「日本の通貨崩壊は避けられない」弁護士・明石順平氏が警告する“サナエノミクスの落とし穴”
「日本の通貨崩壊は避けられない」弁護士・明石順平氏が警告する“サナエノミクスの落とし穴”

2026年6月3日、日経平均株価が史上初めて6万8000円台を突破した。その日、東京株式市場では取引開始直後から買い注文が広がり、値上がり幅は一時2000円を超えたという。

株価が史上最高値を記録しているのに、なぜ国民生活は苦しいのか。高市早苗総理の経済政策「サナエノミクス」の問題点を、100以上のグラフや公式データを用いて指摘した新刊『サナエノミクスによろしく』(インターナショナル新書)を上梓した、弁護士の明石順平氏に話を聞いた。

株価が史上最高値を更新も、なぜ国民生活は苦しいのか

――日経平均株価が、史上初めて6万8000円台にのせました。現在の株価の高騰は、どのような理由から起こっているのでしょうか?

(明石順平氏、以下同)「大きな要因としては、円安による影響です。円の価値が下がれば、名目値で見ると上がっているように思えるけれど、ドルベースで見れば、たいしたことはありません。

円安になると、外貨に対する日本円の価値が下がるので、日本株が安売りされるのと同じ状態になります。つまり、海外投資家にとっては日本株が購入しやすくなるのです。

例えば、1ドル=100円であれば、1万円の株は100ドルで買えますが、1ドル=200円だと、その半分の50ドルで購入できます。

海外投資家からすれば以前の半額で日本株を購入できるので、買い注文が多くなる。そして為替相場に見合う値段に自然と上がっていくわけです。

もし1万円の株が2万円まで上がったとして、日本円で見ると倍額になったように感じますが、同時に1ドル=100円から1ドル=200円に円安が進んだとすれば、従前と同じ100ドルのままです。つまり『その時の円の価値』を考慮に入れないと、実態を見誤ってしまうのです。

このように、現在の株価は円の価値が下がったことにより、名目値だけ絶好調に見えているだけ、という側面が大きいのですが、しかし、国民の大半はそれに気付いていません」

――日本企業は「円安は善」というイメージを持っていました。

「結論から言うと、日本企業にとって『円安は無条件で善(プラス)』という時代は明らかに終わりました。

かつては『円安=輸出企業が儲かって国全体が潤う』という面がありましたが、現在の日本経済の構造変化によって、円安の『デメリット』が『メリット』を食いつぶす、あるいは特定の企業や国民に大きなシワ寄せがいく形に変わっています。

長らく製造業が日本の産業の中核的地位を占めてきたことが影響したのか、日本人は「円安は善である」という認識が非常に強い。円安になれば、輸出の際の為替差益で製造業が儲かるからです。

また、株価が上昇すれば日本人は好景気であると錯覚します。要約すれば、『円が安く、株価が高い』状態であれば、日本人は好景気であると認識する。安倍晋三元総理のアベノミクスは、この点において成功しました」

――高市早苗総理が掲げる「サナエノミクス」は、安倍元総理の「アベノミクス」の枠組みを継承・発展させたものと喧伝されています。サナエノミクスの内容について教えていただけますでしょうか。

「サナエノミクスというと、積極財政と言われることが多いと思います。要するに『政府がお金たくさん使いますよ』ということです。政府がお金をたくさん使うと、国民の間にお金がいっぱいバラまかれるので、景気は良くなる。そのように主張しているのがサナエノミクスです。

アベノミクスは、『大胆な金融政策』『機動的な財政政策』『民間投資を喚起する成長戦略』の『3本の矢』を柱とする政策でした。サナエノミクスは、「積極財政」ですので、このうちの第二の矢を拡大していくというイメージで捉えればいいと思います。

現在の円安は『アベノミクスの副作用』です。この状況下で『サナエノミクス』、すなわち積極財政を行うとどうなるのか。積極財政によって国民にお金がばらまかれると『お金が増える』ので、円の価値が落ちます。さらに、国債増発の必要もあるので、日本財政への信頼も低下します。

要するに、ただでさえ円の価値が危険に晒さらされている状況が、もっと悪化するのです。たとえるならば、高熱を出している人を、水風呂に入れるようなもの。専門的知識を持つ人からすれば、絶対にやってはいけない誤った政策といえます」

約50年間で社会保障費は22倍以上に

――政府・与党は、食料品の消費税を2年間限定で現行の8%から1%に引き下げる減税案の検討に入りました。公約の「ゼロ」ではレジのシステム改修に約1年かかり早期実施が困難なため、「1%」とすることで来年4月からの導入を目指しています。食品の消費税を1%に引き下げた場合、税収は年間約4.4兆円減少するとみられていますが、どのような影響があるでしょうか?

