「おかわりなんだろうけど、正直すごく迷惑」映画館の“ドリンクバー”導入…ポップコーン30分待ち、フード売り場の混雑を打開した新システムに浮上する新たな問題
「おかわりなんだろうけど、正直すごく迷惑」映画館の“ドリンクバー”導入…ポップコーン30分待ち、フード売り場の混雑を打開した新システムに浮上する新たな問題

映画館での“行列”に、ユーザーの限界が近づいているようだ。先日、TOHOシネマズのフード売り場が大混雑している様子がSNSで話題になると、日ごろからたまっていた不満が一気に噴出。

しかしそんな中、各劇場の現場ではすでに「売り場の改革」が静かに始まっている。

ポップコーン売り場で「40分待ち」と言われた人も…

〈TOHOシネマズさんさぁ…もうポップコーン売り場が破綻してるって。注文してから作るんじゃなくて袋詰めにしてジュースと一緒に平場で売り捌いてくれない?そうしてる映画館もあるよね?飲食物持ち込み禁止なのにこりゃないよ〉

Xにこう投稿されたのは、TOHOシネマズでフード売り場の前に人がびっしりと詰めかけている写真だった。ポップコーンやドリンクを買い求める人々の列が長く続き、売り場周辺は大混雑。まさに“超満員”といった様相だ。

映画のお供として親しまれてきたポップコーン。TOHOシネマズの多くの劇場では、注文を受けてからスタッフが箱に詰めている。味によってはバターフレーバーオイルをかけるなど、ひと手間かかることもある。

基本的には、レジで注文・会計・調理・提供までを同一スタッフが担う。こうした丁寧なサービスは顧客満足度を高める一方で、現在の増え続ける映画需要のなかでは、オペレーションの限界が指摘されている。

実際、混雑する劇場では、ポップコーンを買うまでに15分以上かかることも珍しくない。しかも、フレーバーのバリエーションは増加傾向で、TOHOシネマズでは現在8種類以上を用意(一部店舗を除く)。

さらに、ホットドッグ(6種)、スナックじゃが(ポテトフライ)、ポップチキン(フライドチキン)、チュリトス、アイスクレープ、フローズンドリンクなども並び、売り場の業務はますます複雑化している。

当SNSでは今回の混雑の話題に対し、ユーザーからこんな声が寄せられている。

〈GWはコナンとマイクラなど人気作品が集中して特に行列がひどかった。最後尾で40分待ちと言われてさすがに諦めたな〉

〈あのさー、とりあえず飲み物だけの人は列を分けてよ。コーヒー1杯買うためになんでこんな並ばなきゃいかんの?って毎回ゲンナリする〉

〈マジで効率化をしてくれ! 映画館に30分前に着いてポップコーン買うのに並んで席に着くのは予告編の最中とかざらにあるから〉

〈ホットドッグ好きだけど、混んでると遅延の要因になるんじゃないかと躊躇して、ポップコーンだけにしちゃうんだよね。こう思っているのは俺だけじゃないと思う〉

TOHOシネマズ上野で導入されたセルフオーダー

そこで編集部では、TOHOシネマズ株式会社に質問を行なった。まず、多くの声が上がっていた「ポップコーンの袋詰め販売をしない理由」について尋ねたところ、以下の回答があった。

「当社劇場では、お客様にできる限り美味しい状態でポップコーンをお楽しみいただくことを大切に考えております。そのうえで、一部劇場においては、あらかじめカップに入れた状態での提供方法も試験的に導入しております」

また、混雑状況の認識と改善方針についてはこう答えている。

「当社では“映画館ならではの食体験”や“お買い物の楽しさ”を大切にしながら、お客様のニーズに応じて柔軟に対応しております。多くのご意見を頂戴したことで、混雑時の利便性向上が重要な課題であると改めて認識しております」

実際すでに、売り場の混雑を解消している映画館もある。それは、TOHOシネマズ上野や立川立飛など。これらの一部劇場では、モバイルオーダーやセルフオーダー方式を試験的に導入。混雑の緩和に一定の効果が出ているという。

TOHOシネマズ上野を覗いてみると、確かに売り場が見事にスマート化されていた。来館客はタッチパネル式のセルフ端末か、スマホのモバイルオーダーで注文。番号が発券され、商品が用意されるとフードカウンターに呼び出し番号が表示されるので、ピックアップに向かう。

ポップコーンの“仕上げのひと手間”だったバターフレーバーオイルもセルフ化されており、ドリンクはドリンクバー方式。ドリンクを注文するとカップだけ受け取り、自分で注ぐスタイルで、なんとおかわりも可能だった。

こうしたシステムはSNSでも好評で、「ほかの劇場でも導入してほしい」との声が多数寄せられている。

今後の導入予定について、TOHOシネマズは次のようにコメントした。

「日比谷、新宿、池袋をはじめとする混雑が発生しやすい劇場への導入を進めてまいります。ただし、施設の構造や動線、設備面での制約もあるため、全劇場一斉導入は難しい状況です。お客様の利便性向上を最優先に考え、導入に向けて積極的に取り組んでまいります」

ドリンクを片手にお代わりに行く人も…

なお、取材時に上野で実際に映画を観た際、上映開始から約1時間が経過した頃、一人の客がドリンクカップを手に立ち上がり、外に出ていった。そして約1分後、再びカップを手に戻ってきた。おそらく、ロビーに設置されているドリンクバーでおかわりをしてきたのだろう。

改装前には見られなかった、新しい光景だった。

ドリンクバー形式の劇場は、TOHOシネマズ上野や立川立飛だけではない。7月18日に開業する島根県の「イオンシネマ松江」では、全国のイオンシネマで初めて、劇場内にセルフ方式のドリンク&ポップコーンバーを設置し、購入当日は、何度でもドリンクとポップコーンのお代わりOKにすると宣伝している。

7月11日に開業する埼玉県の「シネマサンシャイン三郷」も、売店での「ドリンクバー」、「セルフレジ」、「モバイルオーダー」をシネマサンシャインとして初導入。

こうした流れを見るからに、フード売り場の効率化の一環として “ドリンクバー方式”はこれからスタンダードになっていくだろう。しかしその一方で、この新しい仕組みが観客の間に新たなモヤモヤを生み出している。

〈映画館ドリンクバー、映画観てる間は使えないし、観る前にたくさん飲むとトイレのリスクがある。何のための存在かわからない〉

〈上映中に何度もカップを持って出入りしている人がいた。たぶんおかわりなんだろうけど、正直すごく迷惑〉

〈初めて行った映画館、ドリンクがドリンクバーで上映中に出入りしておかわり取りに行く人いたから次はないなぁ〉

など、SNSではさっそく“ドリンクバーの使い方”をめぐる不満の声が沸々と上がり始めている。

「映画を観る空間」がより快適になっていくためのアップデートが、逆に別の違和感を生んでしまうとは……。映画館をめぐる問題は、この先もずっと議論がされていきそうだ。

取材・文/集英社オンライン編集部

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