仕事あがりに気軽に寄りたくなる立ち飲み。「一杯だけ」のつもりが、思わず飲み過ぎてしまったなんてことも。
そこでふと思うのは「なんだか座って飲むより、立って飲んだほうが酔いにくいのでは!?」ということ。これはただの錯覚!? それとも立って飲むことで、体や脳になんらかの作用が働くから?

そんな疑問を解決すべく、脳科学者で『マンガで読む脳と酒』(りこう図書)の著者でもある武蔵野大学薬学部教授・阿部和穂氏に聞いてみました。
「結論からいうと、立って飲んでも座って飲んでも、お酒に対する酔い方は変わりません。酔いは、アルコールが胃腸から吸収され、血液に入って全身にまわり、その一部が脳に入り込み神経を麻痺させた時に生じます。ようするに、その酔いのレベルは、血中のアルコール濃度と神経麻痺の程度によって決まるわけです。これを絶対的酔いと定義するならば、同じ量のお酒を飲んだ場合、立っている時と座っている時でアルコールの吸収や体内分布が変わるとは考えられません。
脳神経のアルコールに対する感度も、立っていようが座っていようが同じでしょう」と核心をつくお答え!

でもやっぱり、立って飲むと酔いにくいような気がするのですが……。
「おそらく立ち飲みが酔っ払いにくいというのは絶対的な酔いからではなく、単なる飲む量やペースの違い、または感じ方の問題なのでは?」と阿部氏。

ふむふむ。例えば立ち飲みの場合、何時間も立っていること自体がしんどいため、長酒や深酒になりにくい=アルコール量がいつもより少なくなりがち。
また立って飲んでいる時と座って飲んでいる時では、脳の意識レベルにも違いがあるんだとか。実際、立ち飲みの場合には意識をしっかりさせて飲まなければ、すぐに倒れてしまいますよね。
この頭をしっかりさせている状態を「自分は酔っていない」と錯覚してしまうんだそう。

つまり、単純にアルコールの摂取量が少ないケースが多く、さらに実際には酔っているにもかかわらず、酔っていないと思い込んでしまう……などといった要因が重なり、「立ち飲みは酔いにくい」と感じやすかったのです。

さて、立ち飲みの酔い方についての疑問が解決したところで、お酒に詳しい阿部氏にもうひとつ聞いておきたいのは、飛行機内や東京ドーム内だと酔いやすいという噂について。真実はいかに!?
「たしかに、酔いやすいと感じるかもしれません。その理由としては、まず気圧が変化することで耳が遠くなる、平衡感覚が失われるなどの症状がおこりやすくなります。これらの症状が重なり、少量のお酒でも『酔った』と感じてしまうのです。
また飛行機のような狭い空間だと、人はストレスを感じやすいものです。そのストレスだけでも具合が悪くなることがあるのに、それにお酒が加わったとしたら?」
なるほど、すぐに酔ってしまうのは目にみえたことですよね。

ちなみに酔いの感じ方は、心の状態によってもかなり左右されるそう。例えば、好きな人と楽しく飲んだときと、嫌いな上司につきあわされて飲んだときでは、同じ飲酒量で「絶対的な酔い」は同じだったとしても、「感じ方」は違うんだとか。
もしも「今日はあんまり飲んでないのに酔っぱらっちゃった」なんてことがあったら、それは新たな恋のはじまりかもしれませんね!
(勝浦阿津希/プロップ・アイ)

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