<多産DV>「子どもを産むしか能がないんだから」望まない妊娠を繰り返させた夫の暴言、妻の体調など無関心で…DVの連鎖が壊す子どもの心と家庭
<多産DV>「子どもを産むしか能がないんだから」望まない妊娠を繰り返させた夫の暴言、妻の体調など無関心で…DVの連鎖が壊す子どもの心と家庭

妊娠や出産を望まない妻の意に反し、夫が避妊せずに性交渉を行い妊娠・出産を繰り返させる「多産DV」。集英社オンラインが今年2月に配信した『多産DVの恐怖』には多くの意見が寄せられたが、取材を続けると、多産DVがもたらすさらなる被害の実態が見えてきた。

 

周囲からの評価は「いいご主人ね」

6人の子どもを出産して、3年前に離婚した関東在住のエリカさん(41)は元夫からの多産DVに悩まされたひとり。離婚で元夫との性交渉から逃れることはできたが、被害は現在も続いているという。

「30歳で1人目を出産し、2人目は2年あいたものの、3人目からは避妊を望む私の意志は無視されて、ほぼ年子で計6人を出産しました。

元夫は地元では知られた企業の3代目で、隣町にいる同業の男性と子どもの数を競っているようでした。周囲には大家族を支える夫と思われていたようで、『ご主人すごい』『いいご主人ね』と声をかけられたこともありました。

私は、短期間で出産を繰り返すことで心身は疲弊し気力を失っていたのですが、必死に子どもを産み育てました。振り返れば、夫を賞賛する周囲の言葉に洗脳状態にあったのかもしれません。

でも、6人目を出産したあとに、これまでに経験したことのない体調の異変が“目を覚ます”きっかけになったんです」

微熱とめまい、吐き気がおさまらずに朝起き上がれないことが続いたというエリカさん。元夫に朝の子どもたちの支度をお願いしたが、返ってきたのは信じられない言葉だった。

「『なぜ俺が? 子どもを産むしか能がないんだから君がやるべき』と言われ、我にかえりました。自分を蔑ろにし、夫の顔色を伺い生活をしていたことに気づき『もう産まない』と明確に夫に伝えました。しかし、無理矢理に性行為を迫られ逃げるように家を出ました。

6人目の産後、約5年ぶりに再開した生理は、以前よりも重く立ち上がれない日もあります。

色々検査はしましたが、短期間で繰り返した出産によるホルモンバランスの変動で自律神経が乱れていることが原因だと言われました。

離婚したことで望まない性交渉や出産はなくなりましたが、産後4年近く経つ今も以前の体調には戻っておらず、短期間で複数回出産したことを後悔しています。今は実家に戻り、両親のサポートを受けながら子育てと仕事をなんとかこなしています」

5人の母である千葉県在住のチエコさん(39)も多産DVによる産後の症状を引きずっている。

「4度目に妊娠したのは双子で帝王切開による出産でしたが、明らかに3人目までの産後とは違うなと感じています。出産から1年が経ちましたが、毎月のように風邪をひき、子どもたちの行事や親族の集まりの翌日には大抵寝込みます。

出産するたびに体力の低下を感じ、もし6人目を出産するとなると“命に関わるのでは”という恐さを感じています。

自分の欲を満たすことを優先する夫には、毎回産後すぐから性行為を強要される。私の体調には無関心で、『大丈夫?』の一言もありません。現在は、夫と距離を置く方法を考えているところです」

多産DVで生まれた子どもたちのその後 

多産DVは子どもにも影響を及ぼす。埼玉県に住むアオイさん(32)は、8人きょうだいの長女として生まれた。

「うちの一家は近所では有名で『大家族の〇〇さんち』と言われていて、隣の家に住む父の両親も大家族の一員と見なされているので、世間的には12人の大所帯です。

母は、私が6歳だった3人目の産後から『もう子どもはこりごり』とよく私に話していました。それなのにきょうだいが増えていくので、中学生の頃には父に無理矢理に迫られていることを察していました。

正直、私が一番こりごりだと思っていました。産後の母は特にイライラを私にぶつけ、『きょうだいをよろしく』と面倒をすべて私に押し付けて出かけて行く。勉強はままならず、友達とも遊べない。

父の多産DVのせいで家庭内は無茶苦茶になり、父はもちろん、家族という存在に嫌悪感を抱くようになりました。絶対に結婚、妊娠、出産はしないと心に決めています」

加害者も元被害者の可能性が高い 

30年以上にわたり産婦人科医として数多くの多産DVの女性と接し、富山県議会議員としてもDV防止政策に取り組む種部恭子氏に多産DVの背景、多産女性の心身への害などについて話を聞いた。

