
静岡県伊東市の田久保眞紀市長(55)は学歴詐称疑惑で責任を追及されても辞職しない理由として、メガソーラー建設の阻止と、前市長時代に計画された42億円かかる新図書館建設計画を白紙撤回させる“使命”が自分にはあると主張する。
だが、建設の入札手続きを本当に止めた田久保市長は、同じ場所に「温泉付き図書館」を建てるため業者と接触していると言い始めた。
「図書館計画は…入札の中止で白紙ではない」と市議
「就任後、(阻止を)達成できたはずの新図書館建設事業も、今着々と復活の兆しを見せております。本当にこれだけはやり遂げなくてはいけない」
田久保市長は一度表明した辞職の約束を覆した7月31日の記者会見で、新図書館計画をやめさせるため市長職にとどまるので「今後ともよろしくお願いします」と言い切った。
「新図書館計画」はかつて温泉ホテルがあった約4000平方メートルの市有地に5階建ての図書館をつくるものだ。前市長が推進して2024年秋に計画が固まり、2025年度中に着工する予定だったが、今年5月25日の市長選で白紙撤回を公約にした田久保市長が当選。田久保氏は就任初日の同月29日午前に入札手続きを止めるよう市幹部に指示した。
これが妥当なのか疑問を持った市議会は、田久保氏の学歴詐称疑惑を調べる調査特別委員会(百条委)で入札停止指示の経緯も調査している。その百条委で8月13日に証人尋問を受けた教育委員会幹部は「市長が行なったのが入札の中止で、計画についてはまだ白紙になったわけではない」と発言。
これを聞いた百条委メンバーの市議が直後の休憩中の雑談で、「入札は中止したけれども計画自体は生きている」「(図書館計画をどうするかは)次の市長で考えるしかない」と口にした。
この発言を知った田久保市長の支持者からは「田久保市長の退陣後に次期市長の下で新図書館計画を再開させようとする問題発言だ」と反発する声が上がっている。その事情を市内の建設業者が解説する。
「田久保市長は自分の当選でやめさせたはずの新図書館建設計画が“水面下で激しく動いている”と主張し、支持者をつなぎとめようとしています。
百条委での市議の発言は、“反田久保勢力が市長を交代させ、図書館建設復活を企てている”という田久保市長の主張を裏付けるものだと捉えた支持者が、反市長派に反撃する糸口にした形です」(建設業者)
伊東市内では“建設費は42億円ではなく本当は54億円に跳ね上がることが分かっているのに隠蔽されてきた”と推進派を批判する怪文書も飛び、図書館建設の行方は最大の焦点になっているように見える。
田久保市長「温泉カフェという形で温浴施設をつくりながら図書館を併設する」
だが、事態はそんなに簡単ではないと別の市政関係者は指摘する。
「図書館の建設費はおおむね国の補助金と市費が半々ずつです。ここで計画を取りやめると20億円前後の補助金を得られなくなり、さらに加えて他の複数の地域の再開発や建設事業の補助金も止まる恐れがあると関係者は憂慮しています。
田久保さんも市議だったのでこうした事情を知らないはずはないのですが、選挙で分かりやすく“42億円の事業を白紙撤回”と打ち出し、当選後すぐに手続きを止めてしまった。だから市議会はその手法を問題にしているんです」(関係者)
大きな公共工事のあてがなくなった業界の恨み節の可能性があるとしても、地域に大きな影響が出ているのは確かなようだ。そして実は、ほかでもない田久保市長自身が、やめたはずのハコモノを同じ場所につくる考えを口にしているのだ。
地元の伊豆新聞がSNSで詳報している田久保市長と市民の会話記録によれば、市長は7月2日「今の新図書館建設事業の所は源泉がございます。その源泉を生かしつつ図書館もできないものかといろいろ考えて調べてみたところ、温泉カフェという形で温浴施設をつくりながら図書館を併設することを自治体と一緒にやっている事業体がございました。(こうしたものの)実現の可能性を探らせていただいています」と発言している。
これには市民から「ハコモノ政治に回帰するのか」と質問が出され、田久保市長は「民間の資本を投入して建てていくスタイル。これをぜひ確立させていきたい」と答えている。
「図書館をやめると言いながら“温泉付き図書館”をつくるという話です。今の新図書館計画は一度やり直した設計費だけで2億円も投じており、これをまた設計からやり直せば一体いくらのカネが要ることになるのか。
そして田久保氏は市民との対話で「私が今、方向性として2、3の企業さんとお話をしておりまして」とも発言している。業者と接触しているとの“自白”を市幹部と市議会は深刻に受け止めており、8月13日の百条委では市の⽊村光男総務部⻑が「われわれといいますか、私はそれは知らない。今、例えば市長が単独で動くなんてことがありましたら、当然癒着が疑われる事案になってきます」と証言。田久保市長は自ら新たな疑惑の種をまいた形になっている。
市民は「日帰りの温泉施設なんて何軒もある…意味があるのか」
問題の土地は現在、90台分のスペースがある広い駐車場になっている。近隣の住民は「その話はしたくない」と言う人が多かったが、長年暮らす80代の男性が取材に応じてくれた。
「ここにあったホテルは、客はよく来てたんだけど経営者が事業に飽きたか何かで手放した後、所有者が2回代わって更地になり、最後は市に売られて今は駐車場になってます。駐車料金がタダなのでみんなここに車を駐めて働きに行くんですよ。
駐車場には温泉の井戸が2本あって1本はまだ生きています。日帰りの温泉施設なんて伊東には何軒もあるので新しくつくる意味があるのかと思いますし、温泉井戸なんかこの辺りの家はみんな自前で持っていて、うちも毎日家で温泉を浴び放題だから珍しくもなんともないんです。
まあ、ここは台風がくると風が強いから、図書館でも温泉施設でも何か建物があると風よけになるので住民は歓迎すると思いますよ」(男性)
図書館か、温泉付き図書館か。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班