
青森県十和田市奥瀬に軒を構える『温泉民宿南部屋(なんぶや)』。昔ながらの風情が残るこの場所で、なんともほっこりする客が訪れたようで、SNSで大きな話題となった。
「懐かしくて思わず泣きそうになった」
「加温・加水・循環・消毒」を一切行わない“湯使い”にこだわった「源泉100%かけ流し」の温泉としては、あまりにも激安な宿泊料金が宿のウリだという南部屋。
母屋は大正時代に建てられた古民家を移築したもので、日頃忘れられがちな「昔ながら」「懐かしさ」「素朴さ」を大事にするため、テレビやエアコンなどは置いていない。自然を感じながらゆったりとしたひとときをおくることができる。
この民宿ではここ数年、飼っている2匹のワンコがSNS上で大人気を博している。ワンコ効果なのか、Xのフォロワーは10万人を超えるほどだ。
そんな南部屋に、素敵なお客さんが訪れたと報告があった。
〈今朝、湯治で長期滞在されていたお爺ちゃんがチェックアウトしたのですが、お帰りになった後に客室を見たら…部屋の電灯がカスタマイズされてた(笑)
寝床で全て完結させたかったんだろうな…実家の自分の部屋とかコタツのある部屋とかを思い出して、懐かしくて思わず泣きそうになった。。。〉
そうつづりながら投稿した写真には、照明器具のスイッチ紐に、さらに紐をくくりつけて延長させた様が収められている。
今朝、湯治で長期滞在されていたお爺ちゃんがチェックアウトしたのですが、お帰りになった後に客室を見たら…
— 温泉民宿 南部屋(なんぶや) (@nanbuya_towada) February 5, 2025
部屋の電灯がカスタマイズされてた(笑)。
寝床で全て完結させたかったんだろうな…
実家の自分の部屋とかコタツのある部屋とかを思い出して、懐かしくて思わず泣きそうになった。。。 pic.twitter.com/agHdg2wCEG
実家の部屋を思い出してしまうようなこの光景は大きな話題となり、反響が続出している。
〈あ~!父親の部屋にありました、この紐。自分も見たら泣いちゃうかも〉
〈まじ込み上げる気持ち分かります。うちの爺ちゃんの部屋の電気も同じくカスタマイズされてましたよ〉
〈時々猫が飛びついて、誰もいないはずの部屋の明かりがついたり消えたり……ってなるやつや〉
〈凄いですよね…ただの紐1本なのにあふれ出る実家感、ノスタルジー 長期滞在されたお爺ちゃんにとってはもう紐が当たり前になってしまって取り去るのを忘れちゃったんでしょうね〉
民宿は、熟慮と議論を重ねた結果、この紐を少しくくってそのまま残すことにしたという。
長期滞在したおじいちゃんの正体は?
いったい泊まっていたのはどんなおじいさんだったのだろうか。『南部屋』の経営者・田村さんに話を聞いた。
「このお客様は一月下旬~二月上旬にかけて10日間程、湯治目的でお泊まりになりました。70~80歳前半くらいの男性のお友達同士、計3名様(それぞれ別室)、恐らく地元十和田周辺の農家さんだと思います。
地元の農家さんの中には農閑期となる冬場に、一年の疲れを癒すために湯治目的で当館に長期滞在される方は毎年珍しくなく、このお客様も、チェックインの際に自身が作ったという地元産のニンニクやゴボウ、長芋などを差し入れに持って来てくれました」(田村さん、以下同)
田村さんはそれらの食材を調理して、滞在中の食事として提供。そんなときには、今年の作物の出来具合や味の良し悪し、天気や雪の降りぐあいなどの会話を交わしたそうだ。
チェックアウトして帰るときは、「いい湯だったぁ~!」「また来年来るからね~」と喜んでくれていたというおじいさんたち。彼らが帰った後、田村さんが部屋に入ると、SNSでも話題になったあの光景があった。
「当館では長期滞在の場合“お客様から依頼があった場合のみ”2~3日に一度、部屋の清掃やリネン交換に入っています。
今回の3名のお客様は、『滞在中は部屋の清掃は不要』『リネン(タオルやシーツ、布団カバー、枕カバー、浴衣)の交換は3日に一度、交換したい使用済みの物を部屋前の廊下に出し、新しいリネンを部屋前に置いておいてほしい』というご希望たったので、チェックアウト後にはじめて、カスタマイズされた紐に気づいたのです」(田村さん、以下同)
長期滞在する客の中には、 “湯治目的”の他に、仕事での長期滞在というケースもある。仕事利用の人のほとんどは、八甲田・十和田湖周辺の山中での工事関係者。山中にある電力関連施設の保守・メンテナンス作業のために、数週間~数か月単位で泊まることもあるそうだ。
療養中のワンコ、会えたらラッキー
湯治目的の方はもちろん、冬期に山中の極寒の環境で毎日作業する人にとっても、宿を選ぶ際に最も重視することは、食事や設備・値段等ではなく、仕事終わりに冷え切った身体をいかに温めてくれる『いいお風呂・お湯』があるかという点だという。
極上の温泉とかわいいワンコに会えることで人気の南部屋。しかし昨年からワンコの一匹が大病をして現在療養中。宿が基本的にはワンオペということもあり、ワンコを宿に出せる機会がかなり限られているため、残念ながら来訪したとしても、必ず2匹に会える保証はないという。
しかし、イレギュラーを楽しむこともまた、旅の醍醐味と言えるだろう。
取材・文/集英社オンライン編集部