10日で5割の利息、通称“トゴ”の違法闇金業者を主人公に、金に振り回される人間の哀しさや愚かさ、格差社会の闇を描いた人気コミック『闇金ウシジマくん』。その直視しがたいほどのリアルさに、映像化は困難だと思われていた同作品だったが、一昨年の2010年に奇跡のテレビドラマ化。
さらに、劇場用映画が現在全国で公開中! 今回はそんな映画版『闇金ウシジマくん』公開記念として、原作者の真鍋昌平氏に映画のこぼれ話やマンガの裏話などを伺った。

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―今回の映画では、AKB48の大島優子さんが重要な役どころで出演されていますが、彼女の演技は、どうご覧になりましたか?

真鍋 うまい、と思いました。本当にいそうじゃないですか、ああいう感じのコ。状況とかキャラクターをちゃんと理解されてて、的確に演じてるなと思いました。

―そもそもAKB48はお好きなんですか?

真鍋 2本目のドキュメント映画(『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on』)、あれは感動しましたね。例えばコンサートのシーン、みんな過呼吸になって舞台裏でバタバタ倒れてるんですよ。
運動量がすごいから。あれはすごいと思いました。あと、総選挙で1位になった前田敦子さんを2位の大島優子さんが祝福するんですけど、舞台を降りた大島さんが篠田麻里子さんにもたれかかって号泣するシーンがあって、一緒に号泣しちゃいました(笑)。

―いまのアイドルブームをマンガにしてみたいと思いますか?

真鍋 一時期、地下アイドルの話をやりたいなって思って取材はしたんですけど、『闇金ウシジマくん』ではちょっと難しいでしょうね。熱量がすごすぎて。あ、でもアイドルファンの方の部屋をモデルに絵を描いたことはありますよ。
「サラリーマンくん」編(『闇金ウシジマくん』10巻~12巻)のときの板橋清の部屋がそうですね。

―あの汚部屋ですか!

真鍋 部屋を撮影させてもらった後、一緒にとんかつ屋さんに行ったんです。そこで、いくらでも好きなものを食べてくださいって言ったんですけど、キャベツだけ何度も何度もおかわりするんですよ。キャベツはおかわり自由だから、たぶんキャベツならいくら食べても俺に対して気兼ねしなくて済むと思ったんでしょうね(笑)。そういう、その人なりのプライドが見える瞬間がおもしろいですね。

―それにしても毎回ものすごい量の取材をされてますよね。
映画の舞台にもなっている出会いカフェ(男性客がマジックミラー越しに座っている女性客を指名し、女性客の出した条件と折り合えば連れ出せる、という会員制の店のこと)もかなり取材されたと思うんですが、どういうコが多いんですか?

真鍋 パチンコ屋で働いて腰悪くして、仕事できなくなったからここに来ました、みたいなコですね。外に連れ出して心付け(連れ出し料)くれって何度も何度も頼まれるんですよ。でも俺もボランティアで来てるわけじゃないし(笑)。

―あ、かわいくなかったんだ(笑)。

真鍋 あそこにいる女の人たちの下品さが印象に残ってますね。お金も食事も、おごってもらって当然というのが染みついてる感じ。
映画でもウシジマくんが未來(みこ)役の大島優子さんのことを「あいつは感謝する心を少しずつ金に替えてる」と語るシーンがあるんですけど、俺もまったく同じことを感じました。

まあ、向こうから見たらこっちは気持ち悪い金づるでしかないですから当然ですね(笑)。

―(笑)。ほかにはどんなコがいましたか?

