「母親になって後悔してる」が共感を呼ぶ日本の結婚…子育ての身近なロールモデルがいない中で結婚後の「美しい景色」を語れるのは誰か
「母親になって後悔してる」が共感を呼ぶ日本の結婚…子育ての身近なロールモデルがいない中で結婚後の「美しい景色」を語れるのは誰か

厚生労働省によると、2024年に国内で生まれた日本人の子どもの年間総数は、68万6061人となり、前年より4万1227人減少した。出生数が減少するのは9年連続で、1899年に統計調査が始まって以降、初めて70万人を下回った。

子どもを作る人が多い世代であるZ世代は「結婚」や「出産」についてどんな意識を持っているのか。

書籍『Z世代の頭の中』より一部抜粋・再構成してお届けする。

「子どもは贅沢品」発言の裏で

23年、大手プロバイダーがおもにZ世代の未婚者(18~25歳)に聞いた調査では、5割弱(45.7%)が「(子どもを)ほしくない」と答えていました(ビッグローブ「子育てに関するZ世代の意識調査」)。この調査を受けて、子育て中、あるいは子育てを終えた、上の世代と思しき人々は、「Z世代の半数が、子どもが欲しくないんだって?」「また、わがまま言っちゃって」とSNSを中心に冷笑しました。これに対し、Z世代らは次のように切り返したのです。

「子どもは贅沢品でしょ」「自分のことで精いっぱい。少子化対策に貢献する余裕はない」

確かに、若者の結婚や出産(子作り)意欲は、若者自身の生活状態や働き方(年収や正規、非正規など雇用形態)と強く相関すると言われます。24年、弊社が他社の協力を得てZ世代1600人以上に行なった定量調査(※協力:CCCマーケティング総合研究所)でも、それらは見事なまでにZ世代自身の年収や雇用形態と結びついていました。

たとえば、結婚と出産について。「どちらもしたい」の回答は、年収0~300万円未満での4割強(44.1%)に対し、年収300万円以上では6割強(61.2%)にのぼりました。また、同じ回答を雇用形態別に見ると、非正規で4割ちょうど(40.0%)なのに対し、正規では6割弱(58.7%)。つまり、年収の高低や正規・非正規で、それぞれ結婚・出産の希望に約2割の開きがあり、この傾向は男女共にほぼ同じだったのです。

近年、結婚は「低年収や非正規だと、相手として選ばれない」可能性が上がり、近年は本人たちの「諦め」にも似た傾向が、男性だけでなく女性にも見られるようになりました。

また、出産や育児にはお金がかかることも低年収層にとって大きなネックでしょう。

子育てには「幼稚園から大学卒業までに、最低でも1000万円以上の教育費がかかる」とも言われますから、低年収や非正規の若者たちは躊躇しやすいですよね。

ですが半面、出産や育児は「お金がすべて」ではないはずです。

実は弊社が行なった定量調査(※協力:CCCマーケティング総合研究所)では、あえて結婚と出産を切り離し、「結婚はしたいが子どもはいらない」と「子どもは欲しいが結婚はしたくない」にそれぞれ、YESかNOかも聞いてみました。するとこちらは、先ほどの「(結婚と出産)どちらもしたい」とは違い、年収や雇用形態との相関がほとんど確認できなかった。

すなわち(結婚せず)「子ども」だけが欲しい(平均5.0%)か、(結婚したいが)「子ども」は欲しくない(平均15.7%)かの希望は、男女共に、年収の高低や正規・非正規で、大きな違いがなかったのです。

子育ての身近なロールモデルがいない

では、お金以外の何が、Z世代の「子どもはいらない」に影響しているのでしょうか。考えられることの一つは、「育てる自信がない」。

先の大手プロバイダーの調査で「将来、子どもがほしくない」と答えた若年未婚者(全体の約5割)に、その理由を聞いたところ、「お金だけの問題」との回答は2割弱(17.7%)に留まり、「お金以外の問題」が4割強(42.1%)を占めました。そして後者の最大の理由は、「育てる自信がないから」(52.3%)だったのです。

Z世代は幼少期からスマホやPC、各種ゲームなどでの「ひとり遊び」に慣れており、年齢を超えて異世代でワイワイと外遊びするのが日常だった昭和世代とは違います。また、およそ5人に1人がひとりっ子と考えられますから、年下の子どもにどう接すればいいか、分からない若者も多いはずです。

