
異次元の不動産格差時代がやってくる。人口減少、金利上昇、外国人投資家の急増、気候変動――マクロな変化が不動産市場を根底から揺るがすことはもう避けられない。
『2030年の不動産』(日経BP/日本経済新聞出版)より一部抜粋・再構成してお届けする。
金利上昇が続くが、2030年予測は…
2024年秋の時点で、変動金利に影響する短期プライムレートが引き上げられ、変動型のローン金利の上昇が話題になりました。本書が出版されるタイミングや2030年時点での金利、それに株価や為替の水準を正確に言い当てることはできませんが、各種データなどを読み解いていくと、長期的な展望を描くことは可能です。
金利に関して言うと、すでにマイナス金利は解除されており、今後は利上げに向かっていくことになるでしょう。ただ、それは一定のインフレが続き、人々の給与所得がきちんと上昇していることを確認したうえでの慎重な判断になるはずです。
短期間で大幅に利上げすると、国債を大量保有する日銀は債務超過に陥って自分の首を絞めることになるので、現時点で変動金利の住宅ローンを組んでいる場合でも、まだそこまで警戒する必要はありません。
ただ、仮に2%、3%という幅で利上げが実施されると、ローンを組んで住宅を購入する人にとってはかなり負担が増えるので、住宅価格の下押し圧力になります。
これは都心からやや離れた郊外エリアに関して言えることであり、都心一等地に関しては、それくらい利上げしても住宅価格が大きく下落することはないでしょう。都心一等地の物件を買うことができるのは富裕層であり、国内外の投資家であり、多少負担が増えたところで購入を踏みとどまるとは考えにくいからです。
都心一等地にあるマンションの平均価格を吊り上げている要因の一端は、このところ少しずつ増えている販売価格10億円超えの超高額物件にあります。一般的に、住宅ローンの借入上限は1億円で、それより高額の融資を実施している金融機関でも、さすがに個人に対して10億円は貸してくれません。
つまり、10億円を超えるような物件を買っているのは、ローンを組まずに即金で購入できる層であり、彼らにとってローン金利の変動は何の意味も持たないのです。
ところで、教科書的には「金利が下がると株価は上がり、金利が上がると株価は下がる」と言われます。このとおりだとすると、今後利上げ局面になった場合に株価が下がるのではないか、と心配する人もいるかもしれません。
海外の投資家から熱い視線を浴びる日本市場
私は逆に、これからの日本株には上昇につながる材料のほうが多いと見ています。「はじめに」でも述べたように、今後の世界経済におけるアジアのプレゼンスは高くなる見通しで、日本もその恩恵を受けるでしょう。日本はアジア随一の先進国であるため、投資家からしてみると資金の預け先として安心感があります。
また、今後の政局次第ではあるものの、ここから先は米国株や米ドルが弱含み、「とりあえず米国に投資しておけばいい」という米国礼賛一辺倒のムードが激変する可能性も大いにあります。BRICSが台頭していることに加えて、米国国内にはあらゆる意味での分断があり、今後の没落を示唆する要素は数え上げるとキリがありません。
実際に米国が没落への道をたどり始めれば、緊急避難的に円が買われることが想定されます。マーケットでは「円安になると株価は上がり、円高になると株価は下がる」のがセオリーとされています。
日本は輸出企業が多く、円安になると海外で稼いだ外貨を円に戻したときの売上高が増えるから、株高につながるというのがその根拠です。実際には日本は内需偏重の国であり、GDPの実に5%までも内需が占めています。
円安は輸出額の増加につながる一方で、輸入品の価格を押し上げます。ここ数年の日本は連続して貿易赤字が続いていますが、2022年から円安相場が始まっていたにもかかわらず貿易赤字だということは、輸入品の高騰を輸出の増加によってカバーできていないことを意味します。
よって、本来的には円高で株価が上がるほうが自然とも考えられるでしょう。
過去には、リーマン・ショックや東日本大震災の直後などに大幅な円高になりました。いずれのタイミングでも株価は大きく下落していたため、円高だと株価が下がるという法則は正しいように見えますが、歴史的な有事のときと平常時の円高とでは意味合いが異なります。
日本株優位の中で懸念される世界的なグレート・リセット
有事の際は、国内で円がたくさん必要になることから、海外の株式や債券などが売却され(円が買い戻され)、必然的に円高になります。一方で株価はまず間違いなく下落するので、日本における有事の局面では原則として円高・株安になります。
しかし、平常時に為替が円高に振れたからといって、全体相場で株安になることには裏づけとなる理由がありません。しかし、マーケットでは「円高→株安」というのが、突っ込んだ検証もされないまま共通見解とされています。
この矛盾は近い将来、修正される日が来るでしょう。多くの人が円を買うから為替は円高になる。買われた円が日本株や日本の不動産に回っていくことで、株高や不動産市場の上昇につながる。これが矛盾のない構造です。この修正が実現すれば、円高かつ株高となり、世界のマーケットの中で日本株が一人勝ちすることになるかもしれません。
ただ、日本株が独歩高でバブルが起こったとしても、いずれ世界的なグレート・リセットが起こり、1990年のバブル崩壊や2008年のリーマン・ショックのような歴史的な金融危機をはるかに超えたレベルで大暴落する可能性もあります。
グレート・リセットで金融システムがリセットされても、すでに内憂が広がっていた西側諸国などと比較すると、日本が受ける影響は小さくて済むと予想されます。しかし、株などのペーパーアセットに対する価値観は大きく変わるでしょう。
一方で、不動産のような実物資産は、自然災害などの特殊要因を除き、一夜にして価値が激減するリスクが低いもの。その意味で、日本の不動産は中長期的に有望と言えるのです。
長嶋修●ながしまおさむ/さくら事務所会長、らくだ不動産顧問、日本ホームインスペクターズ協会理事長、さくら事務所会長。らくだ不動産顧問。日本ホームインスペクターズ協会理事長。国交省・経産省等委員歴任。多数のメディア出演 ・講演・出版・執筆活動で政策提言や社会問題全般。
文/長嶋修 写真/shutterstock
『2030年の不動産』(日経BP/日本経済新聞出版)
長嶋修
【内容紹介】
85%の地域が下落する?――不動産「三極化」時代に備えよ!
異次元の不動産格差時代がやってくる。人口減少、金利上昇、外国人投資家の急増、気候変動――マクロな変化が市場を根底から揺るがす。
「価値が落ちない中古マンションの選び方とは?」「生き残る戸建てと消える戸建ての決定的な差とは?」「上昇し続けるコストとどう向き合うか?」など、不動産のプロフェッショナルが市場の未来を徹底分析。
市場のルールが変わる今、正しい知識がなければ、大きな損失を招く。
不動産の購入や売却を考える方はもちろん、市場の未来を見据え、賢い選択をしたいすべての人に贈る1冊。
◆本書の内容より
・下がりにくい物件、高騰する物件の4条件とは?
・国道16号の外では売るのも貸すのも難しくなる
・住宅ローン金利はこれからどうなる?
・2001~03年、2010~14年竣工の中古はなぜ狙い目なのか?
・和光市、藤沢市、堺市北区…これから注目のエリアは?
【「不動産のあれこれ三極化診断」がダウンロードできるQRコード付】
【目次】
はじめに 「グレート・リセット」にどう備えるか
序章
2030年の不動産市場を揺るがす7つの変化
第1章 異次元の不動産格差時代がやってくる
第2章 2030年、マンションの選び方はこう変わる
第3章 2030年の戸建市場の行方
第4章 2030年に“地価が上がる”地域とは?
第5章 2030年の住宅コストと不動産投資