沖縄の占領の歴史、基地問題について正面から描いたドキュメンタリー映画『沖縄 うりずんの雨』が地味なドキュメンタリー映画としては異例のヒットを続けている。
人々の関心の高さがうかがえるが、日本でも基地問題については「アメリカに返却すべきだ」という人もいれば、「中国の脅威が増えているのだから基地は安全保障上大切だ」という人もいる。
ではもう一方の当事者、アメリカ人はこの問題をどう思っているのだろうか?

「残念ながらあまり関心は高くありません」
そう言うのは同映画の監督、ジャン・ユンカーマンさんだ。前編でも触れたとおり、ユンカーマンさんは75年に沖縄に半年住んで以来、この問題に大きな関心を寄せた。自身もアメリカ人であるユンカーマンさんの母国を見る目は厳しい。
“民主主義の国“アメリカが見る沖縄 映画『沖縄 うりずんの雨』米国人監督インタビュー
映画『沖縄 うりずんの雨』。沖縄の占領・基地問題を、大田昌秀元知事を始め日米両国関係者の証言と、貴重な資料映像で正面から取り扱ったドキュメンタリー映画。岩波ホールを皮切りに、全国順次公開予定。

「アメリカ人の中には元々沖縄をトロフィー(戦利品)として考えているところがありました。基地の面積が必要以上に広いことや、基地の名前に"キャンプ・シュワブ"などアメリカ兵の英雄の名前をつけているところからもわかります」
とはいえ戦後から70年経ている。1995年の沖縄米兵少女暴行事件や、2004年の米軍ヘリ墜落事件のように完全に日本の主権を踏みにじるような事件を経て、先の知事選では完全に普天間の辺野古移設に対してNOの民意が出ている。
この民意を”民主主義の総本山”を自認するアメリカ自身はどう考えているのだろうか?

「確かに独立戦争によって生まれたアメリカはルーツの部分で民主主義を大切にする部分があります。しかし実際にはベトナム戦争、イラク戦争と民主的な手続きを経ている政権を、正当な理由なく攻撃しています」
「世界の民主主義という観点からは、シリアやウクライナなど沖縄問題よりも関心の高い問題があります。中にはエイミー・グッドマン(アメリカのリベラルを代表するジャーナリスト)のようにこの問題を取り上げる人もいますが、全体としてはとても関心は低いです。とても残念ですが、ほとんどのアメリカ人が沖縄を東アジアの安全保障という観点からしか見ていないと思います」

“民主主義の国“アメリカが見る沖縄 映画『沖縄 うりずんの雨』米国人監督インタビュー
ユンカーマン監督ポートレート3(事務所内で撮影した写真)
ドキュメンタリー映画作家、ジャン・ユンカーマン氏。高校時代留学生として1年間日本で過ごす。1975年に沖縄で半年過ごしたのが本作制作の原点となる。流暢に日本語を操り、今回のインタビューも日本語で答えてくれた。代表作に『映画 日本国憲法』など。


ユンカーマンさんは、リベラル色を打ち出して当選したオバマ大統領への失望も隠さない。
「オバマはイラク戦争やアフガン戦争に反対する立場をとって選ばれましたが、結局はジェネラル(将官たち)に向かっては何も言えませんでした」

オバマ大統領の属する民主党は、リベラル色が強いため伝統的に軍との結びつきが保守系の共和党と比べると弱い。それゆえにきちんと軍をコントロールできないというのだ。
下手に平和主義を強調すると、FOXなど影響力の大きい保守系メディアから反軍、反愛国的な弱腰(weak-on-defense)大統領の烙印を押されてしまい、南部を中心とした保守的な地域の支持を失ってしまう。

沖縄の海兵隊基地の軍事的有効性については賛否両論あるが、それとは別にアメリカの軍産複合体の都合ゆえに沖縄県民が犠牲を強いられているという構造がありそうだ。となるとこの問題を平和裏に解決することは難しいのだろうか?
「必ずしもそうだとは思いません。アメリカは当初は沖縄の返還も考えていないはずでした。それが復帰運動の高まりで返還せざるをえませんでした。それと同じで、辺野古移設に対する反対運動が続けば東京などの本土でも関心が高くなり、無視できなくなってくると思います。
実際、首相官邸前でもデモは起きていますし、人々の関心は高まっていると思います」

未来に向けてユンカーマンさんは強い希望を抱いている。と同時に私たち一人ひとりの責任の大きさについても言及するのも忘れていない。
「沖縄の問題を解決するのは我々市民の責任です。沖縄に基地を押し付けてきた本土の日本人の責任であり、そして長年基地を置いてきたアメリカ市民の責任でもあるのです」
(鶴賀太郎)