逆に、そんなZ世代が「自分にも(子育て)できるかも」などと自信や実感を高めるうえでは、本来なら近年、東京・世田谷区などが実施する、通称「赤ちゃん授業」、すなわち赤ちゃんがいる夫婦が中学校などを訪れて生徒たちと交流するような場を、彼らが10代のころに増やせればよかった。

でも遅きに失したいまとなっては、なにより身近な「子育てのロールモデル」の存在が大きいのではないでしょうか。

Z世代にとって子育てのロールモデルと言えるのは、やはり「親」や「会社の先輩」をはじめ、周りにいる大人たちでしょう。

まず「親」との関係が、Z世代の出産(子作り)意欲に少なからず影響を与えていそうな様子は、今回のインタビューの最中にも、たびたび垣間見えました。

たとえば、親との関係が良好とは言えない若者の場合。幼少期に親が「泥沼離婚」したレンさん(運輸会社)や、母親が二度の離婚を繰り返し振り回されたというミオさん(航空会社)は、二人とも「結婚はともかく、子育てには自信がない」と言い、「わざわざ子どもを産んで不幸にしたくない」とも話していました。

また、「母親に、プログラミング教室に強制連行されていた」というカイトさんは、「いい親のロールモデルを知らないから、子育てが怖い」と話し、過干渉の親を持つヒロミさん(自営業)は、「毎日親に気をつかっている。この上、子どもにまで気をつかえない」と顔をしかめました。

Z世代はよく、親の格差を示す際に「実家が太い」「細い」との表現を用います。前者は実家が裕福、後者はその逆の意味で、たとえば「自分と違って実家が太い子は、留学し放題で羨ましい」などと話します。ただ今回、出産(子作り)願望についてだけは、結婚願望とは違い、実家が太くても細くてもさほど影響しない可能性もある、と感じました。

実際に、共依存に近い若者も含め、「親が大好き」と話す若者たちは、たとえ実家が細くても、出産(子作り)に前向きな印象でした。たとえば、「両親は『(仲良し夫婦を演じる)仮面夫婦』だけど、パパには愛されたって感じる」と話すサリナさん(食品メーカー)は、「結婚はどっちでもいいけど、パパに孫の顔を見せてあげたい」と言います。



また、母親と4回ユニバに行ったというリクさん(文具メーカー)や、「うちは『シンママ(シングルマザー)』で貧乏だったからこそ、ママには感謝しかない」と話すアサミさん(百貨店)は、共に「早く子どもが欲しい」「出産して親孝行したい」と言います。

一般の調査でも、「出産=親孝行」の傾向は数多く見られます。22年、あるリサーチ企業が1000人以上の男女に行なった調査でも、「(子が親に)喜ばれた親孝行」の第3位、「(親が子に)してほしい親孝行」の第2位は、いずれも「孫の顔を見せる(見せてくれる)」でした(ボイスノートマガジン「親孝行に関するアンケート」)。

 誰が結婚後の「美しい景色」を語るのか

一方の「会社の先輩」などの大人たちについて、Z世代は辛辣な言葉をもらします。

「共働きで子育て中の先輩が、髪振り乱して全然幸せそうに見えない」「僕には、やっぱ(出産・子作りは)無理かな。両立できる体力もないし」

なかには、子育てを「エベレスト」や「グレートレース(耐久レース)」にたとえて、こんなふうに訴える若者たちもいるのです。

「私(僕)にとって出産は、エベレスト登山や、グレートレースのようなものなんです」

すなわち、子育てに興味がないわけではないけれど、そのゴールは、遥か彼方にある。しかも、一旦ゴールを目指して登ったり走ったりし始めたら、子育ては途中でやめるわけにはいかない。それなのに、周りの大人は、誰も自分を助けてくれそうにない。

彼らは言います。

「もし、自分より前に登り(走り)きった人たちが、ゴールから見える景色を『こんなに美しいんだよ』と教えてくれれば、まだ『やってみよう』と思うかもしれない」

でも現実は違う。会社の先輩や周りの大人たちは、「子育てにはお金がかかる」や「仕事との両立が、こんなに苦痛だなんて」と嘆くばかりで、景色の美しさはまるで語ってくれない。その姿を見ても、「ああなりたい」とは思えないし、やれる自信もないのだと……。

