
全国各地が観光客でにぎわっている大型連休。なかでもオーバーツーリズムが深刻化しているとされる京都のにぎわいは際立っている。
日本人よりも外国人が多い? 京都の現状
今年2月、京都の高台寺岡林院の住職がSNSにこんな投稿をして話題になった。
〈申し訳ありませんが、共存は無理だと思います。これ以上京都、日本が食い荒らされれば、日本が日本ではなくなります〉
その背景には、観光客による繰り返される迷惑行為があるという。400年以上の歴史を持つ岡林院では、参道の橋の欄干が壊される、ゴミが放置されるなどの被害が続いていた。
4月にも、外国人観光客が休山日だった寺の石垣を無断で登り、建造物侵入の疑いで逮捕される事件が発生した。ほかにも、鳥居で懸垂をする女性の動画や、「祇園さん」として親しまれる八坂神社で鈴の緒を振り回す外国人観光客の姿がSNSで拡散されるなど、「マナー問題」がたびたび物議を醸している。
SNSでは「京都はもはや外国人に乗っ取られている」などといった悲観的な声も少なくない。だが、実際に現地の様子はどうなのか。4月下旬の休日、京都を訪れた。
JR京都駅付近は多くの外国人観光客でごった返しており、日本人の姿はまばらだ。駅構内のフロアに座り込む旅行者も見受けられた。
だが一方で、京都の街を歩いて感じたのは、その清潔さだった。報道では観光地でのゴミ問題が報じられることもあるが、大通りなどでは目立つようなゴミはそれほどなく、全体としてはキレイな街並みが印象的だった。
ただ、街のいたる所で注意喚起の張り紙は目についた。「ポイ捨て禁止」の掲示が、日本語だけでなく英語、中国語、韓国語など複数言語で至るところに貼られており、問題への対処に苦労した形跡がある。
では、実際にここで暮らしている人はどう思っているのだろうか。清水寺近くで長年お土産物屋を営む70代女性は、外国人観光客の増加を前向きに受け止めていた。
「コロナ禍と比べたら全然違います。観光客の方がようさん買ってくれはって、問屋さんも製造が追いつかないみたいで、うれしい限りです。注文を出しても、なかなか入って来なかったりとかもするくらいです。売れ筋のものはすぐになくなりますね。お箸とか茶道具なんか、今年はもう全然入って来ないほどで」
敬意を持って来日する人が増加
別の土産店経営者の70代男性店主もこう語る。
「外国からの観光客が多いことは、商売している人はありがたいと思いますよ。コロナ禍での数年間は、本当に大変でしたから。もうホンマに辛かった。それを思うと、ありがたい。おかげさまで助かる。この人らが来てくれんと、つぶれそうですよ。ただ、商売とか関係あらへん、普通に住んでる人は混雑とかあるし、やっぱり大変でしょね」
周辺の人に聞いてみると、特に困っているのはバスや電車の混雑だという。一方で、多すぎる外国人観光客については、「そもそも観光地に行かない」という対処をしているようだ。実際、観光名所は外国人をはじめとした観光客だらけだが、少しエリアを離れれば一気に日本人のほうが多くなり、棲み分けがされているようであった。
外国人観光客が多く訪れる京都駅近くにある有名な寺の住職からも、好意的な意見が聞けた。
「たまに外国人観光客の迷惑な行為とかが報じられてますけど、あんなん特異な例でっしゃろ。そりゃバスが混みすぎたり、会話の声が大きかったり、あとはゴミの問題とか、行政がよろしゅうできてないって思うところもたしかにあります。
せやかて、来てくれはる観光客のほとんどはきっちりしてるし、マナーいいですわ。なんなら日本人よりもええかもしれん。昔は文化知らんからって無茶なことする人もおったけど、今は“郷に入れば郷に従え”って意識がありますわ。コロナ禍前とかと比べたら、ホンマに変わったと思う」(京都の住職、以下同)
長らく京都の街の変遷を見てきた住職は観光客の増加自体にも、感謝の気持ちがあるという。
「来てくれるのは、そりゃありがたいですよ。当たり前やろ。10年くらい前やったら、寺に上がるとき靴脱がへん人もようおった。でも今はちゃんと勉強して来てはるわ。拝む人も増えたしな。日本に来る前から学んできていると思うわ。
昔はよく質問されたから英語で答えようと英語の勉強を頑張ったけど、今は誰からも何にも聞かれへん。もう自分らで調べて来てはるんやな。
ただ、その一方で、観光ブームの「その後」を懸念する声もあった。
「今は宿代も高いでしょ。前は1万円くらいやったとこが、大型連休中とかやと3万円とかになってますさかい。そら国内旅行の日本人やと、なかなか泊まられへんよ。この寺では、15時過ぎたら外国の人しかおらんなんて日はなんぼでもあります。
観光客の数自体は増えてるけど、日本人は減ってる。この状態、いつまで続くんやろなあ。もし外国人観光客のなかで京都ブームが終わったら、日本人は戻って来てくれるんかな」
外国人観光客の過度な増加で、現地で暮らす人たちが観光客“疲れ”を感じている面は確かにある。だがその一方で、多大な恩恵を受けていることも事実だ。
「観光」と「暮らし」、そのちょうどいい距離感を、どうやって見つけていくか。京都は今、その答えを探っている最中なのかもしれない。
取材・文・撮影/集英社オンライン編集部