国民的時代劇『水戸黄門』にスピンオフがあったのをご存知だろうか?
その名も『水戸黄門外伝 かげろう忍法帖』。由美かおる演じる人気キャラクター、くノ一の「かげろうお銀」が主役に昇格したアクション時代劇だ。

そのアクションの力の入れ方が半端ない! 水戸黄門と同じ月曜夜8時の時間帯の時代劇にも関わらず、CGと当時の最新特撮技術まで駆使されているのだ。さらに本編のお約束、お銀の入浴シーンを始めとする「お楽しみ」もさらに過激にパワーアップ! 露出度高めのくノ一たちがお色気を全面に出して奮闘するのだ。

こんな作品が本編の第23部に引き続く形で放送(95年5月スタート)されていたのだが、メインの視聴者であるおじいちゃんおばあちゃんは付いていけていたのだろうか?

アクションも敵もド派手!攻めすぎな特撮時代劇


内容をひと言でいえば、かげろうお銀が率いる「かげろう組」の世直し旅。ただし、懲らしめる目的の黄門様御一行と違い、「悪・即・斬」を地で行く形で致死率高め。旅一座の平均年齢もグッと下がるだけあって、アクションも派手な演出が光る。
さらにいえば、敵の忍者も本編と違って派手そのもの。明らかに目立ち過ぎで、とても忍べない気もする個性的なマスクやコスチュームで身を固めた忍者や、『北斗の拳』の雑魚キャラ然としたモヒカン姿の悪党もいたりする。

時代考証よりもサービス精神を優先するその姿勢、攻めすぎである。

戦隊ヒーローそのものの主人公チーム


対するかげろう組は、いわば「かげろう戦隊」。
普段の着物からジャンプ一閃!……ならまだ分かるが、歩いているだけで瞬間的に忍び装束に早変わりすることもしばしば。くノ一たちは赤、青、黄、緑などお約束のカラー分けで、声高に名乗りを上げて決めポーズ。個性豊かな仲間たちと楽しいパーティー(虐殺)タイムの始まりだ。
お銀とゆかいな仲間たちの一部を紹介しよう。


かげろうお銀(由美かおる)
本作の主人公にして最大のお色気担当。「変身の術」により毎度様々なコスプレ姿を披露し、必要以上に体の柔軟性をアピールすることが多い。入浴シーンも本家の倍以上!?

名張の翔(京本政樹)
お銀と姉弟同然に育てられた忍者。相手に当たったらブーメランのように戻ってくる、空中で向きを自在に変える、人間を巻き上げるほどの回転をするなど、物理法則を一切無視した万能なコマが武器。
京本政樹のクールな二枚目ぶりの安定感がたまらない。

蛍(羽田恵理香)
かげろう組のくノ一。
忍法「蛍火」で相手を幻惑するのが得意。使用頻度がとても高いが、その忍法の演出がチープすぎるのが困りもの。忍び装束はセクシャルバイオレットな紫色。
ちなみに、お色気要員として杉本彩や細川ふみえも客演的にかげろう組のくノ一を演じている。

花火の又八(せんだみつお)
大砲のような花火筒が武器で、せんだみつお往年のギャグ「ナハ!」の掛け声と共に盛大にブッ放す。このキャラがいるおかげでアクションシーンでの爆発や炎上が無駄に多く、盛り上がりにひと役買っている。


柘植の飛猿(野村将希)
技の1号まさき(京本政樹)に対する力の2号まさき。怪力の持ち主で、攻撃方法は殴る、蹴る、絞めるといった地味なものばかり。だが、戦闘シーンへの参加は壁をぶち抜いてド派手に登場する機会が多い。本編17部からのレギュラーメンバーでもある。

各話のクライマックスでは印籠替わりに「葵の御紋が入った巻物状の黄門様の親書」が登場。これを見せることで悪人がひれ伏し一件落着と、水戸黄門のフォーマットは踏襲しているし、第1話に黄門様(当時は3代目の佐野浅夫)一行が橋渡し的に登場するなど、従来の視聴者を意識もしている。

しかし、おじいちゃんおばあちゃんにはいかんせん刺激が強すぎたのか、16話のみの短期シリーズに終わり、続編も作られることはなかった。
時代劇と特撮のいいとこ取りをした結果、時代劇ファンと特撮ファン、どちらにも受け入れられなかった悲劇。時代劇が衰退しつつあった90年代、そんな中で狂い咲いた時代の徒花(あだばな)だったのかも知れない。
(バーグマン田形)
『かげろう忍法帖 DVD-BOX』