東日本大震災、被災地の母子を一時的に避難させる「赤ちゃん一時避難プロジェクト」が話題を呼んでいる。
赤ちゃんのいる家族を被災地から一時避難させ、民間の宿泊施設へうつってゆっくりと療養してもらおうというプロジェクト。
プライベートの守られた個室を使うことができ、医療費もすべて無料、行き帰りの移動支援もおこなっている。

小さな子ども連れの家族にとって、避難所での生活はストレスが多い。震災の発生直後、「小さな子どもやお母さんたちだけでも、どこかゆっくりできるところへ避難させられないか」とNPO法人らが立ち上がり、新潟県湯沢町が呼びかけにこたえた。新潟は、中越地震の被災地であり、「私たちも中越地震では全国のみなさんに助けてもらった。困った時はお互いさま」と、受け入れに積極的な姿勢を示した。

当初は、9000人以上が避難していると言われた宮城県南三陸町から希望者を募った。
しかし、全てが順調というわけではなかったという。広報担当を務める、三好さんに話をうかがった。
「はじめは、赤ちゃん一時避難プロジェクトのちらしをにぎりしめ、南三陸の避難所に行きました。しかし、1500人規模の避難所でも、2人ぐらいのお母さんにしか出会えなかった。そこからは個別訪問にきりかえ、小児科の先生とペアになって、子どもにとっては衛生上良くない状態だと、説明して回りました」

「遺体がまだ多く残っていて、日中、お父さんは作業でいなかった。母と子だけでは動けない。
離れたくない、という思いも強い。なかなか、避難の希望者を見つけることが難しい状況でした」と、3月27日の時分を振り返る。
それでも、家を失った人を中心に、徐々に希望者が現われはじめ、南三陸だけでなく、福島の南相馬市などからも、ぜひ参加したいという声があがった。
「旅館の皿洗いでもいいから、手伝いをするのでどうか泊めてくれないかというお問い合わせもありましてね、全て無料なんですよ、というご説明をしたら、とても喜ばれました」

今は、プロジェクトに参加したお母さんから、別のお母さん友達に評判が広がり、口コミで参加者を増やしているという。
参加したご家族からは、
「『これは皆に教えたい』と子供がいる友達全員にメールしました。今回の震災で苦しんでいるママとチビちゃんはいっぱいいると思います。
避難所生活の環境はよくないと私は実感しました」(宮城県南三陸町、2歳の男の子のお母さん)
「最初はなかなか気乗りしませんでしたが、実際こちらに来てお世話になってみると、想像以上に子供たちにとっては素晴らしい環境であり、スタッフの方々の対応も素晴らしく、やっと本当の意味で心身共に休めることができそうです」(9カ月の女の子のお母さん)
など、喜びの声が寄せられている。

「赤ちゃん一時避難プロジェクト」以外でも、新潟県では、民間の宿泊施設での受け入れを積極的に実施しており、湯沢町全体で、累計1000人を超える人数を受け入れてきたという。あまり知られていないことだが、そのうち半数近くはすでに退出しており、「避難」と一言でいっても、短期的なものから長期のものまでさまざま。新学期のはじまりと共に帰宅したり、父親だけが自宅との間を往復したりという例もある(赤ちゃん一時避難プロジェクトでは、移動の支援もおこなっている)。

最後に、広報・三好さんより、被災地の方々へのメッセージをいただいた。
「湯沢でなくても他の場所でもいいから、短い期間でも被災地を離れ、清潔な環境で休息と栄養をとり、また、子どもには思い切り体を使って遊ばせてあげてほしい。
それがわたしたちの願いです」
一時避難に踏み出そうか悩んでいるご家庭があれば、少しでも多くの人に、実際に体験したお母さんやお子さんの生の声が届いてほしいものだ。
(木本一花)