「ラオックス卓球ジャパンオープン荻村杯2016」(6月15日~19日まで/東京体育館)を観戦した際、選手が背負う大きなリュック(コネタ既出)とともに気になったこと。

それは、試合中にボールを遠くに飛ばしてしまっても、それをいちいち選手本人が拾いに行くところだ。


代わりに拾ってくれたり、他のボールを手渡してくれたりするボールボーイはいないのだろうか。
月刊 卓球王国』編集部の佐藤祐さんは言う。
「中国やドイツのリーグなど、海外の試合では時間短縮のためにボールボーイがいたり、審判がボールを渡したりするところもありますが、ワールドツアーや国内の試合では基本的にボールボーイはいませんね」

卓球の球は一つ一つ違う


オリンピック代表選手などがわざわざ自分でボールを拾いに行く姿は、ちょっと不思議にも見えるけど、なぜなのか。
「卓球では試合の前に1人ずつ、『選球所』の中で1個1個の球をまわして回転をかけ、ブレがないかなどの確認を行い、均一なものを1人2~3個ずつ選びます。もちろん試合で使用する球はどれも新品ですが、卓球の球は一つ一つ違っているので、ブレる球もあるんですよ」

ボールが飛んでしまっても、他のボールをボールボーイが渡さないのは、わざわざ選んだボールがかわってしまうとやりづらいからだそう。そのため、卓球は、テニスや野球などと違い、基本的に1個のボールが割れるまで使用すると言う。
「ちなみに、ワールドツアーや世界選手権では、毎年入札によって、どこのメーカーのボールを公式球として使用するかが決められます。
しかし、それ以外、国内の試合などでは、それぞれの選手が試合前に希望するメーカーのボールを選び、相手と合致しなかった場合には、どちらのボールを使用するかが、じゃんけんで決められます」
ボールはメーカーごとに打球感が異なるようで、日本では「バタフライ」「ニッタク」「TSP」が主流となっており、特に「バタフライ」は男子、「ニッタク」は女子に多く使用されているそう。

球をひろいながら作戦を考える


ところで、飛んで行ったボールを選手自身が拾うのは、ちょっと気の毒にも思えるが、実はこの時間にも駆け引きがあると言う。
「素早く拾いに行く選手もいる一方で、例えば福原愛さんなどは、ゆっくり歩いて行ってゆっくり拾い、ゆっくり戻ります。そうした時間に次の作戦を考えるのです。なかには、ボールを拾うフリをしながら、ラケットではじいて、さらに飛ばしたり、わざとボールを蹴ったりする選手もいます。あまりに意図的だと判断された場合には、バッドマナーとしてイエローカードなどの注意がされますが」

それにしても、自分で荷物を持って入場し、自分でビデオを撮り、自分でボールも拾う、卓球の選手たち。
試合のテレビ中継ではあまり映し出されることのない、一連の作業を淡々と静かに行う姿には、独特のカッコよさがあるのだった。
(田幸和歌子)