真鍋 そういえば、整形したばっかりというAV嬢もいましたよ。顔が飽きられたから出会いカフェで売春して、そのお金で整形手術して顔を変えてまたAVに復帰するって言ってる人。なんか、思考回路がちょっと普通じゃないんですよ。
ロボットみたいな感じで。

―背筋が寒くなる話ですね。

真鍋 会話してるときも、「二重まぶたが戻らないように」って、ずーっと目を剥きながら話してて、まばたきも一切しないから、「……目、乾かないのかな」って、そればっかり心配で(笑)。小顔の手術で頬の内側も削ってるから、しゃべり方も「ほうはんへすお(そうなんですよ)」(笑)。あれはすごかったですね。なんか飲みますか?って聞いたら、「ひげひのないものへ(刺激のないもので)」って(笑)。


―いま、『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)では「洗脳くん」というシリーズを連載中ですが、そちらのほうの取材も順調ですか?

真鍋 手始めに洗脳する側のプロ、心理学の教授や占い師に会ってきたんですが、おもしろかったですね。特に、この前お会いした苫米地英人先生はすごかった。取材の後半で「今度、某大企業を買収するから」みたいな話になったんですけど、何か協力できることがあったら言ってくださいって自然に言ってましたから(笑)。そんなの荒唐無稽な話じゃないですか。でも、そのときは「苫米地先生ならできる!」と思わされちゃったんですよね。

―催眠術にかけられた感じですか?

真鍋 最初にご挨拶したとき、サッと手を出されて、握手かな、と思ってその手を握ろうとしたら、上によけられたんですね。一瞬、あっけにとられて固まっちゃうじゃないですか。そしたら「いま、君が動けなかったのは、俺が君のことをコントロールしてるからだよ」って。

そのひと言で、もう心を縛られちゃった感じでしたね。今はマインドコントロールされる側、占いやオカルトにハマってる女性たちに会ってます。彼女たちに共通している不安感、欠けてる部分を集めて、いまのシリーズの主人公である、まゆみというキャラクターに集約できたらいいな、と思っています。

―そもそも洗脳を描こうと思ったのはオセロ中島知子事件がきっかけですか?

真鍋 そう言われちゃうからやめよう、っていう話もあったんですよ。本当は去年、「生活保護くん」編(『闇金ウシジマくん』24巻~25巻)の前に描く予定だったんです。そもそものきっかけは、最近やんわりした話が続いたから、ここらでガツンとしたものをやりたいという、ただそれだけの話です。だから、おそらく、いままででいちばんイヤな話になると思います。

―前回の「生活保護くん」編では連載中に芸能人の生活保護の問題が社会問題化したじゃないですか。この「洗脳くん」編も、連載の途中で占い師絡みの、何か大きな事件が起こるかもしれませんね。

真鍋 あるいは俺自身が占い師と共同生活始めてるとか(笑)。

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取材を終えて、プロフィール写真の撮影を雑踏の中で撮ることにした。繁華街のガードレールに腰をかけてネーム(マンガの下書き)を切ることもあるという真鍋さんに、その姿を再現してもらった。いつかどこかの街で、こうしてマンガを描いている真鍋さんを見かけることがあるかもしれない。その姿を見かけた者は幸運だろう。ただし、すぐに回れ右をして、立ち去ることをおすすめする。おそらくそこはウシジマくんたちが獲物を待ち構えている街なのだから。

(取材・文/島田文昭 撮影/五島昌紀)

●真鍋昌平(まなべ・しょうへい)


小学生の頃に『ドラえもん』を読んで感動し、マンガ家を志す。1993年、『ハトくん』でデビュー。2004年より『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて『闇金ウシジマくん』を不定期連載。底辺に生きる人間を圧倒的に描く同作が「一巻読み切るだけでドッと疲れる」と話題に。10年10月ドラマ化。現在、映画公開中

■映画『闇金ウシジマくん』


累計発行部数600万部の『闇金ウシジマくん』(原作:真鍋昌平)が映画化。監督は、映画『カイジ』シリーズ、『ひみつのアッコちゃん』などを企画プロデュースした山口雅俊。主人公・丑嶋馨を山田孝之、ヒロイン・鈴木未來をAKB48の大島優子が演じる

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