
AIエンジニアで起業家、SF作家の顔も持つ安野貴博氏(34)が、今夏の参院選へ向け政治団体「チームみらい」を設立した。「テクノロジーで誰も取り残さない日本へ」を掲げる安野氏に、目指す政治の形を聞いてみた。
「自分が専門家として貢献できる領域が見つかりました」
――昨年の東京都知事選に出馬し、落選したものの約15万5千票を集められました。なぜ今度は国政を目指すのですか?
安野貴博(以下、同) テクノロジーをどう使うかが社会の形を大きく決める時代に入っています。デジタルテクノロジーに強い政治家がいない中、都知事選を通じ自分がその分野の専門家として貢献できる領域が見つかりました。
貢献する方法を考えたとき、政治家や行政を外から変えるには大きなハードルがあり、自分たちで素早く動ける政治集団をつくり実際に永田町に入っていくしかないと思いました。
――どういった政治を目指しますか。
目指すのは「テクノロジーで誰も取り残さない日本」です。日本は30年間、GDPはほとんど伸びておらず、実質賃金はマイナスです。そして少子高齢化、人口減少、財政赤字と今より悪くなる材料がたくさんあります。
大事なのは一時的なカンフル剤を打つのではなく、長期的な経済成長ができる構造に変えることです。そのために必要なことは3つ。
1つ目は、民間企業では当たり前のデジタル(技術の活用)をしっかり行政に持ち込むこと。
2つ目は、変化が激しいこれからの時代に対応できる仕組みづくりをすること。
3つ目は、前の2つで生まれた余裕を使い、長期に成長できるようなものに全力で大胆に投資をしていくことです。
――そこへ向けた当面の参院選の闘い方を教えてください。
私を含め10人程度が立候補します。比例区で2議席の獲得が目標です。
――その目標が達成できるかどうか、AIは何と言ってますか? 聞いてみましたか?
専門家の私からすると、AIにパッと聞いて答えてきたものはそんなに信頼できないなと思ってるので、そこはそんなにアテにすべきところじゃないなと思ってます(笑)。
――AIでいうと、テクノロジー(AI)を使い、多くの意見を深く聞く「ブロードリスニング」を通じて政策を固めていくとおっしゃってます。具体的に教えてください。
5月16日にマニフェストの超初期版を発表しました。これら作成過程のマニフェストをもとに、有権者がわからないところや気になるところをAIとチャットしながら、ある種、仮想的な熟議をし、「変更提案」をできる仕組みをつくりました。
クローズドで行われていた永田町の政治をオープンにする
――仮想的な熟議とはどのようなものですか?
作成途中のマニフェストにチャットで有権者が意見を伝えるシステムになっています。
例えば、私たちは教育分野で「AIをチューター(個人指導の教師)として使うことで教育の効率を上げます」と訴えています。これを見た人の中には「AIを子どもに使うなんてよくない」と考える人もいるでしょう。その意見をチャット欄に書いてもらいます。
するとAIは「具体的にどういう点が良くないとお考えですか」と打ち返します。これに提案者は「AIを子どもたちに使わせると思考能力が奪われるとニュースで見た」と回答するとしましょう。
これを受けたAIは、「生徒がAIに思考を丸投げする可能性があるがゆえに、答えは教えず、生徒が行き詰まっている部分だけを教えていきます」「懸念は和らぎましたか、それとも不十分ですか。具体的にどういう対策があれば安心できるか考えていきたいです」などと答えます。
――まずAIと議論してもらうわけですか。
こうしたラリーを繰り返すことで双方にとって問題点が具体的に絞られ、新しい情報も得られる。そしてある程度議論が尽くされると「改善提案書を作りませんか」とAI側が提案してきます。提案者の意見が最後まで変わらず、指摘した政策そのものを削除すべきだとの提案書になることもあります。
この改善提案書の形にまでまとまったものが、マニフェストの超初期版「ver.0.1」の発表からすでに2570件を超えており、これらはオープンに誰でも見ることができます。
こうして揉まれた提案を最終的に私たちや党のスタッフが、マニフェストに取り入れるかどうかを判断し、バージョンアップを繰り返していきます。
そして、「チームみらい」がこれらの提案のどれを採り入れ、どれを採り入れなかったのかもすべてログで残り公開されるため、結果として既存政党よりもはるかに透明性が高い形で政党の考え方がデータとして残っていくわけです。
これまで政党の公約への意見募集というのは、最初に示した公約案に有権者がどのような提案をし、それがどのように採用されたのか、されなかったのかもわからないものでしたから。
――透明性を維持してつくった公約だから説得力を持つという考えですね。
かなり正しい理解です。今までの政党の政策形成過程はかなりブラックボックスになっていたと思います。業界団体のロビー活動や陳情は一概に悪いとは思いませんが、他の人には誰がどういう陳情や提案をし、それがどのように反映されたのかはまったく分からないですよね。
われわれはクローズドで行われていた永田町の政治に対して、こういった仕組みでオープンな新しいプロセスを打ち立てることができるんじゃないか、そして業界団体の方しか向いていないんじゃないかと疑われるブラックボックスだから起きる問題を、一定程度解決できるんじゃないかと思っています。
――「テクノロジーで誰も取り残さない日本へ」と掲げていますが、高齢者やテクノロジーに弱い人はチャットでの意見表明もできないんじゃないですか?
ITはパソコンの中身を知れば知るほど強くなる、知らないと使えない技術なんですけど、AIは人間に話すのと同じように使うことができます。なので、むしろAIが進化していくとご高齢の方でも若者が享受していた便利さを享受できるようになります。電話で
「AI安野」に意見を言ったり質問ができたりする仕組みも都知事選で採り入れていました。
オフラインのコミュニケーションを軽視しているのではありませんが、いっぽうで、陳情する時間もない現役世代の中にも取りこぼされてきた意見が大量にあると思っています。なるべく多くの人が参加できる仕組みづくりをするという意味では、24時間可能なAIとの議論が間接的にわれわれに届くことは有意義だと思っています。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 撮影/村上庄吾