台湾初の国産TVアニメは同人発祥  日本モチーフ、ゆるキャラGP参戦も

台湾最大の都市・台北。テレビでは「ポケモン」や「妖怪ウォッチ」が流れ、街を歩くと「ワンピース」「ドラゴンクエスト」「ハローキティ」など、日本のアニメ・ゲーム・キャラクターがあふれています。


そんな台北の中心にあり、アニメショップやメイドカフェも並ぶ「台北地下街」には、日本人が見て、思わず親しみを感じてしまうネコのキャラクターたち「DNAXCAT」がいます。このネコキャラ、台湾史上初の国産テレビアニメーションにまでなるほどに人気なのですが、なんと、元々は同人活動からスタートしています。
日本のアニメが広く浸透しているなかで、国産の子ども向けアニメを作り続けたいと孤軍奮闘している「九藏口苗窩有限公司(DNAXCAT CO., LTD.)」を取材しました。


台湾版コミケで火がついて……人生を賭けた


DNAXCATこと「九藏口苗窩(じょうざんみゃおうお)」は、まるでぬいぐるみのように愛くるしいネコの一族が暮らす世界の物語。「猫王国」「櫻花村」「猫魔界」の3つの世界からなり、主人公の猫国王・九藏(じょうざん)は、普段はのんびりおとなしく、おいしいものに目が無い性格ですが、国の平和を乱すものは絶対に許しません。
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なんとこの主人公、モデルは九藏口苗窩有限公司(以下、九藏)のCEO・陳仲君氏本人。もともと「九藏」は、彼のハンドルネーム。
そして、主人公だけでなく、登場するネコにはすべてモデルがいて、ファンもキャラクターになって登場するという「参加型ファンタジー」なのも画期的。今年、モデルとなっているファン同士が結婚するため、作中のネコ同士も結婚するというのだから驚きです。

その根底には、もともとこのDNAXCATが、BBS(掲示板)としてスタートしたという経緯があります。九藏氏がまだ会社員だった頃、1998年に立ち上げたBBSのアイコン用に、ネコのキャラクターを自らが描き、それを物語に。現在、キャラクターはプロが描いていますが、ストーリーは今も九藏氏自らが考えています。
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1998年にBBSのキャラクターとして登場したDNAXCAT。
物語を創作して台湾版コミケ(CWT)に出品したところ人気に火がつき、2011年、家族の反対を押し切り、とうとう九藏氏は会社を設立して、DNAXCAT一本でやっていくことを決意するのです。

2012年夏には台北地下街のマスコットキャラクターとして採用され、台湾総督府法務部の子ども向け薬物使用防止キャンペーンマスコットになるといった活躍の一方で、グッズ展開も幅広く行い、今年6月27日に台湾全土のセブン-イレブンで発売されたコレクションカードは、あっという間に売切れてしまいました。
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子どもの一言がきっかけでアニメを制作


そんなDNAXCATが、台湾初のテレビアニメーションとして制作開始となったのが2013年夏。台湾では3Dアニメーションは制作されているものの、いわゆる普通のアニメは制作されていませんでした。理由は、3Dに比べて多額の費用がかかるため、制作会社も無く、技術が確立されていなかったからです。

しかし、九藏氏がクリスマスの日、子どもたちにグッズのプレゼントを配っていた際に言われた「動いているDNAXCATが見たい!」の一言で一念発起。自ら、アニメーション制作に取り組み、わずか4人のスタッフで自主制作したのです。
なぜ3Dではなく、普通のアニメにこだわったのかを聞くと、「やっぱり……アニメが好きだから」。
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制作されたアニメは、本編12分の26話。30分番組として1クールになるように作られました。するとそのクオリティの高さに、台湾の3大テレビ局のひとつ・台湾テレビ(TTV)が驚き、「ぜひ、放送したい」と話は進み、2015年8月から台湾全土でテレビ放送。その後も繰り返し再放送が行なわれています。


日本の文化との架け橋になっている


台湾国産のアニメを……という思いは、けっして日本に対抗してという意味ではありません。このDNAXCATの世界にある「櫻花村」は、桜が咲き誇り、神社があり、屋台が出てお神輿が担がれお祭りが行なわれるなど、日本がモチーフになっています。

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これは、九藏氏が京都の北野天満宮を訪れた際に見たお祭りに感化されたもので、物語の中だけでなく、台北地下街ではDNAXCATのネコキャラたちとお客さん、子どもたちが楽しむ「浴衣祭」が毎年開催されています。台湾には浴衣を着るという文化はそもそも無く、この浴衣祭では、台湾の人たちが浴衣を着て、これまた台湾には無い焼きそばを食べて、絵馬に願い事を書くという、日本文化を体験できるお祭りとなっていて、まさに、台湾と日本の文化を繋ぐ役割も果たしています。


なぜネコに瞳が無いのか


気になるのは、ネコたちに瞳が無いこと。そこにも九藏氏のこだわりがありました。

「実際の人間社会は、目と目でやりとりをしているにもかかわらず、真心で繋がっていないことが多い。瞳で平気で嘘をつく。うわべだけでなく、心と心で繋がりたかったから、あえて瞳が無いのです。」

もともと、BBSのアイコンキャラクターとして生まれた際に、心と心で繋がりたい、その思いから、あえて瞳を描かなかったことがはじまりでした。

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子ども向けの割には、絵本では、強敵による残酷な攻撃があったり、時として悲しいストーリー展開も。親の子どもへの愛、友情、そういった表現に重きを置いていることからも、九藏氏の強いこだわりを感じます。


台湾総統も期待


昨年12月、現・総統の蔡英文氏が、台湾の出版社、漫画家、アニメーション業界のそれぞれの代表を集めての懇談会を行なった際には、アニメーション業界の代表として九藏氏が出席。ネコ好きとしても知られる蔡英文氏は思わず、「九藏」と抱き合ったとのこと。CEOではなく、着ぐるみのほうの、です。
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写真提供:九藏口苗窩有限公司

かつての政権は、マンガ・アニメに関して全くの無関心だったのに対し、蔡英文氏は台湾版コミケに自ら足を運ぶなど、台湾独自のアニメ・マンガ文化の育成にも力を入れる方向に動いており、DNAXCATは台湾唯一のテレビアニメーションとして、国を挙げて今後の展開が期待されています。


今年は日本の「ゆるキャラグランプリ」に参戦!


台湾と日本との架け橋になりたいという思いは強く、今年の「ゆるキャラグランプリ2016」に海外部門で初参戦。
11月5日、6日には愛媛県松山市の会場に着ぐるみが登場、グッズ販売も行なう予定となっています。

また、現在はアニメの2期が制作されていて、今回も本編12分の26話構成。日本人も楽曲を提供しています。とはいえ、人の入れ替わりはあったものの、相変わらず4人で制作しているため、完成はなんとか来年の夏が目処とのこと。
台湾初の国産TVアニメは同人発祥  日本モチーフ、ゆるキャラGP参戦も

DNAXCATの日本語版サイトやツイッターの展開までは至っていませんが、日本で商品展開を希望するパートナー企業を募集しており、今後順次、日本向けの露出を増やしていく計画もあるそうです。
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台湾と日本の架け橋になりたい。そんな思いを抱いた台湾のネコたちDNAXCATを、日本のあちこちで見かける日も、それほど遠くないかもしれません。
(川合登志和)

※九藏口苗窩の口苗は、本来は一文字の繁体字