
精巧に偽造された「週刊少年ジャンプ」を高値で売りさばいていた台湾人母娘の拠点は、避暑地のリラクゼーション店だった——。愛知県警が著作権法違反容疑で逮捕した陳詩芸容疑者と母親、弟らは、自身が経営するリラクゼーション店を「配送工場」とする大胆な手口で荒稼ぎしていた。
「誰がフリマアプリで売っていたんや!」
JR西那須野駅から南に約1.5キロメートル。田園地帯に戸建て住宅が点在するような町に、派手な2階建ての一軒家がポツンと姿を現した。外観は空色のペンキで覆われ、2階部分には「台湾式リラクゼーション 初回整体50分2800円」と赤色の大きな文字で店の広告看板が掲げられている。
陳容疑者らはここを拠点に、約30メートル離れた一軒家を倉庫として偽造された「週刊少年ジャンプ」の”配送工場”を運営していたのである。
同日午前11時前にリラクゼーション店と倉庫の家宅捜索が始まり、正午ごろには捜査員の大声が戸外にまで響き渡った。
「誰がスマホを契約して、誰がフリマアプリで売っていたんや! スマホの複数回線は名義がそれぞれ違うやろ! 誰が関わっているか、正直に話せ!」
これに対し、主犯格とみられる陳容疑者も負けじと大声を張り上げる。
「知らない。私は頼まれただけ。携帯見ればわかる」
そして午後1時52分、捜査員が陳容疑者を現行犯逮捕。約10分後、陳容疑者は店舗横の裏口から外へ出ると、詰めかけた報道陣を見て手錠をかけられた両手で顔を覆うように捜査車両へ乗り込んだ。
さらにその12分後、共犯として逮捕された母親が店舗の正面玄関から現れた。娘と違って顔を隠す素ぶりもなく、堂々としていた。
家宅捜索では人気漫画「ONE PIECE」の連載1話目が掲載されている「週刊少年ジャンプ(1997年34号)」の偽物が少なくとも6冊出てきたという。合同捜査本部はこの日の捜索に30人を超える捜査員を投入、陳母娘の他にも夫や弟から事情聴取する予定だった。陳容疑者は近くでラブホテルも経営しており、そこも倉庫として利用していたという。
「これはすごいね。儲かってるんじゃない?」って尋ねると…
陳容疑者はリラクゼーション店の建物を土地付きで2019年8月29日に購入し、昨年2024年11月15日にはリラクゼーション店のほか、リサイクル店や太陽光発電事業、建設業、ホテルや民泊などの宿泊サービスなどを目的とする会社を設立登記している。
店の建物と敷地を容疑者に売却した地元実業家は取材にこう答えた。
「私は陳容疑者のことは直接知らないんです。別の中国人のAさんという人から『友達が台湾マッサージをやるから』っていうんで売ったんですよ。700~800万円だったかな。それまでは私が新聞の販売店をやってたんだけど廃業したんで空き家になってたんですよ」
陳詩芸容疑者の10年来の友人は、店の開業の経緯などを詳しく知っていた。
「陳さんは台湾から20年以上前に日本に来たと聞いています。私が知り合ったのは10年以上前のことで、彼女は当時は市内の別の場所で“台湾式マッサージ”の店を経営していて、その時すでに日本人の建築関係で働く男性と結婚していました。
その頃は店も繁盛していたし、旦那さんの稼ぎもあったので『自宅兼マッサージ店舗になるような場所が欲しい』と言っていました。
それで今の店を800万円でキャッシュで購入しました。当初は陳さんも施術をしていたんですよ。今は従業員を1人使って経営に専念していたものの、最近は閑古鳥が鳴いていたのでマッサージ(リラクゼーション)では稼げてなかったと思います。旦那さんは変わらず作業着を着て朝出かけて働いていましたけど」
知人によれば、現在の店に移ってきた2019年当時から、物販の仕事も副業でしていたようだ。
「店の前に運送屋さん(の車)が停まって、陳さんが段ボールを抱えて出てくるのを見かけました。当初はその頻度も荷物も少なかったんですが、ここ1、2年はかなり頻繁に運送屋の車が荷物を受け取りに来ていたし、店内にも段ボール箱が足の踏み場もないくらい積まれていました。店の前の住宅も倉庫代わりにしていたので、かなり手広くやってるのかなとは思っていました。
コピー品のCDの類だという噂は聞きましたが、本人に直接聞いた事はありません。ただ、陳さんに『これはすごいね。儲かってるんじゃない?』って尋ねると、口にチャックをする仕草をして何も答えてくれませんでした」
弟が免許をとると軽自動車をプレゼント
この「副業」は陳容疑者の母親や弟だけでなく、近所のお年寄りの男性2人も手伝っていたという。
「陳さんも旦那さんも暮らしぶりも地味だし、ネコや犬の動物が好きで家でも犬を飼っていてお金を使うとしてもそのくらいじゃないですかね。
陳さんは持病で心臓が弱いし、食べても太らないんだと言っていました。中国人や台湾人と仕事してると言っていたから組織的な犯罪じゃなければいいですけどね。
彼女は旦那さんとも仲良く、『映画観に行ってくる』と出かけたり本当に普通の人です。日本語をうまく読めないので、私のところに『これなんて書いてある?』とクレジットカードの明細を持ってきたりすることもあったので、『個人情報だからこれは人に見せちゃダメだよ』と教えた事もありました。
陳さん自身はとてもいい人ですし、何か組織の人間とかではないと思います。ですが、お金を稼ぎたいという思いがあってやってしまったんでしょうか……」
陳容疑者が組織的犯罪に主体的に関与したのか、それとも小遣い稼ぎのつもりが首までどっぷりと浸かってしまったのか。捜査本部の解明を待つばかりだ。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班