東日本大震災が、私たちに残した教訓の中の一つ、それは帰宅困難者の対策をとること。
2013年4月に東京都帰宅困難者対策条例が施行された。
これによって、オフィスに3日分の水や食料を備蓄することが努力義務となった。

「あの日、混乱の中、十数キロを歩いて家に帰るのは本当に恐ろしい経験でした。会社にとどまった方が安心だと思いました」
そんな経験を語ってくれたのは、内田洋行の女性社員有志で成る「プロジェクトPOTHOS」(ポトス)のメンバーたち。彼女たちは、防災について多くの意見を交わしてきた。そして、個人用防災“倉庫”の製品化に至った。
製品名は「そなえさん」。
自分のデスクの下に備える個人用防災備蓄ボックスである。

「そなえさん」について、ポトスのリーダーである、大島利佳さん、松野由香さんに話を伺った。

――「そなえさん」について教えてください。
(松野さん)「そなえさん」は1人分の水と食料を約3日分収納可能なユニットタイプ、約1.5日分収納可能なコーナータイプ、約1日分収納可能なミニタイプと、3タイプがそろっています。「そなえさん」ユニットタイプのうすい幅は、2リットル用ペットボトルの幅が基準となりました。

デスク下に「そなえさん」を置きたくても、邪魔にならないかと気になっていたのだが、実際目にしたところ、幅は薄く、デスクの奥に置けるので全く支障をきたさない。


――防災用品を備蓄している会社はあると思うのですが、個人のデスクで備蓄する考えに至ったのはなぜですか。
(大島さん)東京都は土地が高いので、集中備蓄する場所を設けられない現状があります。足元で備蓄し、いつでも取り出せることにより、問題解消につながると願ってます。
東日本大震災のとき、防災は「自分ごと」であり、会社が準備できることには限界があることを痛感しました。防災用品が備蓄室にあっても、そこの鍵を全員が持っているとは限りません。また、電気が止まっていると、エレベータが稼働しません。
高層フロアが自分の居る場所だとすれば、地下の備蓄室へと向かうため、階段を上り下りすることは一苦労です。
加えて、個人の事情によって必要なものが違います。薬、アレルギー対策、女性用品などがそうです。カスタマイズできることが必要だと思ったからです。

さっそく「そなえさん」に備蓄品を入れようとする。しかし何を入れたらいいのか分からない……。
そんな筆者のような人のために、「そなえさん」備蓄品セットと、レディースセットが用意されている。ぜひ利用していただきたい。

――「そなえさん」のデザインに工夫がありそうですが、ご説明いただけますか。
(大島さん)「そなえさん」は“かわいい顔”のデザインになっています(笑)
コーナータイプには鉄のバー、ハンドルが付いています。3.11のとき、四つんばいになるのも容易ではなく、どこかにつかまりたいと思いました。ハンドルにつかまっていただければ、少しでも不安を和らげられます。

また、前面のふたを開けるフックは、女性のネイルを傷つけないように配慮されており、簡単に開けることができます。

女性目線で作り上げられた「そなえさん」は、今回の条例施行を受けて関東で話題となった。オフィス関連用品販売店、アマゾンでネット販売されている。

南海トラフ地震はいつ発生してもおかしくないと言われている。どこに住んでいても、家だけではなく、オフィスでの防災対策、必需品を備えておくのはどうだろうか。
(W.Season)