最近は映画監督としての活躍が目立つ、稀代のヒットメーカー・三谷幸喜。連続ドラマの脚本家としてデビューした90年代、数々のヒットドラマを生み出しているが、中でも代表作と言えば、やはり『古畑任三郎』だろう。

その古畑を始め、90年代の三谷作品に何度も登場する「赤い洗面器の男の話」はご存知だろうか? 毎回細部は異なるが、要約するとこんな話だ。

"ある晴れた日の午後、道を歩いていたら赤い洗面器を頭に乗せた男が歩いてきました。洗面器の中にはたっぷりの水。男はその水をこぼさないようにゆっくり歩いてきます。「どうして、そんな赤い洗面器を頭に乗せて歩いているんですか?」勇気を出して聞いてみました。すると男は答えました。
「それはね……」"

様々な妨害でオチにたどり着かない!?


初めて登場したのは『警部補・古畑任三郎』。1994年のファーストシーズン「さよなら、DJ」だ。
中浦たか子(桃井かおり)が、自身がパーソナリティを務めるラジオ番組のオープニングでこの話を語っている。「この続きは番組の最後で」とオチを勿体つけたが、殺人を犯してしまった中浦は番組中に古畑に追い詰められ、オチを語る前に番組は終了してしまう。
ここから、視聴者のモヤモヤはスタートする。この話のオチは何なんだ?

続いて、こちらも名作と名高い『王様のレストラン』の第7話に登場。
レストラン「ベル・エキップ」オーナーの原田禄郎(筒井道隆)が、店を訪れた代議士たちを和ませようとこの話を披露するが、肝心のオチを忘れてしまう。
視聴者はまたもお預けを食らうことに。

さらに、『古畑任三郎』セカンドシーズンの「魔術師の選択」にも登場。
マジシャンの倉田勝男(池田成志)が、恋人の毛利サキ(松たか子)に得意気になって話す。しかも、舞台は先述の「ベル・エキップ」!この共通する世界観に、今度こその期待が高まるが……。オチを語る直前、倉田はジュースに入れられた毒によって死んでしまうのであった。
どこまで引っ張るんだ三谷幸喜!

総集編『消えた古畑任三郎』にも登場している。

刑務所を訪れた捜査員が中浦たか子からオチを聞き出そうとする。再び登場の中浦たか子、すべては彼女から始まった。遂にオチが明らかになるのか!? しかし、核心に迫ったところで看守の声が掛かって無常のタイムアウトに。
この中浦たか子は、1997年の三谷映画『ラジオの時間』にも同じくDJとして三度登場している(時系列的には逮捕前)。DVDの副音声でこの話を語っているが、ここでもオチは語られていない。

さらに『古畑任三郎』サードシーズンの「最も危険なゲーム 後編」。

テロ組織のリーダー日下(江口洋介)が古畑にこの話を振って来る。しかし、またも肝心の場面で武藤田(佐々木功)の心臓病が悪化。それどころではなくなってしまうのであった……。
また、2004年のスペシャル「すべて閣下の仕業」にも登場するが、ここでもオチにはたどり着いていない。

赤い洗面器の男」=「ズンドコベロンチョ」!?


結局、「赤い洗面器の男」にはどんなオチが待っているのだろうか? 途中までのストーリーでは受ける要素は感じられないが、古畑の世界(『王様のレストラン』&『ラジオの時間』も同じ世界)では爆笑必至の鉄板ネタのようである。こう聞くと、あのエピソードが思い出される。

『世にも奇妙な物語』の傑作エピソード「ズンドコベロンチョ」だ。

"エリートサラリーマン三上(草刈正雄)は何でも詳しい知識人。なのに、突如身の回りで流行り始めた「ズンドコベロンチョ」という言葉の意味が分からない。どうしてもその意味にたどり着けないのだ。自分以外は誰もが知っているというのに……。"

テレビの前の視聴者も、鋭い観察力と推理力を誇る古畑も「赤い洗面器の男」の話には翻弄されっぱなし。
どちらもオチなんかなく、その滑稽さを楽しむものなのだろう。
しかし、三谷幸喜自身はこの「赤い洗面器の男」にはオチがあるという。ジョークだとは思うが、ユーモアセンスに長け、どこか人を食ったような性格の彼のこと。もしかしたら、納得のオチを考えているのかも知れない。

現在公開中の最新作『ギャラクシー街道』は賛否両論というか、圧倒的に「否」が上回っている状況。乱発される「らしくない下ネタ」に長年の三谷ファンも見切りを付ける有様だ。
ならば、DVD特典として「赤い洗面器の男」のオチを紹介するのはどうだろう? 見事なオチが付くのであれば、昔のファンも戻って来ること間違いなし! 下ネタに逃げた場合は、さらなる炎上が待っているだろうが……。
(バーグマン田形)
王様のレストラン Blu-ray BOX