〈価格変動制の弊害〉プロ野球のチケット高騰化でファン離れの危険性も…その一方で巨人がダイナミックプライシングを導入しない理由
〈価格変動制の弊害〉プロ野球のチケット高騰化でファン離れの危険性も…その一方で巨人がダイナミックプライシングを導入しない理由

近年、プロ野球界において多くの球団で導入される価格変動制のチケット購入システム「ダイナミックプライシング」(DP)。その影響で外野席のチケット代でさえ1万円を超えるなど、球界にチケット高額化の波が押し寄せている。

そのなかで、DPを導入しない球団に意見を聞いてみると……?

1万円を超えるチケットは最終的に500円に

例年どおり、盛況だったプロ野球のゴールデンウィーク興行。5月9日終了時点で12球団の1試合あたりの平均観客動員数は3万1320人と数字上は好調だ。

しかし、実際に球場に足を運んだ30代のプロ野球ファンは首をかしげる。

「僕が観戦に行った4月29日(昭和の日)、神宮球場のヤクルト対DeNAでも試合終盤に“満員御礼”がアナウンスされていました。

ですが、周囲に一度も人が座ることのなかった席がたくさんあったし、全体を見まわしても空席が散見されていて、『本当に満員?』と思いましたね」

実際、試合前にヤクルト主催試合の観戦チケット販売サイト「スワチケ」で空席状況を確認すると、エリアによっては半数近くの席が売れ残っていた。ヤクルトは需要に応じて価格が変動するダイナミックプライシング(DP)を導入しているが、それでも初期販売価格より2000円ほど高く、特にホーム外野C1指定席は4300円が1万2000円になるなど、異常な値上がりを見せていた。

その中で、ヤクルトファンの間で注目を集めたのが「ちょこっと応援チケット」だ。球界のチケット事情に詳しい野球ライターがこのチケットについて説明する。

「ヤクルトの神宮主催試合で売られる『ちょこっと応援チケット』とは試合開始2時間後、もしくは6回裏終了以降に現地購入できる格安チケットで、初期販売価格は内野指定席1900円、外野指定席1200円となっています。

こちらもDPが適用される場合がありますが、4月29日の外野指定席の『ちょこっと応援チケット』はなんと500円でした。

もしかしたら、この500円のチケットを購入したファンによって、試合終盤、空席が目立たなくなったのかもしれません」

これに前出のファンは憤りを隠さない。

「DPって需要に応じて価格が変動するはずでしょう? なのに、チケットサイトで確認する限り、あまり売れてないエリアの料金も高騰している。

それが最終的にそれが500円になるわけですから、試合前に高いお金を出したファンがバカみたいです。

いったいどういう計算方法でチケット価格を算出しているんでしょうか」

ゴールデンウィーク明け最初の週末となる5月10日の神宮球場、ヤクルト対巨人戦。こちらもエリアによっては試合前段階でかなり空席が目立っていたが、レフト側ホーム外野B指定席(初期販売価格3200円)は6000円だった。

DPのサービス提供会社は価格変動の算出ロジックを非公開としている。

このままではファン離れを招く危険性も…

限られた日程、席数で球団の利益を最大化できるとして導入されたDPだが、はたして本当にそうなのか。

福岡在住の30代のソフトバンクファンによると「チームがスタートダッシュに失敗したせいか、今年のPayPayドームは空席が多いですね……。昨年はホークス主催60試合すべてが満員御礼だったのですが、今年の最終的な観客動員数はかなり減るんじゃないでしょうか」とぼやく。

こうした状況に前出の野球ライターは、球界の将来について警鐘を鳴らす。

「チケットを安価に販売して満席を作るより、空席が多くてもDPを導入したほうが球団の利益自体は上がっているのかもしれません。しかし、これが完全に定着し、世間から『プロ野球チケット=価格の高いもの』という認識が根づけば、ファンの“現地観戦離れ”は避けられません。

各球団はチケット代やグッズ売上、球場内の飲食代など現地収益に頼っている部分があります。ただでさえ今は配信環境が充実していて、球場へ行かなくてもプロ野球を見る手段がたくさんある。

現地で観戦するファンを蔑ろにして目先の利益ばかり追っていると、しっぺ返しが来るとのではないでしょうか」

現在、7球団がDPを導入している。

注目すべきは巨人、阪神という球界屈指の人気球団が現状、まだDPを導入していない点だ。

一般的には収益が上がるはずなのになぜなのか。巨人軍の広報部に問い合わせると以下のような回答が返ってきた。

DPを導入しない巨人の矜持

「①お仕事等の関係で土日祝日にしか球場に足を運べない方々や、お子様連れのファンの方々がご来場しやすいこと、②外野席から熱い声援を送ってくださる熱心なファンの方々が年に何度も来場していただけるようにすること――の2点を重視し、一般入場券の価格を設定しています。

近年の諸物価の上昇に対応しながら、チームの強化とファンの皆様の観戦環境の整備を図るため、今シーズンは、一般入場券の土日祝日、及びユニホーム配布日など特定の試合の価格を『カテゴリーⅡ』と称して若干高く設定させていただきましたが、それ以外の試合である『カテゴリーⅠ』との価格差は最大500円としました。

曜日や対戦カード等によって価格を極端に高くするなどした場合、土日祝日にしか来場できない方々や対戦チームのファンの方々の観戦機会が失われかねないためです

当球団としては来シーズン以降も、今以上に多くのファンの皆様の満足度を高めることができるよう一般入場券の適切な価格設定に努めてまいります」

DPを度外視しても、複雑化する料金体系が当たり前になったプロ野球にあって、東京ドームの巨人戦チケットは、上記のとおり2つのカテゴリーだけと実にわかりやすい。そして、外野指定席は「カテゴリⅠ」2300円、「カテゴリⅡ」2600円で固定と、DPを導入する球団のチケットと比べてかなり安い。

DPによって利益を最大化することか、それともライト層も含めた多くのファン獲得のためにチケット料金を明瞭化することか、どちらが球界にとってプラスなのか。数年後には答えが出ているかもしれない。

取材・文/集英社オンライン編集部

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