
日米通算200勝まであと3つ。故・野村克也氏に「マー君、神の子、不思議な子」と呼ばれた球界の大エース、田中将大投手(36)は昨季、まさかの0勝に終わってしまった。
求められるのは“ごまかす”投球
3月2日の東京ドーム。2回を被安打2の無失点に抑えた田中は、そのマウンドを降りる際、安堵にも似た表情を浮かべていた。
オープン戦とはいえ、これが巨人のユニフォームを着て臨んだ本拠地での初登板。無難に終えられ、ホッとしたところがあったのではないか。
田中といえば2013年には24勝0敗1セーブという驚異的な成績で楽天を初の日本一に導き、翌年から7年間はメジャーの名門、ニューヨーク・ヤンキースでエースも務めた球界を代表する投手。今回の移籍も大いに野球ファンを騒がせ、しかもその移籍先が昨季のセリーグ覇者で人気球団の巨人なのだから、いやが応でも注目が集まっているのだ。
田中は2月24日のオープン戦初登板でも1回をほぼパーフェクトに抑えている。ここまでは順調な仕上がりの大投手に、巨人・阿部慎之助監督は「抑える術を知っている」と太鼓判を押し、“開幕ローテ当確”を明言した。
しかし、昨季の登板数はたった1。当然、勝ち星はなく事実上の “放出” での巨人入団という状況なだけに、「かつての活躍を期待するのは酷ではないか」と見る向きも少なくない。
「2023年オフに右肘のクリーニング手術を受け、その影響もあって昨季は未勝利に終わりました。
年齢のことを考えても、劇的な復活はなかなか難しいのではないでしょうか」(某スポーツ紙記者)
プロ野球解説者の江本孟紀氏も、田中のここまでの投球を見て「オープン戦の短いイニングを抑えるなんて、プロの投手の8割ができますよ」と手厳しい。
「当たり前だけど、全盛期に比べれば球に勢いはない。今後は打ち気を逸らしたりタイミングを外したり、ピッチングのテクニックで“ごまかす”投球が必要になってくる」(江本氏、以下同)
ヤンキース時代は158キロを記録したこともあった田中の球速は、昨季唯一の1軍登板時に147キロ、先述のオープン戦の2戦にいたってはともに145キロが最速だった。
年齢は36歳。やはり“神の子”といえど、年齢による衰えには抗えないのか。
幼馴染の坂本勇人も成績が急降下
では、実際どの程度の成績が予想されるのか。
「二ケタ(勝利)は厳しいし、よほどうまくいかないと7、8勝も難しいのではないか。特に重要になってくるのがシーズンの最序盤。開幕ローテに入るのであれば、ここでつまずいてしまうとズルズルいってしまう。
若い選手なら学ぶチャンスもあるけれど、田中はあれだけ実績を残しておきながら昨季は0勝。そんなピッチャーがヨーイドンで結果を残せないと、体も気持ちも上がってこない」
長年エースを務めていた菅野智之がメジャーに挑戦したなかで、田中の獲得は今季の巨人を象徴する補強といえなくはない。
「それはそこまで関係ないね。抑えにライデル・マルティネスが入ったし、大勢を筆頭にリリーフは去年よりも充実している。菅野もそうだったけど、もちろん田中にも完投を求められてるわけじゃない。5、6イニングで試合を作るなら若手投手でもできるからね。
だから、田中の獲得は余裕がある巨人だからできる補強だったんじゃないかな。田中があと3勝して(日米通算)200勝を達成しても、そんなのチームにとって何の役にも立たないから」
もうひとつ、注目を集めているのが坂本勇人とチームメイトになったこと。田中と坂本は兵庫県伊丹市の少年野球チーム「昆陽里タイガース」でバッテリーを組んでいたのは有名な話だが、今季はそのふたりが同一球団に所属する。
しかし、その坂本も昨季は遊撃手から守備の負担の少ない三塁手に本格的にコンバートしたにもかかわらず、打率、打点、本塁打などがレギュラー定着後の自己ワーストの成績に終わっている。
「野手は年齢によって目と反応に衰えがあるからその影響も考えられる。ただ、坂本は身体的にはまだまだ大丈夫だと思う。ショートは門脇(誠)に譲るかたちになったけど、坂本ががんばることでこういった若手もさらに伸びてくるはず」
田中と坂本、揃って今季復活となれば、巨人の連覇への道はグッと近づくことは間違いなさそうだ。
取材・文/集英社オンライン編集部