わったこと──それがいつ、どのように教えられたか──は、その大半を思いだすことができます。これはぜひほかの人にも伝えるべきです」
この言葉は、時間とともに厳しい教えやしつけの記憶が薄れ、かつては抵抗を覚えた教えが「もともと自分の考え」であったかのように個人のなかに溶け込んでしまう、ということを思いださせてくれる重要な証言である。
勇気を奮い立たせるためのスキルセットは、目新しいものではない。それはリーダーたちにとって、目指すべきリーダーシップのスキルでありつづけている。にもかかわらず、リーダーシップのスキルがいまだに発展途上にあるのは、この作業にかかわる複雑な人間性の部分が深く掘り下げられていないためだろう。
話したいこと、必要なことを語るのは、恐怖や感情、欠乏(十分でないという思い)を語ることに比べて、はるかに簡単だ。
基本的に、そして皮肉にも、私たちは「勇気」について語る勇気をもちあわせていない。だが、そろそろ勇気と向きあうべきだ。
そして勇気の実践を試みたうえでそれらを「ソフトスキル(個人の特性に関連するスキル)」と呼びたいなら、それでもかまわない。いや、むしろ(本当にそう呼べるか)試してみてほしい。
まずは、「鎧を外せる場所」を見つけることだ。そしてそのときがきたら「競技場」でお会いしよう。
文/ブレネー・ブラウン 訳/片桐恵理子 写真/shutterstock
dare to lead リーダーに必要な勇気を磨く
ブレネー・ブラウン (著), 片桐恵理子 (翻訳)
ヒューストン大学教授にしてベストセラー作家
ブレネー・ブラウン博士による、待望の新刊!
★ニューヨーク・タイムズ紙ベストセラー1位!
★米アマゾン53週連続ベストセラーランクイン!
★「CEOが必ず読むべき本」選出!(WSJ発表)
★著者のTEDトーク「傷つく心の力」6000万人視聴!
ヒューストン大学教授でベストセラー作家の
ブレネー・ブラウン博士による
待望の新刊が、ついに日本上陸。
20年にわたって「勇気、傷つきやすさ、恥、共感」
についての研究をおこなってきた著者が、
近年、「リーダーシップ」の研究に取り組み、
その調査結果を一冊にまとめたのが本書である。
複雑で急速に変化する今の時代に成功するには、
リーダーは「勇敢」になる必要がある――
と著者は指摘する。
そして、勇気を養うには、
「ヴァルネラビリティ(Vulnerability)
=傷つきやすさ、脆さ、脆弱性、不安な気持ちなど」
を受け入れることが必須だと説く。
「勇敢なリーダー」になるには、どうすればいいか?
組織を成長させるには?
最高のチームをつくるには?
生産的なコミュニケーションとは?
チームメンバーから心から「信頼」されるには?
どんな失敗からも「立ち直る力」をつけるには?
40万にものぼる最新のデータや
さまざまな研究事例から導かれた、
リーダーや組織の問題解決の具体的な方法が明かされる。
すべてのリーダーと、すべての働く人の必読書。
【賞賛の言葉】
●シェリル・サンドバーグ(Facebook COO)
――「ブレネーは本書を通じて、みずからの数十年にわたる研究を、勇気あるリーダーシップのための実践的かつ洞察力に富んだガイドへと昇華させている。本書は、着実に人々を導き、勇敢に生き、大胆にリードしたいと望むすべての人にとってのロードマップである」
●エドウィン・キャットマル(ピクサー・アニメーション・スタジオおよびウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ元社長)
――「ブレネーがピクサー社を訪れ、映像制作者たちと話をしたことがある。彼女のメッセージは重要なものだった。というのも、制作者がヴァルネラビリティと向きあうとき、みずからの挫折を克服しなければならないとき、打ちのめされるのを厭わないときにこそ、最高の映画がつくられるからだ。
【目次より】
序章 勇敢なリーダーと勇気ある文化
第1部 ヴァルネラビリティと向き合う
第1章 その瞬間と誤解
第2章 勇気を呼び起こす
第3章 武装
第4章 恥と共感
第5章 好奇心と確固たる自信
第2部 自分の価値で生きる
第3部 果敢に信頼する
第4部 立ち上がる方法を学ぶ