
大ヒット映画『翔んで埼玉』に代表されるように、埼玉県は“のどかな地域”というイメージから、何かとネタにされがちだ。しかし近年では再開発が進み、首都圏の“おしゃれタウン”のように姿を変えつつある街も存在する。
まるで武蔵小杉? 開発で変わりつつある所沢市
「日本の航空発祥の地」として知られ、埼玉西武ライオンズの本拠地・ベルーナドームがあることでも有名な埼玉県所沢市。東京都東村山市に隣接し、2020年の国勢調査では人口34万人を超え、埼玉県内ではさいたま市、川口市、川越市に次ぐ第4位の規模を誇る。
そんな所沢市では近年、駅周辺の再開発が進行中で、より快適で住みやすいエリアへと変貌を遂げつつある。その影響もあってか、現在の所沢は「まるで武蔵小杉(神奈川県川崎市)のようだ」と評されることもあるというが、本当なのか。
所沢は西武ライオンズのお膝元。街を歩けば、球団や選手のポスター、フラッグなどがいたるところに掲出されている。所沢駅の構内にも関連ビジュアルがズラリと並び、ファンにはたまらないスポットとなっている。
駅の改札を出ると、目の前には西武百貨店と対峙するかのように、周辺でもっとも高いタワーマンションがそびえていた。2020年に完成したこの物件は、武蔵小杉のタワーマンションと同様、比較的裕福な層が多く入居しているという。
このタワーマンションに隣接するのが、2024年9月にオープンした商業施設「エミテラス所沢」だ。
館内には食品スーパーマーケットであるサミットをはじめ、ユニクロ、H&M、家電量販店のノジマなど、生活に欠かせない店舗がひと通り揃っている。
さらに、大手書店のジュンク堂、スポーツデポ、ベビー用品専門店のアカチャンホンポまでテナントとして入り、住民は日々の暮らしのほとんどをこの施設内で完結させることが可能だ。
エミテラス所沢1階のフードコートをのぞけば、ベトナムフォー、スムージー、ドーナツといったオシャレなラインナップの飲食店が並ぶ。一般的な商業施設のフードコートとは異なる雰囲気を醸し出しており、より洗練された印象を受けた。
開発が進むのは駅周辺のみ? 近隣には昔ながらの住宅街も
タワーマンションやエミテラス所沢の登場により、大きく姿を変えつつある所沢駅周辺。
しかし、最新施設が立ち並ぶのは駅のごく近くに限られており、路地を1~2本入れば、そこには昔ながらの民家が軒を連ねる静かな住宅街が広がっていた。
築年数が浅そうな住宅もあるものの、全体的には昔からこの地に根付いていそうな家が多い。道端には鳥居も見られ、街並みにはどこか歴史の深さが漂っていた。そんな風景の中、道行く人々に話を聞いてみることにした。
「ここ(エミテラス所沢)を使っているのは、最近タワーマンションに引っ越してきた人たちばかりじゃない? 中のサミットは近いけど、私はあまり行かない。少し歩けば『オーケー』があって、そっちのほうが安いからね」(70代・主婦)
「タワーマンションが建つ前から、このあたりはスーパーや家電量販店、複合施設も多くて住みやすかったですよ。たぶん、地価もだいぶ上がっているんじゃないでしょうか」(40代・主婦)
その後も聞き込みを続けていると、反対の所沢駅東口側でも、大型マンションの建設が進められているとの情報をキャッチした。そこで東口側に向かってみると、西口側とは異なる光景が広がっていた……。
所沢市は“東西格差”が著しい? 大型施設はあるものの…
所沢駅の東口を出て、商店街を抜けると、視界の先に広がっていたのは一面の畑。
畑道をそのまま直進すると、スーパーやファストフード、家電量販店が入ったショッピングモールのような施設を発見した。
取材時は人影もまばらな印象を受けたが、将来的には多くの人で賑わう場所になるのだろう。というのも、ちょうど道を挟んだ向かい側では大型マンションの建設が進められており、現場には重機がひっきりなしに出入りしていた。
現時点では、タワーマンションやエミテラス所沢が立ち並ぶ西口と、畑が広がる東口とでは、周辺環境や暮らしやすさに明らかな差があるように感じられた。このギャップについて、東口周辺でも話を聞いてみた。
「自宅は西口側にあるんだけど、店はここ(東口)で40年以上やっている。東口は昔から山ばかりで、人なんて全然いない。マンションとかショッピング施設が建ったのも、本当につい最近で。それに比べて西口は、土日なんか人がすごくて、買い物どころか、施設の中を歩くのも大変なくらいだよ。
今、東口では大きなマンションを建てているけど、完成しても人が入るのかな。
「東口と西口では、正直かなり格差がありますね。でも、川越や春日部と比べたら、所沢のほうがずっと栄えていると思います。実際、周辺の街から買い物に来る人も多いですから。ただ、所沢住民のなかには、池袋や新宿まで出ちゃう人も多いんですけどね」(40代・主婦)
ちなみに所沢は、映画『となりのトトロ』の舞台のモデルになった地としても知られている。駅前にはトトロの銅像が設置され、発車メロディにも映画の楽曲が使用されているなど、街全体で作品の世界観を感じられる。
しかしその一方で、かつての豊かな自然は次第に開発によって姿を変えつつある。環境保護に熱心だった宮崎駿監督は、今の所沢を見て何を思うのだろうか……。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班