JR平塚駅の南口から海岸へ向かって走る「扇の松海岸通り」で開催されたフリーマーケットに縁があって出かけてきた。ラフなスタイルで商いを楽しむ人々の様子や海沿いのゆったりとした雰囲気に浸っていると、おもしろい情報を耳にすることができた。
それは、「木の板でサーフィンをする人物がいる」ということ。そして、木の板とはサーフボードの原点で「アライヤ(波板)」というらしい。海なし県に生まれサーフィンとは無縁の私だが、興味が湧いたのでその人物にお話を伺うことにした。

扇の松海岸通り沿いでボードショップ「mo3store」を営むmo3氏こと劔持良輔氏(以下mo3氏)がアライヤに出合ったのは、今から2年前に遡る。
「アメリカのサーフショップを訪れた際に、初めてアライヤを目にしました。フィンも付いていないただの木の板が立てかけてあって、しかもそれが高値で売られていたのに興味を引かれて購入しました。
初めてアライヤで波に乗った時も、出合い同様かなり衝撃的でしたね」

現在、サーフボードの主流は発泡ウレタンフォームをガラスクロスとポリエステル樹脂で包んだホームボードだが、約100年前までは木の板をシェイプしたアライヤが用いられていたそうだ。大きくて重く水を吸ってしまう木に比べて軽く手軽にシェイプしやすいホームボードに人気が集まり、次第にアライヤに乗る人は減っていったという。

「現在のアライヤは、昔に比べてかなり軽いです。桐を使用することが多いですが、さまざまな木を使うことでアライヤも日々進化しています。多少乗りやすくなったため、最近ではアライヤに挑戦する人も増えましたね。アライヤに乗る際は、基本に忠実であることが一番。
テクニックや本数ばかりにとらわれず、波と一体化することを心がけてほしいです」

mo3氏は現在3本のアライヤを所有し、気分や波の状況などで使い分けて楽しんでいるそうだ。さらにアライヤと出合い、「波がどこから来て、どこでブレイクするのか?」「木のたわみをどのようにコントロールすれば、より速くターンができるのか?」など、波と板についてより深く研究するようになったという。

「アライヤに乗っていると、いつも波に乗せてもらっていると実感します。波と一体化し、まるで魚になったような気分になるんです」

そう笑顔で話すmo3氏を私はとても羨ましく思った。その感覚は、サーフィンと真摯に向き合うことで海から贈られた特権のような気がするからだ。
mo3氏はショップを運営する傍ら、海の環境保護や扇の松海岸通りの活性化を図るイベントも行っている。
バイタリティー溢れる姿勢や気さくな人柄で、地元でもファンが多そうだ(取材中、子どもも大人も関係なく通りを歩く人のほとんどに声をかけられていた)。

生物の誕生は海とともにあった。そして、それが私たちの起源なのだ。アライヤを通して海と対話するmo3氏から、サーフィンの奥深さを学んだ気がする。
(うつぎ)