「消費税減税も、市場に与える影響は『積極財政』と同様です。減税したら穴埋めのために国債を増発しなければなりません。そうすると、ただでさえ危うい状況にある日本財政への信頼がさらに落ち、金利上昇と円安が悪化します。

物価は上昇し続けるため、消費税減税による物価下落は、円安による物価上昇によってすぐに打ち消され、生活はより苦しくなるでしょう。消費税の代わりに、もっと恐ろしい『インフレ税』が来るだけです。世の中にうまい話はありません。

消費税は極めて安定した財源です。なぜOECD加盟国のうちアメリカを除くすべての国が消費税を導入しているのか、その理由は高齢化による社会保障費の増大です。

『福祉元年』と言われた1973年度に6兆2640億円であった社会保障費は、2021年度には138兆7433億円と、22倍以上に増えました。そして、その増加は65歳以上人口の増加に比例しています。これは、社会保障費が主として高齢者向けのものだったからです。

約50年間で社会保障費が22倍以上増えたにもかかわらず、日本は必要な増税を怠ってきました。国際的に見ると、日本は法人税は高いけれど付加価値税、所得税が著しく低い。

法人税収、付加価値税収、所得税収の対GDP比について見ると、2019年の日本の法人税収対GDP比は38カ国中8位で上位に位置しますが、付加価値税収対GDP比は34位、所得税収対GDP比は26位であり、いずれも下位となっています。

この3税を合計した順位で見ると、日本は38カ国中32位です。

このように、日本は先進国の中でも極めて税負担の軽い国ですが、国民の意識は逆となっています。不当に重い税負担を課せられていると思っている国民が大半を占めているのです」

――日本の税負担は、世界的に見て下位にあるのですね。負担と給付のバランスの差を埋めているのが国債ですが、国債の暴落はありえるのでしょうか?

「国内の長期金利の指標となる新発10年物国債をはじめ、今すべての国債の金利が上がっています。国債の金利が上がるというのは、国債の価格が下落しているということ。つまり、日本の国債がどんどん信用を失っているというわけです。

国債の信用というのは、『きちんと税金を取ってそれで返します』という建前によって成り立っています。だから『減税します』というのは、『まともに返す気はありません』と言ってるのと同じですので、当然、信用は失われます。

補助金は通貨崩壊の危機を先送りにするだけ

――まったく明るい未来が見えないのですが、この先、日本はどうなってしまうのでしょうか?

「一つ言えるのは、円安に史上最大の石油ショックが合わさることで、深刻な食糧危機が発生する可能性があります。実際、日本の農家さんは今、大ダメージを受けています。

日本は肥料・原料の大半を海外からの輸入に頼っていて、特に原油に関しては中東に依存しているので、中東混乱のあおりを受けて日本への供給を一時ストップするなどの『二次リスク』が発生しています。価格が高くても、手に入るならまだマシですけど、そもそも手に入らないという状況になりかねません。

また、史上最大の石油ショックは、通貨崩壊の時期を前倒しにする可能性があります。今後、世界的にインフレが進行するのは間違いないので、各国は金利を上げてインフレを抑制しようとしますが、日本の場合、日銀債務超過危機と日本政府の債務危機を抱えているので、他国並みに金利を引き上げることができません。

したがって、他国との金利差が拡大し、それは大きな円安要因となります。

そうなると財政出動を求める国民の声が非常に強くなるので、これに応えるために高市総理は巨額の補正予算を組み、財政支出を拡大しようとするでしょう。高市総理としては、まさに積極財政を実施する大義名分ができたと、プラスに解釈するかもしれません。

財源は当然、国債です。しかし、ただでさえ日本財政が信用を失い、大きく円安が進んでいた状況下において、国債発行額を拡大すれば当然円安はさらに進んでしまう。

また、日銀の買支えがなければ、巨額の国債を消化するのは不可能でしょう。つまり、日銀が国債買入額を増額する可能性が高い。

それは、『円が増える=円の価値が下がる』という市場へのサインとなるので、やはり円安が進みます。このように、史上最大の石油ショックは、通貨崩壊の時期を前倒しにしてしまうのです。

――今すぐにできる政策としては、何が有効でしょうか?

