なんなんだ、あの穴は。

アワビやトコブシの殻に、5個ぐらい開いている穴、あれって何のために開いているのか。


普通に考えればまあそれは、呼吸用だ。でも、たとえばアサリなら、殻の脇からニョキッと飛び出た2本の管、これが入水管/出水管という呼吸用のものだというのを理科で習った。アワビの穴もそれ系だと思うが、だったら2個でいいんじゃないかという気がするが。どうなんだろうか。

魚介類のことに詳しい、おさかな普及センター資料館にたずねてみたとこころ、やはりその主な役割は、いわゆる呼吸用、そして排泄用ということらしい。穴の下に、えらや生殖器、肛門などが配置されているわけだ。

ミミガイ科のアワビやトコブシは、サザエやタニシと同じ、「巻き貝」の仲間で、その形状から「平形」という殻の分類がされている。
外敵に襲われそうになったときなど、岩などにピッタリすき間なくはり付いて、身を守る。そんなときに、その穴からスーハーとできるわけで、なかなか合理的な貝殻のつくりだ。

数については、アワビが4〜5個に対し、トコブシは6〜8個と、トコブシのほうが多い。ちなみにアワビの穴のほうが、噴火口みたいに盛り上がっていて、トコブシの穴の周辺は、平べったい。そして、成長により殻が大きくなってくるにつれ新しい穴が形成され、古い穴がふさがっていく。
アワビの貝殻をよく見てみると、開孔していない、穴の痕跡がみつかるはずだ。

では、複数ある穴の役割分担は、どうなっているのだろうか。「1番・吸う用、2番・吐く用、3番・ウンコ用」とか、決められているのだろうか。
「これは、種類や個体差がいろいろあるので、一概にはどれがどうとはいえないんですよ」
確かに、個体によって穴の数も違ったりしているわけだから、この穴がこの役割といったようにはなっていないようで、多く開いたぶんは「スペア」というわけでも、もちろんない。
そんななか、一番奥側に位置する穴だけは唯一、「排泄用」としての役割があって、これは固定された役割をもつ穴だということが分かっているそうなのである。

殻の内側は、なんとも不思議な輝きをもち、装飾品などにも使われたり、鳥や野良猫よけとしてぶらさげられたりと、いろんな用途をもつアワビの殻。

夏が旬のアワビ。コリコリの食感とともに口の中に広がる磯の香り。中華で柔らかく煮込んだのもうまいし、肝がまた、酒のつまみにたまらなく、うまい。当然高級品なので、なかなか口に入る機会も訪れませんが、貝殻の穴のことを思いながら味わってみたいかと思います。
(太田サトル)