
人気漫画の第1話が掲載されている「偽造された週刊少年ジャンプ」を販売したとして、女性2人、男性1人(いずれも台湾籍)が逮捕された事件。彼女らが拠点として使っていたリラクゼーション店と倉庫として使っていた平屋の一軒家に集英社オンラインは足を踏み入れた。
コロナのときの“手作りマスク”の販売から始まった
栃木県那須塩原市の田園地帯のリラクゼーション店に、愛知県警の家宅捜索が入ったのは6月18日の午前のこと。
翌日の19日夕方、店舗の玄関前に置かれた小包を、付近に停めた軽自動車に運ぼうとする中年女性がいた。記者が声をかけると「私は陳さんと同じ台湾人で、店の元従業員だ」と名乗るものの挙動がおかしい。
手にした小包の中身をきくと慌てて元の場所に戻し「これ、私のじゃないからわからない」「あなた何言ってるかわからない」と話をはぐらかした。
付近に停まっていた車には、短髪で、日に焼けて褐色の肌をした中年の日本人男性が乗っており、記者をにらみつけ明らかに威嚇していた。
「県警は逮捕された3名以外にも共犯がいるとみて行方を追っている。逮捕された販売グループの家族のほか、店舗の従業員なども関わっているとみられており、極めて仲間意識が高く全容解明には時間がかかる」(社会部記者)
集英社オンラインは、陳容疑者の夫のA氏にも接触した。建設業で働いているというA氏が自宅へ帰宅したところで声をかけると、疲れた様子をにじませながらも取材に応じた。
「昨日は仕事が終わって家に帰ると警察がいて、妻が逮捕されたと聞きました。もちろん驚いたよ。それでそのまま自分も3時間ほど事情を聞かれた。妻は漫画やCDのコピー品を売っていたから逮捕されたと聞いた。
自分は、そんなことをしているとは知らなかった。もともとはコロナのときに、手作りのマスクを作製し売るということを始めて、その後もいろいろなものを売っていた。俺もいちいち細かく聞かないし、妻とはそんなにしゃべっていなかったからなんとなく物を売って(転売して)稼ぐということをしているんだろうなって思っていた」
自身の関与は「絶対にない」と否定する夫のA氏。記者はA氏の案内でリラクゼーション店の中にも入ることができた。薄暗い店内には、ケージの中に大型犬が1匹おり、取材中も延々と吠え続けていた。
テーブルの上には矢沢永吉のDVDボックスをはじめとする音楽関係の映像作品が置かれていた。
段ボールには矢沢永吉、モンクレール、カナダグースの山
A氏によるとリラクゼーション業の売り上げは“スズメの涙”だったという。その証言から、店舗は”飾り”にしかすぎなかったことがうかがえた。
「マッサージ(リラクゼーション)の方は最近、予約が入ったときだけ施術できる人を呼んでやってもらっていたくらい。だからそんなに稼働はなかったし、売り上げも少なかったと思う。
その代わりとして、物販のようなことをやっているのかなって。細かく何を売っていたのかは知らない。だけど、そこにもあるように矢沢永吉などのDVDボックスが何個か置いてあったりした。
逮捕された妻は、矢沢永吉のことを別に好きとかそういうわけではなかったし、DVDが何個もあるし売るためだろうから、こういうのを売って、売り上げを立てているんだろうなって思っていた。それがコピー品かどうかとか、実際に売っていたのかどうかというのは、聞いてない。だからわからないんだ。本当に色んな物が置いてあったんだよ」
次にA氏は、店から北へ約30メートル先にある平屋の一軒家へ案内してくれた。この平屋は、海賊版コミックスなどの倉庫として使われており、合同捜査本部によって家宅捜索も行われている。
平屋は計3部屋で構成されていた。うち2部屋には、段ボール箱が十数個ある程度だった。この平屋の床にも、矢沢永吉のDVDボックスが転がっていた。残りの1室には、高級ダウンで有名なモンクレールやカナダグースなどのアパレル製品が段ボールに入れられ、積まれている。
記者がアパレル製品について「これ本物ですかね?」とA氏に聞いた。
「俺も妻に本物か聞いたけど、妻は『本物だよ』って言っていた。(倉庫)こっちにも俺はたまにシャワーを浴びにくるくらいで、ほとんど来ない。
組織的にやっていたのかって? たぶんそれはないと思う。妻が弟やお母さんなどを仕切ってやっているように見えたから。漫画とかCDやDVDを倉庫内で見るようになったのは、ここ1年くらいの話。まさか、それが偽物だとは思っていなかった」
商売の規模はどんどん大きくなっていった…
陳容疑者の羽振りはどうだったのだろうか。
「普段の生活は以前とまったく変わりはなかった。でも、物を売る仕事の規模がどんどん大きくなっているように感じていた。だからお金は稼いでいるだろうなとは思っていたよ。でも、俺の給料も含めて全部妻が管理していたから、実際どのくらい稼いでいたかは知らないんだ。いくら儲かっているなんて聞いたこともない。
商売の規模がどんどん大きくなってはいた……。倉庫も別にもうひとつ借りているし、ラブホテルも買って経営したりもしだした。
普通に物を売る仕事をしてその規模が大きくなっていったんだろうなって思ってたから。なんでコピー品を売るようになったのかって言われても、話すら聞いていない。よくわからないんだ。この残っているものはどうすればいいんだろうか……」
口数は少ないが、聞かれたことにはA氏は淡々と答えた。
「偽造された週刊少年ジャンプ」をはじめ“偽ブランド品”、コピーCD、DVDを、大量に売りさばき、今年3月21日には塩原市内のラブホテルをローンを組むことなく購入した陳容疑者。彼女はどれだけの人を騙し、権利者に損失を与え、大金を手に入れていたのだろう。
県警は「偽造されたジャンプ」だけでなく、他のコピー品や偽ブランド品の入手、販売経路についても調べている。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班