「なんで勉強なんてしなくちゃいけないの?」

子どもの頃、大人に質問して「いい学校に入って、いい会社に入って、お給料をたくさんもらえた方が幸せになれるのよ」という身もフタもない返答をされた人は結構多いのではないだろうか。

そう言われて「そりゃそうだ、がんばって勉強しなくちゃ!」と納得した人はまずいないだろう。
いや、そんなににべもない回答でなくとも子どもを得心させるのは難しい。誰だって子どもに真っ直ぐな瞳で、勉強をする意義を問われたらひるむに違いない。

その問いにひるむことなく正面から回答している賢人たちがいる。
『子どもはなぜ勉強しなくちゃいけないの』(日経BP社)では、日本を代表する8人の識者 ー 荒俣宏さん、内田樹さん、瀬戸内寂聴さん、坂東眞理子さん、福岡伸一さん、藤原和博さん、茂木健一郎さん、養老孟司さん ー が子どもたちにそれぞれの言葉で語りかけている。

「人間は動物よりも多く勉強をして生き残った」と荒俣宏さんは語り、「勉強をするのは『自分のため』じゃない」と内田樹さんはいう。福岡伸一さん、藤原和博さんは口を揃えて勉強することによって「自由になれる」という。


アプローチこそ違えど、8人の識者は子どもだと言って適当にあしらうようなことをせず、質問の本質に迫る回答を真摯に子どもにも伝わる平易な言葉で真剣にしている。

ありそうでなかったこのような本を企画し、8人に話を聞いてまとめた育児・教育ジャーナリストのおおたとしまささんはいう。

「実はこの問題に正面から取り組んで本を書いている人はいるんです。作家の鈴木光司さんや教育ジャーナリストの尾木ママこと尾木直樹さんもこの問いに向き合い本を出されています。それぞれに素晴らしいのですが、この難しい問いへの答えは一つではないのではないかと思いました。複眼的な意見があった方がいいと思い、複数の方の意見を伺ってまとめたのです」

おおたさんによると、依頼をするとそれぞれの識者は快諾をしてくれたという。
この難しく、責任のある逃げ出したくなる問いに、よくもこれだけの人たちが回答してくれたものだ。

「あれだけの人たちですから『自分が答えなくて誰が答えるんだ』と自負しているのでしょう(笑)」

本書ではまず識者が子どもに向けて語りかける「子ども編」という章から始まる。
この章では各回答者が平易な言葉で語りかけており送り仮名もふられてているが、子ども相手だからといって見くびっていたり、適当にあしらったりすることはない。

子どもたちが回答者の真意をすべて汲むことはできないかもしれない。それでも小さい頃にわからないながらも一流の人の意見に触れることによって、多感な子どもたちが吸収するものは計りしれないだろう。

後半は「大人編」となっており、「子ども編」の内容がフルスペックで語られている。
賢人の回答に読者は考えさせられ、そして自分がしてきた勉強について考えさせられる。
しかし、なぜ同じ内容を「子ども編」と「大人編」とに分けたのだろうか。

「"教育の危機"が叫ばれて久しいですが、一番の危機は教育の本義が忘れられていることだと思うんですよ。教育熱心な親御さんは増えていると思うのですが、そういう人に限って『なぜ勉強をしなくちゃいけないのか』ということを意識していない人が多い気がします」

「もちろん子どもたちにとっても色々なヒントが得られる内容になっているのですが、子どもを勉強をさせる親御さんたちに、もう一度なぜ子どもが勉強をしなくちゃいけないのかをきちっと考えて欲しくて『子ども編』と『大人編』にわけるという構成にしました」

先行きが不透明な世の中になり、子どもの将来のために少しでも高い教育を施したいというのが親心かもしれないが、ならばこそ上辺だけの学歴の追求に終始しないで欲しいとおおたさんはいう。

「『勉強』と『学問』の違いや、『教育』と『人材育成』などについても考えて欲しいというのがこの本の隠れたテーマでもあるんです。日本が今後どのように変わっていくかわかならい今だからこそ、物事の本質をしっかり理解した上で勉強しないと対応できないですから」

本書で識者たちが答える「勉強をしなくちゃいけない理由」を読んでいると様々なことを考えさせられ、もう一度色々なことを学びたくなってくる。


夏休み、親子共通の課題図書にいかがだろうか。
(鶴賀太郎)