それを聞くにつけ、胸が痛みます。

確かに40代以上の共働き(フルタイム)夫婦に取材しても、「産んでよかった」「子育てって、本当に楽しい」といった喜びの声は、あまり聞こえてきません。それだけ彼らが、毎日仕事をしながら育児を続けていくことに疲れているからでしょう。

また、近年は「子どもが欲しくてもできない」と悩み、不妊治療を経験する夫婦が「4.4組に1組」とも言われ、表立って「産んでよかった」と言うことがタブー視される環境にあるとも考えられます(25年厚生労働省「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」)。

『母親になって後悔してる』がベストセラーに…

ですが22年、一つのタブーが解放されました。イスラエルの社会学者オルナ・ドーナト氏が著した『母親になって後悔してる』(新潮社)が日本でもベストセラーとなり、母親たちが「誰にも言えなかったけど、私も思ったことがある」など、次々と声をあげ始めたのです。

日本では長年、「子どもを産んで後悔している」と人前で話すのは、大きなタブーだったはず。でも、そこが解放されたわけですから、逆に「産んでよかった」とZ世代に語り、出産の先にある「美しい景色」を見せてあげる大人が増えてもいいはずです。

既述の通り、親が自分を愛してくれたと感じているZ世代が、年収や雇用形態、あるいは「親ガチャ」などの境遇を超えて、「自分も子どもを育ててみたい」「新しい家族が欲しい」との思いをどこかに秘めているのだとすれば……、彼らが出産(子作り)に向けて勇気ある一歩を踏み出すためにも、まず親として、人生の先輩として、大人世代の私たちが変わるべきではないでしょうか。

なぜなら、先行き不透明な時代に「国も会社も守ってくれない」と嘆く若者たちの多くが「最後の砦」だとするのは、親であり、家族であり、信頼できる大人だからです。

文/牛窪恵

『Z世代の頭の中』(日経BP)

牛窪恵
「母親になって後悔してる」が共感を呼ぶ日本の結婚…子育ての身近なロールモデルがいない中で結婚後の「美しい景色」を語れるのは誰か
『Z世代の頭の中』(日経BP)
2025年7月10日1,210円(税込)296ページISBN: 978-4296120758

早期離職、タイパ重視、恋愛しない、飲み会嫌い、スマホ中毒……若者の「それ」本当ですか?

近年、日本の職場や消費の現場で、あるいは少子化のキーパーソンとして、広く注目される「Z世代」。実は、メディア発信による既存イメージの多くが、彼らの実像を見えにくくし、「昭和・令和世代」との大きなギャップを生んでいる可能性が、指摘され始めています。

たとえば、「会社をすぐ辞める」「恋愛・結婚は面倒」「お金を使わない」「打たれ弱い」「親とベッタリ」「政治に無関心」……など。

こうした世間でのイメージの背後で、実際の令和の若者・Z世代の多くは何をどう考え、なぜそのように振舞っているのでしょうか?

本書では、消費者研究で定評のある世代/トレンド評論家・牛窪恵が、令和の若者1600人以上への大規模調査(※)と55人へのデプス(1対1)インタビューを基に、彼らのナゾにとことん迫ります!

(※大規模調査=協力:CCCマーケティング総合研究所)

●本書に登場するZ世代のナゾ●
○なぜ第一志望に決まった直後に「転職サイト」?
○なぜ「いいね」の数より「界隈」を好む?
○なぜ仕事と恋愛は「トレードオフ(両立できない)」?
○なぜ健康志向なのに体に悪そうなモノを買う?
○なぜ「地元好き」なのに都会や海外に出ていく?

【目次】

第1章 若者は「すぐ辞める」のか――仕事と働き方のナゾ

第2章 若者は「ニッポン」に興味がないのか――政治と起業、地元志向のナゾ

第3章 若者は「結婚が面倒」なのか――恋愛と結婚のナゾ 

第4章 若者は「親に甘えすぎ」なのか――家族と出産のナゾ

第5章 若者は「お金を使わない」のか――消費とSNS、友人関係のナゾ 

第6章 若者と、どう歩んでいくべきか――Z世代と創るニッポンの未来


Z世代の皆さんへ 行動経済学に基づく「3つの知恵」

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