認知症の母が残した「もっとやりたいことをやっておけば良かった」で一念発起しホテル業界からコンサル独立へ「雇われない働き方」で親の介護と自身の老後と向き合える
認知症の母が残した「もっとやりたいことをやっておけば良かった」で一念発起しホテル業界からコンサル独立へ「雇われない働き方」で親の介護と自身の老後と向き合える

現代の50~60代の共通の悩みとして、後期高齢者となった親との向き合い方の難しさが挙げられる。介護やケアをしながらも、自身のキャリアやライフスタイルはできるだけ担保するには‥‥その一手は、「雇われない働き方」にあり?

元「とらばーゆ」編集長、河野純子氏の新刊『60歳の迎え方 定年後の仕事と暮らし』より一部抜粋、再編集してお届けする。

〈全3回のうち2回目〉

親の介護に向き合う時間は、自分の人生を考える時間

年老いた親とどう向き合っていけばいいのかは、私たちの年代の共通の悩みです。すでに介護を経験した人、いままさに介護をしている人もいるかと思います。

それぞれの親の健康状態や住んでいる場所、夫や兄弟姉妹の有無、経済状況などによって、必要な情報や選択は異なってきますが、ここでは私自身が学びになったライフシフターの選択をご紹介したいと思います。

B.Kさんは、認知症の母親の介護のために会社員を卒業し、「雇われない働き方」へとシフトしました。

新卒で入社したホテル業界のブライダル部門で長年活躍してきたB.Kさんですが、40代に入ると母親の介護が必要に。ひとりっ子のB.Kさんは、離れて住む母親の世話をするために時間のやりくりがしやすい別部門に異動します。

けれども新たな上司との人間関係や、100%仕事にエネルギーを注げない負い目もあり、また会社が急成長する中で自身のキャリアパスが見通せなくなったことなども重なって、心が騒ぎ始めたのです。とはいえ愛着のある会社を退職する決心がつかないまま、1年以上がすぎていました。

そんなB.Kさんをはっとさせたのが、母親の「私、こんな風になってしまうんだったら、もっとやりたいことをやっておけば良かった」という言葉でした。その言葉を聞いて、自分がそれまで会社人間で、自分の人生を生きていなかったことに気づいたといいます。

そして「このまま続けていたら、母のように晩年に自分の人生を後悔することになるかもしれない。母が最後の最後に自分に教えてくれることがこれなのか」とありがたさがこみ上げ、退職することを決意します。

けれどもやりたいことがわからない。

そこでB.Kさんは介護をしながら、本で学んだ「人生を振り返るワーク」をして自己理解を深め、キャリアコンサルタントという仕事を導き出しました。

資格を取得し、講師経験を積むために半年ほど人事コンサルティング会社に勤務しましたが、自分の人生を生きるために早々に個人事務所を設立。現在は職業訓練校の講師の仕事をメインとし、誰もが自分に合った仕事に就けるようアドバイスをしています。

母親は退職後1年ほどで亡くなりましたが、B.Kさんは仕事を辞めて介護に専念してよかったと語っています。

「やれることはやったので納得して見送ることができましたし、自分の人生を考える時間をもらえ、その時間も母からのギフトだったと思います」と話していました。

私がB.Kさんのライフシフトから学んだことは、親の介護と向き合う時間は、自分の人生と向き合う時間でもあるということ、そして会社員であれば通算93日間の介護休業があるので安易に離職しないほうがいいという考え方もありますが、いずれは会社員を卒業するのですから、親の介護に向き合う時間を活かして、「雇われない働き方」へとシフトするのも1つの方法だということです。

自営業なら介護にも対応できる

「雇われない働き方」であれば、長い介護期間にも対応できることを教えてくれたのは、70歳のいまも社会保険労務士として活躍しているM.Mさんです。

M.Mさんは20代後半~60代の間の多くの時間を、家族の介護と3人の子どもの子育てに費やしてきました。

20代後半に離れて住む父親の介護が始まりました。30代はじめに義父が倒れて介護が必要となり、義祖父・義母との同居を開始。40代は介護も子育ても少し落ち着いたので、この間に自分のやりたいことを模索し、社労士の資格を取得し開業します。

けれども50代で義父の状態が悪化。60代になってからは実母と姉、義兄の介護が始まったため、仕事に費やせる時間は30%ほどだったといいます。



それでも社労士という仕事はM.Mさんにとってようやく手繰り寄せた天職。活動の幅を広げるために始めた研修講師の仕事は時間の自由度がないため手放しましたが、自分の責任と裁量でできる社労士の仕事は大切に続けてきました。

悔いのない介護を終えて70歳を迎えたM.Mさんは、いま時間的な余裕を手にしてあらためて自分のしたいことを広げていこうとしています。

そんなM.Mさんから50~60代の私たちへのアドバイスは「介護が生じたときには、周囲の助けを積極的に求めること。周りの目を気にすることなく、時には鈍感力を発揮して続けてきた仕事、趣味や楽しみを手放さないこと。それが豊かな将来につながります」ということでした。

生命保険文化センターの調査では平均の介護期間は5年とありますが、M.Mさんのように30 年以上続くこともあります。これまでいつまで続くかわからない介護と仕事の両立は、なかなか答えが見えないテーマだと思っていましたが、「雇われない働き方」を選択することで、ぐんと両立しやすくなることを知り、私はほっとしました。

さらにリモートワークを組み合わせれば、例えば一時的に親の住む地方に移住をしても仕事はできそうです。

どのような形の介護が最適かはそれぞれの家族の事情によりますが、いずれにしても人生は長い。仕事のペースを少し落としても決して手放さずに、まずは悔いのない介護をすることが大事ではないかと思います。

「もっと親にやさしくしてあげたかった」という人にはお会いしますが、介護に費やした時間を後悔しているという人にお会いしたことはありません。

文/河野純子 写真/Shutterstock

60歳の迎え方 定年後の仕事と暮らし

河野 純子
認知症の母が残した「もっとやりたいことをやっておけば良かった」で一念発起しホテル業界からコンサル独立へ「雇われない働き方」で親の介護と自身の老後と向き合える
60歳の迎え方 定年後の仕事と暮らし
2024/12/241,870円(税込)248ページISBN: 978-4041151921

60歳は人生の転換点。これからの40年は、楽しく働く、自由に生きる。

「とらばーゆ」元編集長にしてライフシフト・ジャパン取締役CMO、
人生100年時代のライフシフトを研究する著者がひもとく、60歳からの仕事と暮らしのリアル。

健康寿命が延びる時代、お金の不安を解決する唯一の方法は「働き続けること」。
65歳までを「待ち時間」とせず、「雇われる働き方」から「雇われない働き方」へとシフトする準備を始めよう。
目標は好きな分野で小さな仕事を立ち上げて、90歳まで続けていくこと。
そして住まいや家族、人とのつながりを見直して、幸福度をアップさせること。

60歳からの人生は自由で楽しい。
会社や家族のためではなく、自分の人生へ。ライフシフトの旅を始めよう。

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