
今月、マクドナルドのハッピーセットに付属したポケモンカードが前代未聞の大騒動を巻き起こした。一部店舗では早朝から長蛇の列ができ、駐車場待ちの車で大渋滞し、警察まで出動する事態に発展した。
SNSでは食品が大量廃棄される画像が投稿され、ポケモンカードがフリマアプリで数千円で取引されるケースが相次いでいる。転売ヤーの標的にされたのだ。
今回の騒動は小手先の転売対策がいかに難しいかを物語っているが、マクドナルドはポケモンカードの流通量をできるだけ早く増やすなどの対策が必要だったかもしれない。
過去のハッピーセットの人気商品よりも流通量が少なかった?
朝日新聞は今回のポケモンカードの流通数が、6種類で300万枚弱だったと報じている。ハッピーセットに付属していたカードは「ピカチュウ」1枚と、「ホゲータ」など別のキャラクター1枚がセットになった2枚1組だ。
従って、サービス開始となった8月9日からの3日間で150万セットほどを販売する計画だったようだ。
マクドナルドは2008年12月に発売したハッピーセットの「ポケモン 『ぴかポケ』」が、1日で122万個販売し、1987年以降初めて120万個を突破したと発表している。
この商品の累計販売総数は250万個。ハッピーセットの対象年齢は3~9歳であり、当時のその年齢層の日本国内の人口はおよそ800万人のため、対象年齢の子供だけが購入した場合、3人に1人が購入していることになる。
これに対して、総務省によると2024年の3~9歳の人口は637万人。150万セットだと、4人に1人にも行き渡らない計算だ。マクドナルドは「ポケモンカードの配布は、予想を上回る売れ行きのため、多くの店舗で終了となりました」とアナウンスしているが、過去のヒット商品と比べても準備していた数が少なかったように見える。
ハッピーセットのポケモンカードは、必ず付属する「ピカチュウ」のカードでさえ、1500円以上の値がついているフリマサイトもあった。
しかし、購入者なら誰でも手に入る「ピカチュウ」のカードの高額取引は、需給バランスが崩れていることを如実に表している。
第1弾のハッピーセットにはポケモンの「おもちゃ」と「カード」が用意されていたが、第2弾にはカードの特典がなく、おもちゃのみだった。
マクドナルドが転売対策の規制を強化したとはいえ、こちらは大した混乱はなく、スムーズに終わりそうだ。転売の標的になっていたのは、「ポケモンカード」との見方が強い。
マクドナルドはポケモンのハッピーセットの告知ページにて、「同ポケモンカードは今後、別の方法で配布される可能性がございます」と明記しているが、迅速に増刷して流通量に厚みをつけることが目先の解決策として最も有効なのではないか。
今回の騒動のポイントの一つは大人の購入がメインとなり、子供に行き渡らなかったことだからだ。
トレーディングカードの市場規模は3000億円超
150万セットという数は、子供の人口比だけでなく、ポケモンカードの愛好家の数に対してもその量が少なかった印象を受ける。
ポケモンカードの競技人口は公表されていないため、表に出ているデータから独自の試算となるが、日本玩具協会によれば、2024年度のトレーディングカードの市場規模は3024億円だった。
NFTや暗号資産などの情報を提供するCoinDeskは、市場のおよそ50%はポケモンカードが占めているとの調査結果を出している(「NFTトレーディングカード、3000億円市場に食い込むか──真贋証明付き「CNPトレカ」12月発売」)。すなわち、ポケモンカードの市場規模は1512億円前後だということだ。
ハピネットが行なったアンケート調査によると、トレーディングカードを日頃から楽しんでいる人が、ひと月当たりに使う金額は1000円から5000円未満が最多だ(「トレーディングカードゲームの大人需要実態調査」)。
ポケモンカードの拡張パックの価格は180円で、月に10パック購入すると1800円。仮に1人が平均で月1800円程度を使っていたとすると年間の使用額は2万1600円で、ポケモンカードの市場規模から逆算すると愛好家の数は700万人程度となる。
概算ではあるが、ハッピーセットで用意した150万セットであれば、プレイヤーの5人に1人にしか行き渡らない計算だ。そこに子供が加われば数が少ないのは明らかである。
さらに、この試算値は日本のプレイヤーだけである。ポケモンカードの製造枚数は全世界で累計750億枚以上、90以上の国と地域に流通する。アプリ版である「Pokémon Trading Card Game Pocket」はリリースから4カ月ほどで1億ダウンロードを超えた。ポケモンカードの人気は日本だけに留まらない。
そして、海外勢の買い圧力が続く限り、カードが値崩れすることはなさそうだ。これが転売の温床の一つになっている。
規制強化は転売ビジネスを複雑化させる?
世界最大のオンライン中古マーケットeBayには、すでにハッピーセットのポケモンカードが並んでいる。「ピカチュウ」のカード1枚で25ドル近辺で販売されているものが多かった。
日本のフリマサイトでは1500円程度だったが、出品者にとっては、海外の取引のほうが割がいい。船便での発送で買い手が見つけられるのであれば、日本のフリマサイトで購入してeBayで転売しても十分な利ザヤが得られる。
そしてeBayの出品者の中には日本のトレーディングカードやフィギュアを専門的に扱っているケースも見受けられる。つまり、転売を生業としている人たちだ。このマーケットが存在する限り、転売を食い止めることは不可能に近い。
マクドナルドはポケモンのハッピーセット第2弾において、1グループ3セットに制限するなど、転売対策を強化した。このような対策を進めると、将来的には「子供づれの顧客にしか販売しない」「店内で飲食する顧客に限って販売する」といった規制にまで行きつくのではないか。
その先にあるのは、小遣い目当ての第三者に、転売ヤーがハッピーセットの購入を依頼するという闇深い転売ビジネスだろう。
マクドナルドは2025年1月から6月までの客数が前年比で3.3%増、7月は8.8%増だった。集客状況は良好で、ポケモンの限定カードをちらつかせて無理な客寄せを行なう必然性は感じない。むしろ、カードを広く行き渡らせるほうがブランドイメージも回復するのではないか。
転売防止を目的とした規制の強化は、さらなる悲劇を生み出すだけである。
取材・文/不破聡