「CDが売れない時代」と言われるようになって久しい音楽業界。そんな中、国内外のインディーズシーンで密かに、カセットテープでのリリースが増えているという話を聞きつけた。


カセットテープ……80年代生まれの私にとっては、ノスタルジーを呼び起こすワードのひとつ。家族で「しーっ!」と言い合いながら息をひそめてテレビの音を録音したことや、CDをダビングしているときに、残り時間であと1曲ぎりぎり入るかどうかというときの緊張感などなど……みなさんもカセットテープにまつわる懐かしい思い出があるのでは?

そんなカセットテープ世代としては、リリースが増えているというのは、なぜだか理由もなく嬉しくなるニュース。けれど、実際にカセットテープで音源を出すことの良さって、どんなところなんでしょう? そこで、現在カセットリリースに力を入れているというインディーズレーベル「ZOMBIE FOREVER」オーナーの森幸司さんに聞いてみました。「なぜ今、カセットテープなんですか?」


「僕も80年代生まれで、カセットテープはいちばん愛着があるメディアなんです」と語り始めた森さん。彼の運営する「ZOMBIE FOREVER」は山形を拠点とするレーベル。地元のいい音楽を全国に伝えたいという思いから、以前はCDを全国流通していたそう。


「自主流通するところから始めて、大手レコード店への流通までこぎ着けたんですが……本当に届けたいところに届いてないんじゃないか? という違和感が生まれ始めて」。流通という形に疑問を感じ始めた森さんは、信頼関係の築けるレコード店だけに限定して、委託販売するよう路線を変更したという。

「不特定多数のリスナーに届く確率は減りましたが、反応がダイレクトに返ってくるようになり、自分たちの手で作ったものが直接届いているという感覚になりました。それまでの違和感は吹っ飛びましたね」

そんな試行錯誤の延長線上に、カセットテープでのリリースがあったそう。

「カセットテープは頭出しができないので、一曲一曲ちゃんと聴くようになりますよね。今の10代の子って曲名をほとんど覚えないし、誰が作詞作曲したのかなんかも興味がないらしく……。
僕はなるべくレコーディングからパッケージングまですべての過程に関わるようにしているので、しっかり聴いて細かなところまで知ってほしいという想いも強くて、そのへんをカセットテープに託したいと思ったんです」

制作はかなりのDIYスタイル。まずブランクテープに音源をダビングし、ジャケットのデザインをA4版の厚紙に印刷、テープのインデックスシールもA4版のフリーシートに印刷し、それぞれカット。素材が揃ったところで組み立てていくという作業方式をとっている。パッケージングもひとつひとつホチキスでとめているのだとか。

「全国流通しているときはいろんな人が関わってくれていたので、自分たちの手作りだ、なんて口が裂けても言えませんでした。自分たちだけでやり始めてみたら、手作りじゃないと理想通りにならないことがわかって。
業者に頼んだほうが安い場合もあるのですが、今はとにかく好きなように作るということを貫いています」

現在までに、レーベルからリリースされたカセットテープは3タイトル。8月24日には、初めてのカセットテープリリースとなるアーティスト、OBUTSUDAN-SUMINOさんの音源発売が控えている。アーティスト目線で、カセットテープというのは果たしてどんな意味を持つのでしょう?

「最初に森くんからカセットテープでのリリースを考えてみてほしい、と言われたときはピンとこなかったんですが、その後、具体的に音源のイメージを膨らませていったときに『曲と曲の間に明確な境目がなく繋がっている音源がいいな』というところに行き当たって、それこそカセットテープという形でならうまく実現できるのではないか? と。カセットテープって、早送りと巻戻しはできるけど、瞬時にトラックを変更したりとか、聴く部分を思い通りにコントロールできないじゃないですか。そういう、聴き方に制限のある音源を作りたかったんです」

自身もカセットテープ世代だというOBUTSUDAN-SUMINOさん。デジタル音源と比べて、カセットテープには形あるものとしての重みを感じるそう。


「手に取って『モノ』として聴いてもらいたい、大事にしてもらいたいっていう思いもありました。デジタルの音源は僕も便利に使っているんですけど、この半年くらいで立て続けにハードディスクが3台も壊れて、取り込んでいた音楽データが一気にほぼ0になったんです。でも、何百ギガっていう膨大な量の曲がなくなってしまったのに、あんまりヘコまなかったんですよね。だけど、たぶん同じ量のCDやカセットテープがいきなりなくなったら、めちゃくちゃヘコむと思うんです。だから、自分が作るなら、作り手としても思い入れがより深い形にして出したいなと」

しかし、カセットテープを再生できるプレーヤーを持っていないという人も多そう。お二人はそのあたり、どう考えているのでしょう。


「普段ライブを観てくれるお客さんの中にも『聴きたいのにカセットプレーヤーがない!』という方も当然いるので、初回生産盤には同じ内容のCD-Rを特典として付けることになりました。一方で『実家にカセットプレーヤー取りに帰ろう!』とか『カセットプレーヤー買おう!』という反応もあって、そういう声がめちゃくちゃ嬉しかったです」(OBUTSUDAN-SUMINOさん)

「誰もが再生機器を持っていないのはマイナスですが、本当に聴きたい人はプレーヤーを買うでしょうし、いい音楽をリリースしていれば、リスナーがちゃんとついてきてくれるという手応えはあります。実際、これまでにリリースしたタイトルでCDよりも売れているものもありますし、この先テープも自然と広がっていくと思います」(森さん)

現在の生産スタイルだと、初回に用意できる数は100~200本が限度だとか。しかし「量産はできないですが、まだまだ紹介しきれていないバンドやアーティストが全国にいっぱいいるので、これからもテープを巻き続けます!」と森さんは力強く宣言。そんな姿勢はきっと、リアルタイムでカセットテープを使っていた人たちはもちろん、カセットテープを知らない若い世代の人たちにも魅力として伝わるはず。

CDが売れない時代、それはデジタルの方向だけではなく、アナログ回帰の方向にも可能性が広がっているということ。
実際に経済産業省の統計で、音楽用、映像用、データ用を含む「磁気テープ」の国内生産量が3年連続で増加というデータも発表されている。特に東日本大震災後は、データ保存媒体としての価値が見直されているとのこと。

カセットテープには、まだまだ秘められたポテンシャルがありそう。みなさんももう一度、その魅力を見直してみませんか?
(tomoe imazu)

OBUTSUDAN-SUMINOさんのカセットテープリリースを記念して、イベントが開催されます
『どろにんげん 東京編』
日時:2013年8月25日(日)OPEN: 16:30 / START: 17:00
場所:南池袋ミュージックオルグ
チケット:前売2300円 当日2500円(ドリンク別)
LIVE:oono yuukiソロ/chanson sigeru/Qurage/キスミワコ/OBUTSUDAN-SUMINO
FOOD:サテライトキッチン
出店:雑貨屋arinko
http://doroningen.wix.com/doroningen-tokyo

『第2回ニョキニョキインタラ祭』
日程:2013年9月8日(日)
場所:南船場・地下一階[chika-ikkai]+epok
時間・料金未定
LIVE:OBUTSUDAN-SUMINO/ときめき☆ジャンボジャンボ/マッカーサーアコンチ and more...!!
PA:カトウ ミキヒロ
FOOD:ピンポン食堂
SHOP:ほぐし亭さと芋/ニョキニョキフリーマーケット
http://www.nyokinyoki-fes.net/