
昨今、都心を中心に土地価格の上昇が止まらない。その勢いは、「山手線内側の土地価格でアメリカ全土が買える」と言われた1980年代末から1990年代初頭のバブル景気に匹敵するとされている。
地価急上昇のホットな街・千葉県流山市
千葉県の北西部に位置し、県のマスコットキャラクター「チーバくん」の鼻にあたる流山市が、土地価格の上昇で注目を集めている。
国土交通省が毎年公表する地価公示によると、東京圏における2024年の地価変動率トップは「流山市おおたかの森1丁目」で、変動率は17.2%。さらに、同市は1位から6位までを独占し(※1)、東京圏で最も地価上昇が顕著な街となっている。
今年3月18日に発表された最新の地価公示データでも、2位の流山市西初石をはじめ、トップ10のうち7地点を流山市が占めた(※2)。この人気は、他の調査でも裏付けられている。
例えば、3月6日に株式会社リクルートが公表した2025年版「SUUMO住みたい街ランキング 首都圏版」では、流山市にあるつくばエクスプレス・流山おおたかの森駅が16位にランクインした。
また同駅は2021年まで40位前後だったが、2022年以降は常に16位以上を維持しており、近年急速に注目を集めている。さらに、流山市は人口増加率でも6年連続1位(※3)を記録しており、今最も成長している街の一つといえる。
なぜ流山おおたかの森は、これほどまでに人気を集めているのか。実際に現地を訪れ、その魅力を探った。
埼玉県との県境に位置する流山おおたかの森駅は、つくばエクスプレス・秋葉原駅から30分弱の距離にある。
その名の通り、改札を出ると、駅周辺には自然豊かな緑が広がっていた。
駅前のメインストリート「森のまち広場」にはショッピングモールが立ち並び、発展が進んでいることを印象づける。
一方で、広場には多くの木が植えられ、芝生の面積も広いため、都市開発と自然がバランスよく共存している。ショッピングモール自体もウッド調の外観を採用し、街全体に温かみのある雰囲気を醸し出していた。
(※1)令和6年地価公示|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/content/001724345.pdf
(※2)令和7年地価公示|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/content/001873086.pdf
(※3)人口増加率6年連続1位*を誇る千葉県流山市人口21万人超! 流山はなぜ住む人にとって魅力的なのか?|千葉県 流山市(PR Times)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000135765.html
オオタカは本当に生息しているのか? 市の回答は……
「森のまち広場」には、駅名の由来となったオオタカの像が高くそびえ立ち、周囲を見下ろすように設置されている。
像の台座には、市民が自然やオオタカを大切に守ってきたことを示す文章が刻まれているが、果たして地元の人々は実際にオオタカを見たことがあるのだろうか。
「ここに住んで18年だけど、オオタカなんて見たことないよ(笑)」(80代男性・無職)
「野鳥はいますけど、それがオオタカなのかはわかりませんね」(20代男性・学生)
「オオタカがいたのって、たぶん昔の話じゃないですか? もともと自然は多いほうだと思いますが、駅の開発で森を伐採しているので、住処は減っていると思いますね」(30代男性・会社員)
どうやら地元住民の間でも、オオタカの実在については懐疑的な声が少なくないようだ。この点について、流山市役所の環境政策課に問い合わせてみた。
担当者によると、「当初から現在まで、複数羽が生息していることは確認しておりますが、生息数については把握しておりません」とのことで、その実態は不明だという。
では、現在オオタカはどこに生息しているのか。これに対しては「主な生息地は市野谷の森(通称:おおたかの森)になります」との回答があり、今も生息していること自体は確認されているとのこと。
しかし、くわしい生息場所については「オオタカやその営巣地を保護する観点から公表しておりません」としており、街のシンボルであるにもかかわらず、その存在は謎に包まれている。
子育て支援政策が裏目に出た部分も?
駅周辺を散策すると、車が行き交う大通り沿いにはビニールハウスが軒を連ねる光景が広がっていた。整備された駅前広場の発展ぶりと比べると、そのギャップに思わず驚かされる。
通りに立つバス停の時刻表を確認すると、本数は非常に限られており、公共交通の便がまだ十分とは言えない様子もうかがえる。
また、遠くには森のような景観も確認できた。駅前はショッピングモールを中心に急速に発展しているものの、その周囲には緑が広がり、まさに駅名どおりの環境が今も残されているようだ。
一方で散策を続けるうちに、ひと際目を引くおしゃれな建造物を発見。まるで東京の一等地に建っていても違和感のない洗練された外観だが、驚くべきことに、これは流山市立の小学校であるという。
この学校については、周辺住民に話を聞く間も頻繁に話題に上がっていた。というのも、流山市は手厚い子育て支援を打ち出しており、それが市の魅力となる一方で、新たな課題も生じているという。
「市が子育て支援にすごく力を入れていて、それを魅力に感じて移住する人もいるくらいです。たとえば、駅前には『保育の送迎ステーション』という施設があって、ここに子どもを預けると各保育園まで送迎してくれるんです。
家から保育園が遠い人にとってはありがたいし、出勤前や退勤後に駅でピックアップできるので、すごく便利ですよ」(30代女性・主婦)
「ファミリー層が住みやすいと評判になり、移住者が増えた結果、今度は子どもの数が増えすぎて小学校の受け入れが追いつかない問題が出てきています。
知り合いの家では、学区の変更によって自宅から遠い学校に通うことになったそうです。新設校と昔からある学校の間で、どちらに通えるかによって“勝ち組・負け組”のような格差も生まれていると聞きました」(40代男性・会社員)
「うちの子はもう小学校を卒業しているので、くわしくはわかりませんが、学区の区割り変更が頻繁に行われているようですね。
去年も新しい学校が開校したばかりですし、市が移住を積極的に促進した結果、想定以上に人口が増えたのではないでしょうか」(50代女性・パート)
周辺には畑や森が広がり、子育て支援にも力を入れるなど、多様な特徴を持つ流山おおたかの森。この急成長を続ける街の地価は、来年もさらに上昇を続けるのか、それとも新たな変化が訪れるのか。今後の動向が注目される。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班