危険を感じたときに思わず「あっ」と声が出てしまったり、ぶつかっていないのに「痛っ!」なんて言ってしまったことがある人も多いのでは? 実際に人とぶつかったりしても、衝撃ほどには痛みは感じていないのにもかかわらず、「痛い」と言った自分がときどき不思議に思うことがある。痛いわけでもないのになぜ?

心理学に詳しい精神科医のゆうきゆう先生に聞いてみた。

「これは『ぶつかる』と思った瞬間に脳が『すでにぶつかった』ものとして処理しているので、反射的に『痛い』という言葉を発してしまうんですね。脳がその先の状況を予測し、脳内では『経験済み』として処理しているので、痛くなくても『ぶつかった場合』の反応をしてしまうのです。実際にぶつからなくても『ぶつかることを想像しただけ』でも、同じ働きをしてしまいます」

なるほど、脳が「痛い」と判断してしまえば、痛くなくても「痛い」と言ってしまうわけだ。私は子どもの頃から注射が大嫌いで、今でも針を刺される前から「いててててて……」と喚いてしまうが、終わってみると大して痛くなかったってことも少なくない。過去の記憶から、脳が「痛かった場合」を想定してしまったのだろうか?

「過去に痛みを感じたことで単純に『痛い』と言っているわけではないんです。心理的には『痛いということに対する恐怖心』があるために、過去の経験を忠実に脳内で再現することが出来ます。
心理的には『針が刺さったも同然』なのです」

つまり、「針が刺さるぞ」という判断から「刺さったらどんな感じだったか(心理的に)」を思い出し、「いててててて……」となってしまったのだ。

この反応は誰にでもあることなの?
「これは痛みを感じる経験をしていない人には起こらない反応です。経験として『痛い』、『ぶつかった』というものが成立していなければ、それに伴う反応が用意されていないので、赤ちゃんや経験値の浅いお子さんなどには見られない反応ですね。梅干しを食べたことがある人は、梅干しという言葉や梅干しを見るだけでも酸っぱさを感じ、唾液が出てくるでしょう? しかし外国の方など、梅干しを食べた経験がなければ、この反応は出てきません。とっさに『痛い』と言ってしまうのも、これと同じ反応なのです」

確かに“梅干し”なんて想像しただけで、唾液が出てきて、こめかみがキューっと痛くなる。脳が「すっぱ~~~っ」と悲鳴をあげてるわけだ。


とはいえ誰かに「いってぇな~ぁ!」と言われても「本当は痛くないんでしょ?」なんて言うのは禁物。そこは素直に謝っておきましょう。
(楓 リリー)