「産婦人科医として多産DVの被害女性と接する機会が多かったのは当然ですが、県議として活動する中で加害男性とも接点ができました。

『妻と子どもが出ていき、接近禁止を命じられたが子どもに会いたい。何とかしてもらえないか』などの陳情(公の機関に対し、特定の事柄について具体的な意見や要望を伝える)を聞くためです。

そうした男性には社会的地位の高い方もいて、『一家の大黒柱だから妻が従うのは当たり前』という考えのもと家庭でも妻と子どもを支配している。

聞くと、自身もそうした家庭環境で育ったため、支配することで相手を苦しめているという自覚がないんです。加害者も元被害者かもしれません」

さらに、男性は女性たちが想像するより遥かに女性の身体のことを知らないという。妊娠経験のある女性は、妊娠したことのない女性より生物学的年齢が高い傾向があり、妊娠回数が多いほど生物学的年齢の進行スピードは速まる。

「妊娠中や授乳期は、胎児や乳児へのカルシウム供給のために母親の骨に蓄えられたカルシウムも利用されるので骨密度低下や歯がもろくなるリスクがあります。

周産期死亡や母体合併症(妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病など)を引き起こさないためには、妊娠の間隔を18ヶ月程度あける必要性が報告されています。

多産の背景にDVがある場合には、早産、低出生体重、うつ病や適応障害の罹患率のみならず自殺率も上がるとのデータもあります」

それだけではない。月経前症候群や更年期障害にも多産DVが影響を与えるケースがあるという。

「女性は産後はもちろん、月経前や更年期といったホルモンが低下する時期に抑うつの症状に悩まされる方が少なくありません。

そのケアもままならないなか、避妊を拒否され意に反して出産した子の育児でエネルギーを消耗すれば、月経前や更年期の症状は強く出やすいのです」

多産DVの問題は「連鎖」

多産DVを撲滅し、女性や子どもたちの住みやすい社会にするために必要な法制度とは何だろうか。

「先日の参院選で、各党は子育て支援策の充実を訴えていました。DVを受けた際に、母親と子どもが逃げやすいようにお金はあった方が良いですし、給付金の増額には賛成です。

ただ、子どものためのお金は間違いなく子どもの手に届き、DVから逃れてひとり親になっても子どもを育てていけるような制度にすべきです。世帯主の口座への入金はNGとし、子どもか妻名義の口座のみ登録可とするか、場合によっては子育てのためのサービスにのみ遣える商品券にするなど策を講じる必要があります」

多産DVが子どもに与える影響も深刻だ。

「多産DVを含めDVを近くで見聞きしてきた子どもには、危険などを察知する脳の扁桃体、聴覚とその認知をつかさどる聴覚野に変形が見られるという報告もあります。

DV加害者の暴言を想起させる大きな声や音でフラッシュバックを起こし、動揺したり、不安や苦痛を切り離すために不可解な言動をしたり、暴力をふるうこともあり、結果的に集団生活に適応できず、不登校になってしまことも少なくないのです。

脳や心に負った傷を放置すれば、社会に出ても仕事が長続きしないケースもあります。

多産DVで心を病んだ母親のケアラーだった女の子のなかには、自傷行為や家出、パパ活で居場所を探した子もいました。支配的な男性に惹かれた結果、妊娠・出産を繰り返す女性に接したこともあります。こうした連鎖は多産DVの見えない怖さでもあるのです」

連鎖を止めるために周囲ができることはあるのだろうか。

「多産DVに気づく機会を持ち、逃げるための選択肢を周囲が提示してあげることが必要です。産婦人科医や母子保健関係者はもちろん、周囲の大人も『望んだ妊娠なのかどうか』アンテナをはり、おかしい思った際は専門機関である配偶者暴力相談支援センターに相談するなどの選択肢を示してあげましょう。

子どもが親の多産DVに気づき恐怖を感じたときには、各自治体の児童相談所へ通報するのもひとつの手段です」

母と子ども一人一人が笑って暮らせるよう、多産DV家庭が減ることを願わずにはいられない。

※「集英社オンライン」では「多産DV」をはじめ、夫婦間のトラブルに関連した情報、体験談を募集しています。下記のメールアドレスかX(旧Twitter)まで情報をお寄せください。

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取材・文/山田千穂 集英社オンライン編集部ニュース班 サムネイル/Shutterstock

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