今でこそどこの家庭にもある食品包装用ラップ。各メーカーによって「クレラップ」とか「サランラップ」とか商品名は異なるが、あの透明なラップである。


このラップが生まれたのは20世紀の初頭。1909年に化学者レオ・ベークランドによって世界初の人工プラスチック・ベークライトが開発されてから、アメリカでは研究が進められ様々な合成樹脂が作られた。そんな時代に生まれたのがポリ塩化ビニリデン。いわゆるラップフィルムだ。

実はこのラップ、初めから台所用品として開発されたものではなかった。開発直後に使われたのはこの時代の定石どおり戦場。
悪環境の太平洋戦線で、銃や弾丸を湿気から守るための包装材として使われたのだ。

さらにジャングルなどで兵士を悩ませた蚊から身を守るための蚊帳や、水虫防止のために靴の中敷にも使われたという。終戦後、このラップに改良がほどこされ、チーズの包装に使われるようになったのだそうだ。

しばらくはこのチーズの包装以外に使い道もなかったそうだが、その後フィルムメーカーの社員がたまたまレタスをフィルムに包んでピクニックに行ったところ「まあ、キレイ。私も欲しい」と女性たちの間で評判に。これをきっかけに食品包装用の商品になったのだそうだ。


ちなみに日本でこの食品包装用ラップが発売されたのは昭和35年のこと。当時の日本に電子レンジなどあるはずもなく、まだ冷蔵庫もあまり普及していなかった。主婦たちのほとんどがこれを見て何に使うのかわからなかったという。

これと似たものが形状記憶合金。ある一定の温度以上に加熱すると元の形状に回復する性質をもつという合金。日本とアメリカとで開発を競い合ったほどの技術だ。
今では携帯電話のアンテナやメガネのフレームにも使われているポピュラーなものだ。

しかしこの形状記憶合金も開発された当初は、日本では全く使い道がなかった。使い道が思いつかないことってどうなの? という感じだが、当時発売されたのはお湯につけると形が変わる針金おもちゃのようなものだけであっという間に飽きられてしまった。変わったところでは人工ペニスの開発というのもあった。

そんな中、開発されたのがブラジャー用のワイヤーで、これがきっかけで形状記憶合金の使用用途は広がったのだとか。出来上がった後に使い道と考えるっていうのもなかなか苦労があるようです。
ちなみにアメリカでは形状記憶合金は戦闘機の油圧パイプのジョイントなど軍事用に使われております。(こや)