日本全国さまざまな温泉があるが、先日行った秋田県の後生掛温泉(ごしょうがけおんせん)は、かなりおもしろかった。入浴法がバラエティに富んでいるうえ、どれも妙にエンタメ感があるのだ。


ちなみに、正式には“ごしょうがけおんせん”と読むが、宿の人を含め、地元の人はみんな“ごしょがけおんせん”と呼ぶ。


首が並ぶ! 名物の「箱蒸し風呂」


箱から出た首が並ぶ! 個性的すぎる秋田の温泉
箱蒸し風呂

後生掛温泉は、八幡平の秋田県焼山東麓、標高1000メートルのところにある一軒宿だ。泉質は単純硫黄泉。個性豊かな7つの入浴法のうち、とくにインパクトが大きいのが、温泉の蒸気を利用した「箱蒸し風呂」だ。

箱の中に体をすっぽり入れると、箱の上に首がちょこんと出る。首だけが並んでいる様子は、知らずにいきなり見ると、ちょっとコワイかも……。

箱に入るときは少し身をかがめて入り、腰かけがわりの断熱板に座る。
薄い断熱板が何枚か入っているので、その枚数で高さを調節できるようになっている。
箱から出た首が並ぶ! 個性的すぎる秋田の温泉
箱を開けるとこんな感じ

実際に入ってみると、背中の方から出てくる蒸気に体全体が包まれ、5分もたたないうちにじんわり汗ばんできた。試しに、あごをひいて箱をのぞきこんだら、もわっとした熱気に思わず顔をそむけてしまった。首から上が出ているからこそ、長く入っていられるのだと実感。本当に気持ちよく汗をかくことができた。

女性にうれしいのは泥湯!


箱から出た首が並ぶ! 個性的すぎる秋田の温泉

めずらしい泥湯もある。泥火山の鉱泥が入っている温泉で、お湯自体も泥色だが、底にも泥が沈殿している。
泥はねっとりした触り心地。美肌効果が期待できると聞き、念入りに肌に塗り込んでおいた。温めのお湯なので長く入れるのもポイント。入浴時間は額がほんのり汗ばむくらい、15分程度が目安だそう。


入浴法はぜんぶで7種類


箱から出た首が並ぶ! 個性的すぎる秋田の温泉

このほかにも、自然の蒸気を利用した「サウナ風呂」、全身が温まる「神経痛の湯」、気泡が肌をやさしく包む「火山風呂」、そして定番の「露天風呂」や「打たせ湯」という計7つの入浴法を楽しめる。ちなみにここの「打たせ湯」は、かなりの高さがあり、気分はさながら修行僧。大浴場は天井が高く、木造りで山小屋風だ。



湯治のために1週間以上泊まる人も


箱から出た首が並ぶ! 個性的すぎる秋田の温泉

「馬で来て足駄で帰る後生掛」という言葉があるが、後生掛温泉は昔から湯治の宿としても有名だ。お風呂は共通だが、旅館と湯治で棟がわかれており、それぞれ「旅館部」「湯治部」と呼ばれている。旅館には80人、湯治部には200人まで宿泊できる。
箱から出た首が並ぶ! 個性的すぎる秋田の温泉
旅館の客室

湯治部は一年中地熱で床が温まっているオンドル部屋の個室と大部屋がある。
箱から出た首が並ぶ! 個性的すぎる秋田の温泉
湯治部のオンドル大部屋

食堂もあるが、湯治部では自炊をする人も多いという。調理場やちょっとした食品が買える売店もあった。

箱から出た首が並ぶ! 個性的すぎる秋田の温泉
炊事場

箱から出た首が並ぶ! 個性的すぎる秋田の温泉
売店

湯治部には1~2週間と長めに泊まる人が多く、リピーターが7~8割を占めるそう。60~70代以上の年配の人が多いそうだが、宿泊料金が旅館よりリーズナブルなこともあり、ときどきファミリーや学生の利用者もいるという。

1日に数回、いろいろな入浴法を楽しみ、あとはオンドル部屋でのんびりくつろぐというのは、いかにも体にいい感じがする。旅館や日帰り入浴でも十分楽しいが、いつかは湯治部にもゆっくり滞在してみたい。
(古屋江美子)