軽くて柔らかく、仮に落ちても大事に至らない。そんな夢のような(?)天井があるのをご存じだろうか? 「膜天井」と呼ばれるものだ。


東日本大震災の際、各地の建物で天井が落ちたのは記憶に新しいところだが、東京の日本科学未来館も被害をうけた建物のひとつ。1~6階まで吹き抜けになっているエントランス部分の天井やそれを支える金具が破損した。

その影響でしばらく閉館していたのだが、6月11日に営業再開。もちろん、天井の工事も終わっていたが、実は今回、壊れた部分の補修や強化をするのではなく、まったく新しい「膜天井」なるものに作りかえていた。

膜天井とは、グラスファイバーの織布を樹脂コーティングした「膜」で天井を張るというもの。最大の特徴はその軽さで、一般的な石膏ボードの天井に比べると、重さはなんと約40分の1。
柔らかいので、変形や衝突にも強く、スピーカーのようなものが落ちたときには落下防止ネットのようになって受け止める効果も期待できる。

同館と天井復旧の共同研究をおこなう東京大学生産技術研究所の川口健一教授によれば、天井の落下被害は天井の材質と設置の高さによって決まってくるそうで、
「耐震補強では根本的に被害をなくすことはできない。現状復旧では、同じ被害を繰り返すことになってしまう」
とのこと。

日本科学未来館の場合も、被害の大きさから考えれば、現状復旧という選択肢もあった。それにもかかわらず、使えるはずだった残りの天井もあえてすべて外し、ゼロから膜天井を張ることを選んだのは、安全と安心を考えたからこそ。同館の毛利衛館長は、
「今までの社会のあり方の延長線上ではなく、新たな発想で物事や社会を考え直すことが必要。
同館はそれを見せる場所のひとつ。新しい発想のモデルになれたらよい」
という。膜天井の防音や断熱の性能については明確でないところもあるが、試行的に進めつつ、データも公表していきたいそう。

天井の高さに関しては4~5メートルを超えるような場合に注意が必要になってくるので、個人の住宅では基本的に気にしなくて大丈夫だ。

ちなみに膜天井の素材自体はかなり前からあるもので、すでに釧路空港のターミナルなど国内でもいくつかの施設で採用されている。従来の石膏ボードの天井に比べると、まだ割高ではあるものの、もし東北の復旧などに大量に利用されれば次第に安くなっていくはず。


震災以降、さまざまなシーンで発想を転換する必要に迫られている私たち。膜天井も今後目にする機会が増えそうです。
(古屋江美子)