「たとえば、ガソリン補助金(正式名称:燃料油価格激変緩和対策事業)をやめることです。貴重なガソリンの枯渇を早め、不必要に財政を悪化させるだけです。

ガソリン補助金の最も根深い問題は、『本来上がっているはずの価格』が政府の力で隠されてしまうことです。

補助金によってガソリン価格が固定されると、史上最大のエネルギー危機を感じることができなくなります。

世界中が大騒ぎになっているのに、日本に危機感が乏しいのはガソリン補助金の影響が極めて大きいでしょう。

この補助金政策を継続するためには国債の増発が不可避になってきますが、それは日本財政への信頼を下げ、円安を更に悪化させる要因になります。人気取りのためのその場しのぎはやめるべきです。

ただ、補助金をやめれば危機が去るのかと言えば、そうではありません。元々あった通貨崩壊の危機を多少先送りにするだけ、というのが現実です。

すべての国民は『現実』を見る必要がある

――日本はすでに崩壊寸前というところまで来てしまっているのですね。この先、私たちはどうすればいいのでしょうか?

「現在の債務残高対GDP比の水準は、すでに太平洋戦争敗戦直前の水準を超えています。『新しい戦前』という言葉をたまに目にしますが、正確には戦前ではなく『敗戦前』と言うべきでしょう。

もういつ経済敗戦を迎えてもおかしくない、というのが現状です。これまでは円の強さを背景にした大借金で現実逃避が可能でしたが、もうそれはできません。すべての国民は『現実』を見る必要があるでしょう。

これほど少子化と高齢化が進み、かつ、食料自給率とエネルギー自給率が著しく低い状況で通貨崩壊が起きたことはありませんでした。通貨崩壊を防ぐには財政再建を行い、市場の信頼を回復するしかないのですが、それは不可能です。

財政再建は、具体的にいえば歳出の大幅カットと大増税を意味します。しかし、それを国民が受け入れるはずはありません。だから私は、日本の通貨崩壊は避けられないと思っています。その通貨崩壊の到来を早めるのが、サナエノミクスなのです。

これは以前からの私の一貫した主張ですけれども、日本は大崩壊を避けられません。ただ、避けることはできなくても、同じ失敗を繰り返さないでほしい。過ちの繰り返しを防ぐために、新書『サナエノミクスによろしく』を書きました。

だから、この本は若い人に読んでほしいですね。厳しいことしか書いていないけれど、ここに書いてあるとおりのことが起きますので、『こうした政策は将来に向けてやってはいけないんだな』という発想になってほしいと思います」

文/集英社インターナショナル

サナエノミクスによろしく

明石 順平
「日本の通貨崩壊は避けられない」弁護士・明石順平氏が警告する“サナエノミクスの落とし穴”
サナエノミクスによろしく
2026/6/51,089円(税込)240ページISBN: 978-4797681734

株価が史上最高値を記録しているのに、なぜ国民生活は苦しいのか。偽りの好景気「サナエノミクス」の正体を、公的データをもとに解説する。

「サナエノミクス」とは、高市早苗総理が提唱する経済政策の通称で、安倍晋三・元総理の「アベノミクス」を継承・発展させるものと喧伝されている。アベノミクスは3本の矢、1.大胆な金融政策、2.機動的な財政政策、3.民間投資を喚起する成長戦略からなっていたが、サナエノミクスはこのうち2を強調するものであり、「責任ある積極財政」とも呼ばれている。この経済政策を推進していけば、アベノミクスによって下げられた円の価値はさらに下がり、物価は上昇し、国民生活はより苦しくなっていく。
事実、アベノミクス開始後、円安により株価が上昇する一方で、物価の伸びに賃金が全く追いつかず、国民はどんどん貧しくなっていった。
実質賃金はアベノミクス開始前より低い水準のままである。これを継承するサナエノミクスは、史上最悪のエネルギーショックに襲われている日本の状況を、さらに悪化させるであろう。
ドルベースで見ると、2026年5月現在の名目GDPはアベノミクス開始前の3分の2にすら満たない。これが世界における日本の位置であり、真の姿である。100以上のグラフや公的データを用いて、アベノミクスとは何か、それを継承すると喧伝するサナエノミクスが日本に何をもたらすかを明らかにする。

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