韓国ソウルの隣町、九里(クリ)市の山中に、「ヨン様岩」と呼ばれる岩があるという。あの世界的スターであるペ・ヨンジュンと、岩石とのシュールな関係とは……。
実際に行って確かめてきた。

ヨン様岩があるのは、ペ・ヨンジュンが主演したことで話題となったドラマ、『太王四神記』の撮影現場である「高句麗鍛冶屋村」からすぐ。なおこのテーマパークは、ドラマのセットがあるだけではなく、実際に出土された高句麗時代の鉄器も展示する、歴史学習の場ともなっている。
峨嵯(アチャ)山の中腹にある鍛冶屋村まではタクシーで向かう。駐車場で車を降り、『太王四神記』のテーマ曲が流れるゴージャスなセットには背を向け、道しるべに沿って山の中へ進む。緑がうっそうと茂る、坂道の急な登山道を歩くこと10分。
看板が示す高台に立つと、向こうに人の顔の形をした崖が見えた。そう、これが「ヨン様岩」だ。

確かに見事に顔の形をしている。が、ヨン様に似ているかどうかはよくわからない。そこにある看板には、日本語で以下のように書かれている。
「高句麗鍛冶屋村ができ、太王四神記のロケが行われるころに発見された人の形をした岩である。
(中略)ペ・ヨンジュンが鍛冶屋村で撮影していた時に発見されたことから、ペ・ヨンジュンに似ているようにも感じられる。不思議なことに、ペ・ヨンジュンが立っていた位置からしか見えない」
発見された時期がヨン様と関係していることが重要であり、似ているかどうかは大きな問題ではないらしい。「発見されたことから、~似ているようにも感じられる」の訴えの弱さにも、それは伺える。

では、「ペ・ヨンジュンが立っていた位置」とはいったいどういうことか。
下山して高句麗鍛冶屋村の係の人に話を伺うと、それは撮影所内にあるとのこと(ただし、そこからは顔の形には見えず、説明を受ければそんな岩があるとわかるぐらい)。
聞くところによるとこのヨン様岩、日本や台湾、フィリピンのファンには既に大人気で、岩が発見されたのは昨年9月のことなのだが、テーマパークが開園する今年4月よりも前にも、多くの観光客が押し寄せているという。
さすが世界のヨン様、恐るべき集客力だ。
さらに村内の売店では、スカーフなどの「ヨン様岩グッズ」まで売られていた。

ところで韓国はいま登山ブームで、私が山の中、ヨン様岩の前で感慨にふけっている20分ほどの間に、本格的な登山服を着た中高年の夫婦が頻繁に行き来した。
彼らの多くが、その岩を一瞥すると「ああ顔だね」というあっさりした反応で、まだ遠い山頂へそそくさと向かっていく(韓国語の看板には、「ヨン様岩」ではなく「大岩顔」とだけ書かれている)。
通り過ぎる登山客の視線には目もくれず、セルフタイマーでヨン様岩とのツーショット写真を撮った。遠くのほうから『太王四神記』のテーマ曲が、かすかに聞こえてきた。

(清水2000)