
少子高齢化や核家族化、そして都市部への人口一極集中の影響で、日本のお墓事情は大きな危機に直面している。首都圏では根強い人気の青山霊園などの公営墓地はあるものの、昔ながらのお墓ではなく、樹木葬を中心とした永代供養墓への人気が急増。
都心では数十年待ちのお墓も…
お盆の時期には家族そろって墓参り。
…という光景も今や昔。少子高齢化や核家族化、そして都市部への人口一極集中などの社会的変化に伴い、近年の日本のお墓事情も大きな変革期を迎えている。首都圏と地方、それぞれどのような課題を抱えているのか。
まずは首都圏のお墓事情について、ライフエンディング企業「よりそう」の担当者に話を聞いた。
「首都圏では、地方出身者が地元に戻らず、首都圏で納骨先を探すケースが増えています。それに合わせて墓地の開発を進めてきましたが、一部では需要に対し、供給が追い付いていません」(よりそう担当者、以下同)
特に最も人気が集中しているのが、青山や小平を筆頭とする都立霊園だ。今年7月に公募を受け付けた際には、青山(一般)は11倍、小平(合葬)では26倍の倍率で、青山においては抽選者は選ばれるまで数十年待つこともあるといわれている。さらに公営墓地は場所によっては、民営墓地の6~7倍の人気を誇るという。
なぜここまで都立霊園などの公営墓地に人気が集中しているのか。
「青山霊園などは歴史上の人物が多数眠っていることも人気の一つですが、それ以上に経営的な面に左右される可能性がある民営よりも、公営の方が管理・運営を安心して任せられるという理由が大きいです。
都立霊園の中でも青山は区画も少なく、区画だけで数百万円規模になるというが、多摩や八王子などは比較的大衆向けで一般家庭の方でも検討する人が多いという。
「都立や公営でも規模感や値段は千差万別です。公営の一部霊園は人気が集中し供給不足ではありますが、民営は区画が足りなくなるような状況は今のところ生じておらず、公営の募集にチャレンジしながら並行して民営も考える方が多いです」
「樹木葬」が人気のわけ
一方、過疎化が進む地方のお墓事情はというと、墓じまいの問い合わせが年々増加し、継承が途絶えた「無縁墓」が増え続けているという。
「霊園を運営する側も毎年管理費を徴収することが前提なので、それが無くなると経営的にも大きな打撃です。そのような場合は規約上、お墓の区画を強制的に返してもらいますが、お墓の取り壊しに掛かる費用も無縁だと請求先がなく、取り出したお骨を合葬に移す仕組みも未だ整理されていないのが現状です」
無縁墓の増加をきっかけに、周囲が荒廃し、不法投棄などの問題で近隣トラブルが発生するなどの事態に発展。行政が縁故者を探しても見つからないケースがほとんどで、撤去の難しさなどからも抜本的な対策が打てていないという。
そんな中、近年注目を集めているのが「永代供養型」の埋葬方法だという。
継承者が毎年霊園に管理費を払って継承していく従来の一般墓に対し、永代供養は遺族に代わって霊園が故人の遺骨を管理し、永続的に供養する埋葬方法だ。
「近年、独身者やディンクス(DINKs:Double Income No Kids 共働きで子供なしの略)が増えただけでなく、継承で子孫に負担が残らないことを望む方々にもニーズがあり、平成以降徐々に人気が高まっています。2023年の弊社の調査では、7~8割が永代供養型のお墓を選ばれています」
その中でも近年、人気に火が付いているのが「樹木葬」だ。
樹木葬は、樹木や草花を墓標にして遺骨を埋葬するスタイルをイメージされる方が多く、「『いずれはお参りする方もいなくなるだろうから』と数十年後に遺骨が自然に返る形を希望される方が多いです」
地方よりも都市部での広がりが顕著だといい、一般的に連想する里山ではなく、街中の寺院の一角に草花を生やして、そこにプレートの墓地を銘打って樹木葬とするなど、さまざまなスタイルが増えつつあるという。
海洋散骨の需要
一方、「継承負担がない」「自然に返る」という観点では「海洋散骨」も樹木葬と同様のニーズがあるが、人気はいかほどか。
「たしかに海洋散骨も樹木葬とニーズは同じですが、残された側の心情を考えた際、手を合わせてお参りする場所がないということに抵抗感を抱く人がまだ多いです」
また地方の無縁墓増加の解決の一助となりそうな永代供養制度でも、「オプションごとに供養方法が異なるので注意が必要」だという。
「永代供養制度の中でも未来永劫個人の遺骨が管理されるのはごく一部で、購入の際、個別埋葬か合葬か、個別埋葬でも期限付きか期限なしか、で金額が分かれるため、一度購入すればその後一切お金がかからないわけではありません。
先祖代々で墓を供養する価値観が徐々に形骸化する中、ご自身やご家族はどのスタイルが合うのか。選択肢が多様化した分、しっかり比較検討してほしいですし、30~40代の若く元気なうちにご両親と話し合っておくことが、後悔のないお別れに繋がると思います」
多様化する供養スタイル。自分らしい“その時”を迎えるために、お盆が終わった今だからこそ、まずは家族の対話を第一歩に踏み出してみてはいかがだろうか。
取材・文/集英社オンライン