この夏、新進動物写真家、太田達也さんの第一写真集『きみにあいたい I wanna see you.』が山と溪谷社から出版された。
この写真集は、北海道の北の大地で懸命に生きる動物たちが私たちに語りかけてくるような、一瞬見せる何とも言えない表情を見ごとにとらえた作品集。


太田さんは1971年生まれの37歳。動物たちを撮りはじめて20年というキャリアを持つ。
どうしたらこんな風に動物たちをとらえることができるのだろう。
久し振りに見ごたえのある写真集に出会った気が。
こんな素敵な写真を撮る動物写真家、太田さんに動物の写真を撮ること、動物写真家という仕事について話を聞いてみた。

写真の対象は数あるものの、なぜ動物写真家に?

「幼い頃、コバルトブルーに輝くカワセミを見て野鳥のとりこになったんです。
それがこうじて、渡り鳥を追って全国各地を旅しているうちに、同じ環境に生息する動物たちも撮影するようになりました。北海道に生息する北のカムイ(アイヌが神と同一視していた動物)たちに魅せられたことが、動物写真家になる最大の原因ですね」

動物写真家とはずばりどんな仕事?

「過酷な自然のなかでも耐え続けることができなくてはならない仕事。常にフィールドにでていること、自然そのものが現場であり、動物たちとの接点の場であるということでしょうか」

「氷点下20度の中、ただひたすら待つということもあります。明朝夜明け前から日没後、夕闇迫るまでただひたすら雪原の上に身をおきながら待ち続けます。寒さのあまり、呼吸ができず肺が締めつけられたり、凍傷ぎみになる場合もあります」
さらに、漁船の上で海洋性動物を撮影する場合、時化(しけ)の影響で荒波をかぶり、吐き気と戦いながら撮影する場合もあるのだとか。

「数えあげたらきりがないほど、自然のなかに身を浸すと色々なことがあるのですが、今思うとどれもなくてはならない貴重な経験だと思っています」

それにしての表情豊かな写真を撮るには何かコツはあるのだろうか?

「まず言えることは、がつがつとあえて撮ろうとしないことだと思います。
動物たちが暮らすフィールドの中に入れさせてもらう場合、謙虚な気持ちを忘れずに、ただひたすら待ち続けることが大切だと思います。まずは、動物たちに同じ地球上の仲間として受け入れてもらうことが一番大切なのではないでしょうか」

なるほど、謙虚な気持ちが動物たちの写真を撮らせてくれるとは。
さらに、太田さんはただ彼らと一緒に過ごせるかけがえのない時間が、たまらなく好きなだけとも言う。

「どんな動物でも好み関係なく好きですね。その動物にしか見ることができない一瞬の輝きがあると思いますから。ヒグマやフクロウなどもいいですが、その動物たちの生きる糧となり、ただひたすらに母なる川と戻ってくる鮭の一生がたまらなく好きです」

「私にとって動物は同じ地球上に暮らす仲間です。
そして動物も人間も含めて全て、輝くいのち。私が一貫して追い続けてきたテーマは『いのちの絆』です」
 
「私はただ単に、動物たちのメッセージを贈り届ける代弁者にすぎない」と謙虚に語る太田さん。そんな彼は厳しい自然の懐に飛び込んで受け入れられた数少ない人のように思う。

最後に読者の方へのメッセージをうかがった。

「私たち人間は、日々の生活のなかで様々な悩みや苦しみなどに葛藤し、悲しみや淋しさに耐えながら生きています。しかしそんな時にこそ、ふと立ち止まって思いだしてほしいのです。
遠く離れた北の森にはもう一つの世界が存在するということを。地球上に暮らす仲間として、彼らは健気に逞しく、ただひたすらに生きるということだけを考えながら森のなかで生活しています。彼らの仕草や表情を見つめていると、私たち人間が日々悩んでいた些細なことなど、何てちっぽけなものだと改めて考えさせられるのです。この写真集が、生きるということ、愛するということの考えるきっかけになってくれたらと思っています」

太田さんの写真の魅力は自然に対する畏怖の念、謙虚な気持ちで自然からのメッセージを届けてくれるところにあるようです。

なお、根室中標津空港で太田さんの写真作品20点が、8月1日~2010年12月までの1年半常設展示されるそう。近くに足を運ばれた際にはぜひお立ち寄りいただきたい。


北の大地の動物たちのメッセージがたくさんつまった太田達也さんの写真はあなたにきっと「いのち」の大切さを教えてくれるのではないでしょうか?
(こや)

・お問い合わせ先(山と溪谷社):katsumine@yamakei.co.jp